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浦和学院初V、県勢45年ぶり 仲間と出した満点の答え

 第85回選抜高校野球大会最終日は3日、兵庫県西宮市の甲子園球場で3万人の観衆を集めて決勝を行い、浦和学院が済美(愛媛)に17-1で大勝し、春夏を通じて初優勝を飾った。県勢の優勝は1968年、第40回大会の大宮工以来、45年ぶり2度目。

 3年連続9度目の出場だった浦和学院は、打線が爆発し18安打17得点。投げては左腕エース小島が8安打を許しながらも要所を締め、1失点完投した。

 序盤は済美にペースを握られた。二回、2死二塁からタイムリーを許し1点を先制され、打線は今大会ナンバーワン右腕の済美のエース安楽に四回まで無得点に抑えられた。

  しかし、五回に自慢の強力打線が目覚めた。先頭の斎藤が右前打、続く西川の中越え二塁打で無死二、三塁とすると、小島が左前タイムリーを放ち3連打で同点 に追い付いた。その後2死満塁から、主将の山根が2点中前適時打を放って逆転。ここから高田、木暮の連続二塁打と斎藤、西川の連打など、この回打者12人 の猛攻で8安打7得点し、試合を決めた。八回にも3番手の投手から大量点を挙げた。

 5試合連続の先発となった2年生エース小島は立ち上がりからピンチの連続だったが粘りの投球で打線の爆発を呼び込み、2試合連続の完投勝利。尻上がりに本来の制球力が復活した。

  県勢は大宮工が全国制覇を果たした後、1993年に大宮東、2008年には聖望学園が決勝進出したが、いずれもはね返された。浦和学院は史上初の関東大会 3連覇の看板を掲げ、3回戦から4試合連続2桁安打、2桁得点も3試合と、「東の横綱」の名にたがわぬ戦いぶりで紫紺の優勝旗を手にした。

◇仲間と出した満点の答え

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優勝旗を先頭に場内一周する浦和学院の選手たち=3日、阪神甲子園球場

 “心”を磨き続けてつかんだ悲願の日本一だった。

 自己責任と仲間意識―。

 指揮官が唱え続け、ナインが答えを求め苦しみ抜いた今チームのテーマが、高校野球の聖地・甲子園という大舞台で結実。森ウラガクの全員野球が、満開の花を咲かせた。

 野球はあくまで個人技のスポーツで、それを結集したのがチーム。各自が責任を果たしながらも、仲間に対して思いやりを持たないとチームとしては成り立たない。

 昨秋の関東大会で史上初の3連覇を達成した浦和学院ナイン。森監督は、チームのさらなるレベルアップを期待し、「選手に自立を促し、一人一人を強くしたい」と、昨年11月の明治神宮大会後の約2カ月間、現場をコーチと選手に任せ、ほとんど指示を出さなかった。

  だが今年1月末。竹村、高田、山根ら昨年の甲子園経験者が数多く残っていながら、春に向けて種をまかなければいけない最も重要な時期にもかかわらず、なか なかチームは一つになれなかった。森監督は「昨年のチームは束になったら頼りになったけど、今のチームは束にもなれていない。『関東チャンピオンのプライ ドに懸けて甲子園で優勝する』とは、口が裂けても言えない」と漏らしていた。

 「一生のドラマを2時間に凝縮したのが野球」と よく口にする森監督。技術うんぬんよりも人と人との心の触れ合いを大切にすることが原点にある。だからこそ自覚のない行動をした選手や、仲間の思いに応え られない選手はユニホームを着させてもらえなかった。チーム全体で練習させてもらえない日も多く、身の回りの掃除や話し合いだけで一日が終わったことも あった。

 その中でもナインらは「自己責任とは?仲間意識とは?」と自問自答を繰り返しながら毎日毎日、苦しんで苦しんで答えを導き出そ うとしていた。竹村は「ボール拾いや道具磨きなど、サポートしてくれる人の身になり、感謝の気持ちを忘れては駄目だと思いました。練習させてもらえずつら かったが、技術以外でなく人間形成を見直すきっかけになりました」とチーム全員の思いを代弁する。

 森監督は22年目の監督生活で初めてメンバーの半数以上を選手間の投票で選んだ。全員がチームに対し、人ごとだと思ってほしくない、チームは自分たちでつくり上げていくものだ。そんな熱い思いにナインも徐々に応えていった。

 北照(北海道)との準々決勝がチームとしての成長ぶりを最も象徴していた。

 一回に走塁ミスした贄(にえ)をカバーするように高田が2ランを打てば、五回にサインミスした小島を助けようと、今度はその贄が三塁打を放ち、追加点を奪った。小島も7回を無失点に抑えた。試合後、高田は「仲間のミスは自分がカバーしようと思った」と誇らしげだった。

 そして、決勝は0-1の五回に積極的にかつ、各自が決めた球を狙い打って8安打7得点で栄冠を手繰り寄せた。

 「自分の責任を勇気を持ってチャレンジしながら、思いやりを持って仲間を助けようという部分がプレーの中に凝縮されてきた。今大会で成長し始めましたね」

 ナインが甲子園でプレーを通じて示した可能性は、指揮官の言葉以上に雄弁だったのかもしれない。

◇剛腕攻略し初の頂点

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優勝旗を持ち列に戻る浦和学院の山根主将(左端)

 こんなにも、格好良すぎる初優勝の仕方があるだろうか。

 浦和学院が済美を18安打17得点で圧倒し、エース小島も1失点で完投。まさ に全国の頂点に立つにふさわしい堂々たる戦いぶりで悲願の日本一を手にした。インタビュー台に立った森監督は「本当にうれしいのひと言。選手がよくやって くれました。夢のよう」と、聖地に降り注ぐ歓声を心地良さそうに浴びていた。

 二回に小島が2戦連続で1点を先制される嫌な展開。頼みの打線は今大会ナンバーワン右腕・安楽の前に四回まで2安打と攻めあぐねていた。

  それでも五回。小島が2死二塁から4番安楽をこの日最速の135キロの直球でバットを空を切らせ今大会唯一のガッツポーズを決めたその裏、決勝の舞台で硬 さの見られたナインを森監督が「いい投手だからこそ見てたら打てないぞ。積極的に振っていこう」と激励した。その直後だった。6番斎藤の右前打を合図に、 浦和学院の強力打線が剛腕に襲い掛かった。

 続く西川は森監督の打てのサインに応え、中越え二塁打で無死二、三塁。ここで小島が粘ってスライダーを左前打で1―1と追い付いた。なおも無死一、三塁から三塁走者西川が飛び出しタッチアウトとなり、チャンスはつぶれたかと思われた。

 しかしここで終わらないのが、今大会の浦和学院だ。敵失、死球で2死満塁を築くと、3番山根は初球の139キロの真っすぐを中前にはじき返し2点を勝ち越 し。さらに高田、木暮の連続二塁打と斎藤、西川の連続中前打で4点を追加。この回、打者12人で8安打7得点と、圧巻の攻撃力で一気に試合を決着させた。

 山根から西川までの5連打のほとんどが、ファーストストライクをはじき返したもの。各自で狙い球を絞り、確実に仕留めるしたたかさが好調な打線を支えた。 決勝打の山根は「前の打席で詰まっていたので必ず直球がくると思った」と力を込めれば、指揮官も「勇気を持ってスイングしたことが好結果につながった」と うれしそうだ。

 その後も8点を加えるなど4試合連続の2桁安打に3度目の2桁得点。全5試合に先発の小島も2失点以上した試合はなかっ た。背番号1は「夢みたい」と優勝に半信半疑の様子だが、昨秋に時折顔を出したもろさを解消し、聖地で見せたたくましさ。浦和学院ナインが最高の形で “春”の集大成を飾った。

◇エース小島「夢みたい」

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5回表、済美2死二塁、ピンチに済美の4番安楽を三振に打ち取り、雄たけびを上げる浦和学院のエース小島

 左腕が投じた128球目。大きな飛球が左翼手・服部のグラブに収まると、背番号1は一塁側に向かって両手を突き上げた。浦和学院の2年生エース小島が2 試合連続完投で優勝投手の称号を得た。「夢みたい」。バックを守る先輩たち、ベンチの仲間たちとマウンド付近で抱き合い、全国制覇の瞬間をかみしめた。

 「決勝の雰囲気にのまれた」と、立ち上がりは球が高めに浮きピンチの連続。二回2死二塁で先制適時打を浴び、さらに連打で一、三塁。序盤は直球が主体だっ たが、ここで変化球を織り交ぜ、済美の1番山下を二ゴロに打ち取った。四回無死二塁のピンチも連続三振で走者を進めさせない。

 一番の見 どころは五回だ。1死からこの日最初の四球で走者を背負い、2死二塁となって打席には、同学年で4番でエースの安楽。初球で内角をえぐり、2ボール2スト ライクから内角高めに135キロの直球を投げ込んで空振り三振に仕留めた。見たことのないガッツポーズも飛び出し「うれしかった」とはにかんだ。

 直後に味方が無死二、三塁の好機をつくると自ら打席へ。安楽の変化球を捉え、三遊間を抜く同点打を放った。「何とか取り返したかった。安楽君も戦っているし、自分もしっかり戦おうと思った」。エース対決で勝ち、打席でも勝った。

  5試合連続先発で初の2連投。通算580球を投じ、42回で3失点と抜群の安定感を見せた。それでもまだ「連投で内に投げ切れなかった。気持ちの面でまだ 弱いところがある」と話す。その姿勢がある限りまだまだ伸びる。「優勝の自覚がない」と照れる16歳左腕は日本一の高校生投手だ。

◇大舞台で成長の証し 木暮

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5回、左中間二塁打を放つ木暮

 「優勝の実感はないけど、森先生や仲間に感謝の気持ちでいっぱい。支えてくれた人たちに恩返しができました」。浦和学院の5番木暮はベンチ前で人目もはばからず号泣した。初優勝に大きく貢献する2安打3打点。強力打線の中軸として申し分ない働きを見せた。

 五回、山根、高田の連打で5点目を挙げ、なおも2死二塁。「2人は直球を打ったので変化球を狙った」と2球目に来た待ち球を左中間に運んだ。六回にも2死満塁で今度は直球を中前にはじき返し、2者を迎え入れた。

  昨春は2年生レギュラーとして選抜ベスト8に貢献。昨秋からは中軸を担った。元から直球には強かった半面、変化球打ちを課題としていた。冬季にはマシンを 相手に変化球を右方向に打ち返す反復練習。ティー打撃から浮いた球を投げてもらい「今大会で変化球を長打にできたのは成長」と弱点の克服を果たした。

 「あくまで目標は夏の日本一。夏またここに帰ってきて日本一になれるように頑張りたい」。背番号3は涙を拭いた晴れやかな顔で、最後により一層の恩返しを誓った。

◇逆転劇お膳立て 前日の汚名返上 斎藤

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右前タイムリーを放つ斎藤

 五回、浦和学院の猛攻の口火を切ったのは6番斎藤だ。先頭で初球のカーブを右前へ。「1打席目はカーブに泳いで打てなかった。2打席目は切り替えて仕留 められた」。小島の適時打で同点の本塁を踏むと、この回再び回ってきた打席で中前適時打を放ち、一挙7得点の逆転劇を完成させた。

 前日の準決勝。三塁でけん制に刺されて好機をつぶし、挽回を期していた。「負けるんじゃないかと思ったが、チームは勝てた。決勝は気持ちを切り替えてしっかりできてよかった」と喜んだ。

 ◇4戦連発逃すもあわやの一打 高田

 「入学した時から目標だった日本一を実現できた」。今大会で3本塁打を放ち、強打者として一躍名をはせた高田は感慨深げ。本塁打のことよりチームの勝利にまい進し続けた。初優勝の中心には4番がいた。201304040708

 済美バッテリーの警戒が強まる中、高田の打撃はとどまることを知らない。五回2死二、三塁で、「しっかりと引き付けることができた」と左越えに2点適時二塁打。安楽に対しても「同じ高校生。意識し過ぎず戦いたい」。誰が来ようと持ち味のフルスイングを貫いた。

 タイムリーを放つとベンチに向かって控えめなガッツポーズ。プレーを通じ「感動を与えたい」との思いは見ている人に伝わったはず。だが、「もっと力を付ける必要がある」とおごらず、向上心を抱く。どこまで進化するのか楽しみだ。

 ◇エース小島を攻守で支える 西川

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4安打固め打ちの西川

 西川が決勝4安打の固め打ち。1点を追う五回無死一塁で「バントだと思った」が、サインは打て。準決勝では2安打と当たっていた。3球目をたたいた打球 は中堅の頭上を越える二塁打を放って無死二、三塁。強攻策がはまり、大量点の足掛かりを築いた。打者一巡し再び巡ってきた打席でも中前打を放った。

 「打撃と守備では切り替えている」としながらも、エース小島を辛抱強くリード。「球威は悪くなかったが、抜けていたり、甘くなったところもあった」と出来を考慮しながらミットを構え、優勝投手へと導いた。

◇流れ呼ぶ主将の一打 山根

 主将・山根のバットが、浦和学院を優勝へとかじを切らせた。済美の安楽から値千金の逆転打。「うまく打てた」と納得の一打が生まれると、チームメートはせきを切ったように猛攻劇を演じた。

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5回表、浦和学院2死満塁、山根が勝ち越しの中前適時打を放つ

  同点に追い付いた五回、2死満塁と絶好のチャンスで打席が巡ってきた。前の2人は敵失と死球の幸運な形で出塁。「ピンチで力んでいるようだった」とマウン ドの安楽の姿を冷静に観察していた。初球139キロの直球を振り抜いた。快音を残し、地をはうかのような鋭い打球は中前で跳ね、2人が生還した。

 試合の局面とも言える場面ながら1球で仕留めた。度胸が据わり頼れる男だ。注目された本格派右腕との対戦も「連投の疲れか球がきていなかった。終盤勝負だと思っていた」。無得点に終わった序盤の攻撃にも浮足立つことはなかった。

 周囲の目は大会3本塁打の高田にいったが、山根は5試合全てでヒットを記録。大会最多安打にあと1本に迫る通算12安打。初戦の土佐戦では終盤に試合を決める2点適時打を放っている。全てはここから始まった。

 決勝では2度のビッグイニングを築いた。「どんなに点差があっても足りないと思っていた」と山根。明治神宮大会の春江工戦で5点のリードを逆転され敗戦。このことを引き合いに出し、攻撃の手を緩めなかった。自身も八回に2安打を放っている。

 春、夏、春と3度目の甲子園出場でつかんだ優勝旗。新しい歴史を刻んだ仲間たちを前に「みんながキャプテンです」と言った。だが、春夏連覇の偉業へ挑戦権を手にしたチームを引っ張っていくのは、紛れもなく主将の山根だ。

◇尽きぬ情熱で悲願 森監督、歓喜の胴上げ

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初優勝を果たし、ナインに胴上げされる浦和学院・森監督

 「夢のようですね」。初優勝の余韻に浸るように発した第一声には22年分の思いが、たっぷりと詰まっていた。悲願達成の瞬間を「この試合を1分1秒でも長く楽しみたいなと思っていた」と、かみしめていたという。

 旧浦和市出身。上尾高-東洋大では投手を務めていたが、背番号は付けられず。「プレーヤーとしては失敗作。その失敗した経験を生かして野球に恩返しができれば」。指導者を志した原点だ。

 情に厚い性格で「野球というスポーツが大好きで、野球に携わる人も大好き。周りに人がいて野球ができる。仲間の喜ぶ顔を見るのが幸せ」と屈託のない笑顔を見せる。

 27歳で初出場してから21年。甲子園でなかなか勝てない時期もあった。それでも「負けてきた数も財産。過去は変えられない。未来は変えるよ」。昨年、こんなことを言っていたのを思い出す。

 上尾高で学んだ恩師・故野本喜一郎監督の、技術よりも人と人との心の触れ合いを大切にする野球が、現在でも深く胸に刻まれている。「選手たちの気持ちに負けたくないって、今でも思う」。衰えない野球への情熱が新たな道を切り開いた。

 大の風呂好きで、サウナと水風呂を3セットは繰り返す。長男、次男とも浦和学院でともに甲子園に出場した野球一家。その中でも「陰ながら支えてくれた家内には感謝してます」。長年苦労を分かち合った志奈子夫人(52)に言葉を贈った。

◇OB喜びの声

▽刺激を受けた 埼玉西武・坂元弥太郎投手

 とにかく(選手が)楽しそうにやっていた。僕らは出るだけで緊張した。優勝はなかなかできるものじゃない。あらためて刺激を受けた。OBの僕も頑張らなくちゃいけない気持ちになった。

▽偉大なこと 広島・大竹寛投手

 悲願の優勝で本当に良かったです。おめでとうございます。大変難しいこと、偉大なことだと思う。OBとしてもうれしいです。

◇森監督の妻・志奈子さん 支え続け迎えた歓喜

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スタンドから声援を送る森士監督の妻志奈子さん=3日午後、甲子園球場

 初優勝を果たし、「日本一」の監督となった浦和学院の森士監督(48)。その名将を陰で支えたのが、妻志奈子さん(52)だ。

 監督生活22年目。グラウンドでは熱心に選手を指導する森監督。選手への愛情は強く、「親から預かった大切な選手。父親のように接していますね」と志奈子さんは話す。

 グラウンドでは選手や野球と真剣に向き合う森監督も、家に帰るとほとんど野球の話はせず、洗濯をしたり、風呂洗いもする「普通の父親」という。2人の息子も立派に育てあげた。

 チームは一時、甲子園に出ても勝てない時期が続いた。そんなときも、森監督は家で表情には出さず、愚痴や弱音もはかなかった。ひたすら耐える夫。妻は「野球の神様は、越えなきゃいけないことがあると言っているのでは」。そう言って励まし続けた。

 決戦前夜、宿舎で会話を交わした森監督と志奈子さん。「ここまで来ることができた。ありがとう」。妻に感謝の気持ちを伝えた森監督。志奈子さんは「まだ一日早いわよ」。

 この決勝をアルプススタンドで観戦した志奈子さん。選手の父母らと共にメガホンを振り、大きな声で声援を送った。そして迎えた歓喜の時。「おめでとう」の言葉と共に、目に熱いものが込み上げてきた。

 「お疲れさま。家でゆっくり優勝をかみしめたいですね」と労をねぎらう。特別なことはあまりしないというが、魚などの和食料理が好きな夫のため、「タイでお祝いしようかな」と笑顔を見せる。

 そして、前日に言うことのできなかった言葉を伝えるつもりだ。「声をからして声援をしてきたかいがあった。ここまで連れてきてくれてありがとう」。そして「夏もまた連れてきてね」と。

◇「やり通す姿勢学んだ」

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4強入りした21年前の選抜高校野球大会の記事を見ながら、母校の初優勝を喜ぶ石附篤彦さん=3日、東京都中央区

 「目頭が熱くなりましたね」。浦和学院が選抜高校野球大会で初めて4強入りした21年前、「5番、三塁手」として活躍した会社員石附篤彦さん(38) は、街頭のテレビ中継で優勝の瞬間を見届けた。母校が現役時代以来2度目の準決勝に臨んだ2日は、一人息子の龍陛さん(12)と2人で、甲子園球場のスタ ンドから応援。決勝は仕事の都合で行けなかったが、後輩たちが悲願を達成してくれた。

 当時は森士監督が就任した最初のシーズン。「年齢 が近かったせいか、兄貴みたいな存在だった」と懐かしむ。石附さんは卒業後、三菱重工横浜で4年間プレーして引退。現在は東京都内の会社で働く。「先生 (森監督)からは、何事にも集中して取り組むことを学んだ。校歌に『貫けひとつ わが道を』とあるけれど、自分が決めたことをやり通す姿勢は、今でも生き ている」と感謝を忘れない。

 毎年、同じ三塁手の後輩たちが最も気になるという。今大会は、4番の高田涼太選手が3試合連続本塁打を放つなど、大暴れした。石附さんは、「ものすごい選手ですね。バッティングも守備も超一流で、私はとてもかなわない」と手放しで誉めちぎる。

  野球部のころの仲間や恩師は、石附さんにとっては掛け替えのない財産だ。今でも時々、グラウンドを訪問するなどしている。「今週末にでも、先生たちを祝福 しに行きたい」と目元が緩む。チームは今後、全国のライバルから目標とされる。「埼玉のチームがまだ成し遂げていない、夏の甲子園優勝を実現してほしい」 とエールを送った。

◇白板に得点記入 手作りでエール さいたま市緑区役所

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試合状況を速報するホワイトボードに得点を書き込む職員=緑区中尾の緑区役所

 浦和学院の地元、さいたま市緑区役所は、庁舎内にテレビを置いたパブリックビューイング(PV)実施を3日朝、急きょ決めた。試合中は、総務課職員がホ ワイトボードに得点を記入。勝敗が決まると庁舎入り口に浦和学院の優勝を祝うメッセージを掲示するなど、手作りでの応援体制となった。中川晴美区長は「本 当にうれしい。チーム力が素晴らしい」と感心しきり。庁舎内での写真展の実施などに意欲を見せていた。

 結果を知った市民は、大量得点に驚き、快挙を喜んだ。入籍の手続きに訪れていた会社員の長谷川大悟さん(27)は元高校球児。浦和学院とも練習試合の経験があるといい「優勝できて良かったです。記念になりますね」と妻理恵さん(27)と笑顔を交わした。

 同校野球部の中村要コーチの娘真子ちゃんにバレエを教えているという小栗直子さんは「選手はもちろんえらいけれど、サポートする側も大変だったはず。帰ってきたら苦労をねぎらいたいですね」と監督、コーチ陣を気遣っていた。

◇市役所本庁舎などに横断幕

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さいたま市役所に掲げられた横断幕=3日

 浦和学院優勝を祝し、さいたま市役所本庁舎や埼玉高速鉄道(SR)の浦和美園駅、東川口駅で3日夕、横断幕が掲げられた。JR浦和駅と南浦和駅でも4日に掲示する予定。

 さいたま市では長さ10メートルの横断幕を庁舎南側4階の手すりに設置。横断幕を急きょ発注したスポーツ振興課は「市民ぐるみで優勝を祝し、スポーツの街、さいたま市を盛り上げていきたい」と語った。

 ◇「足元を固めて歩んでほしい」 元大宮工の品川さん

 大宮工業高の選抜高校野球優勝メンバーの1人、品川和男さん(62)=さいたま市大宮区=は「45年ぶりにやっとやってくれた。県勢2校目の優勝という 悲願がかなってうれしい。肩の荷が下りた気がする」と喜びを語った。45年前の優勝を伝える記念碑をOB会が昨年、同校に建てた矢先の優勝で「偶然にして も面白い縁を感じる」とも。

 当時2年生の品川さんは控え捕手として背番号14を付けベンチ出場。「自分たちはワンチャンスを生かし1点差でやっと勝つ試合ばかりで、ハラハラし通しだった。浦学はすごい打力で素晴らしい」とたたえた。

 当時、凱旋した同校野球部は、建ったばかりの真新しい大宮市役所(現大宮区役所)から県庁までパレード。「オープンカーに乗って天にも舞い上がる心持ちで、自分たちに何が起こったのか分からないくらいだった」と当時を振り返る。

 品川さんはその後、1級建築士となり現在も建設業界で活躍。浦学ナインに対し「人生は長く、まだ一歩も踏み出していない段階。舞い上がらずに足元を固めてしっかり歩んでほしい」と激励した。

◇打撃すごかった 半波和仁さん

 (1986年、強打・浦和学院のスラッガーとして夏の甲子園4強)

 「優勝おめでとうございます。今回のチームの打撃は、僕らの時の打線とは比べものにならないくらいすごかった。夏もあるので、また一つ大きくなって頑張ってほしい」

◇浦和など3駅で本紙が号外配布

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「浦学初V」の号外を受け取る市民ら=3日午後4時45分ごろ、さいたま市浦和区のJR浦和駅西口

 埼玉新聞社は浦和学院優勝を受けて号外を発行、3日夕方、JR浦和、大宮、東川口の各駅で配布した。

 さいたま市浦和区のJR浦和駅では午後4時半すぎ、「浦学初V」と見出しを付けた号外を社員が配った。号外を手にした駅利用者は喜びを分かち合っていた。

 同区の70代の自営業女性は「最高にうれしい。チームワークの良いチームだった」。市内に住む女子中学生のグループも「家族で応援していた。浦和の誇りです」と盛り上がった。

◇選手に「おめでとう」 スタンドドキュメント

 歓喜のスタンドに、笑顔と喜びの涙があふれた―。第85回選抜高校野球大会最終日は3日、甲子園球場で決勝を行い、浦和学院は済美(愛媛)に17-1で 大勝し、初優勝を飾った。チームカラーの赤色に染まったスタンドは、悲願達成にお祭り騒ぎ。偉業を成し遂げた選手たちに「おめでとう」の声が飛んだ。

【午前9時半】闘志を秘めた選手たちが球場入り。決戦を前に、引き締まった表情を見せる。

【同 10時】スタンドが開聞。バス計19台、生徒、OBら約1200人が続々とアルプススタンドに現れた。浦和学院の卒業生で和光市の大学生大室勇人さん (28)は「全力を出し切ってくれれば」。野球部OBで、息子も浦和学院野球部員の本多勝さん(38)は「日々やっていることを出して、悔いのないよう に」とエールを送る。

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優勝の瞬間、応援団長で野球部員の池ノ上大貴選手(中央)を中心に喜びを爆発させるスタンドの応援団

【午後0時半】試合開始のサイレンが鳴り響きプレーボール。一回の守備に散る選手たちにスタンドからは「頑張れ」の声。

【2回表】済美に先制を許す。「あー」とため息が漏れるが、すぐに「ドンマイ」「切り替えて」と後押し。

【2 回裏】二死一、三塁と同点の好機をつくるが、点を奪えず重苦しいムード。それでも、安打を放った西川元気捕手の父親孝さん(41)は「(安打を)1本打つ と、リードにもいい影響が出る。投手の小島和哉君が要求通り投げてくれるし、守備もしっかり助けてくれる」と期待する。

【4回表】無死二塁のピンチも、連続三振と遊ゴロで追加点を許さず。遊ゴロをさばいた竹村春樹遊撃手のプレーに、浦和学院ナインが東日本大震災後に交流を続ける宮城県石巻市の中学1年阿部鳳稀君(12)は「かっこいい」と目を輝かせる。

【5 回裏】今大会屈指の右腕、済美のエース安楽智大投手に抑えられていた打線が大爆発。3番山根佑太中堅手の中前2点適時打や4番高田涼太三塁手の左越え2点 二塁打など、打者一巡の猛攻で一挙7得点し逆転した。点が入るたびにスタンドはお祭り騒ぎ。「これは勝てるぞ」の声も飛び出す。

【6回表】自らのバットで同点打を放ち、マウンドに上がる小島投手。先頭打者に二塁打を許すも、スコアボードにはしっかりゼロを刻む。「守りに入ったら駄目。攻めていけば大丈夫」と父浩行さん(52)も力が入る。

【8回裏】この試合2度目となる打者一巡の猛攻で8点を追加。勝利を確信する。「よーし」と拳を突き上げる人も。スタンドのボルテージは最高潮に達した。

【9回表】二死走者なし。優勝まであと一人に迫ると、感極まり、泣き出す人の姿も。小島投手が最後の打者を左飛に打ち取りゲームセット。スタンドの中の笑顔がはじけ、隣の人と抱き合って喜びを爆発させた。

【同 3時5分】閉会式で、主将の山根中堅手が紫紺の優勝旗を受け取る。「僕たちが成し得なかったことをやってくれた。おめでとうと、ありがとうと言いたい」。 森監督就任1年目で初出場した1992年の選抜大会で4強入りしたメンバーの林友之さん(38)はナインをたたえる。当時エースだった染谷慶太さん (38)は「今日は優勝の喜びに浸ってほしい。そして夏また戻ってきて、一回りも二回りも成長した姿を見せてほしい」と後輩たちの活躍に、目を細めた。

◇誇らしげ 笑顔輝く 留守部隊、偉業に大興奮

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相手を圧倒する大量得点に、甲子園球場のアルプススタンドに負けない喜びを爆発させる留守部隊の生徒ら=3日午後、さいたま市緑区代山の浦和学院高校

 「夢みたい」「さすが浦学!」―。県勢の45年ぶり2度目の全国制覇に、さいたま市緑区代山の浦和学院高校“留守部隊”も沸いた。初の決勝進出でさらに 生徒を甲子園へ送り込み、食堂に集まった生徒は約60人。準決勝時140人の約半分だが、熱気は前日を大きく上回り、教職員と合わせた約130人が待ちに 待った勝利の瞬間に歓喜した。

 連日の留守応援となった3年の谷川有羽美さんは「超うれしい。最初失った流れを見事に奪い返した。最高」と満面の笑み。大量得点の初優勝に、同じく諏訪佑菜さんからは「さすが浦学!」と誇らしげな笑顔がはじけた。

  1点を奪われた直後、「今の浦学なら大丈夫。高田涼太三塁手が打つ」と話していた3年の高橋広夢君は五回の7得点の猛攻に、「高田選手の打球はもう少しで 本塁打。惜しかったけど、これだけ得点してくれれば期待通り」。3年の高橋啓之君は「もっともっと打ってほしかった」と興奮冷めやらない様子で、同じく徳 竹洋介君は「この調子で夏も優勝してほしい」と期待を膨らませた。

 準決勝も食堂で応援した3年の黒沢和貴君は「まさか17点も取るとは。得点後の盛り上がりが半端じゃない。楽しかった」とうれしそう。国語を担当する坂本恵里教諭(24)も「圧勝で全国制覇は一層うれしい」と選手の健闘をたたえた。

  創部当時を知る増岡初味広報渉外部長は「夢みたい。鍛えた技術と、先制されても自信を失わない心の強さがあった」と会心の笑み。教職員らの後方で見守るよ うに応援していた野球部初代監督の栗野拓哉教諭(57)は「すごいの一言。創部当時は市内大会でやっと優勝できるレベルだった。五回は一度好機を失ったか に見えたが、狙い球の指示の的確さと、忠実に結果を出す選手が光った。重圧もあったと思うが、すごいチームだ」と感慨深げだった。

◇浦学、投打で安定感 大会総評

 浦和学院は計59安打47点の打撃力を軸に初優勝をつかんだ。3試合連続本塁打を放った高田や山根らの勝負強さが光った。さらに、左腕小島の安定した投球、5試合で1失策の堅守とバランスが取れていた。

 済美(愛媛)は決勝こそ大差になったが、競り合いに強かった。2年生エース安楽は試合終盤でも150キロを超える球速をマークし、逸材ぶりを示した。

 ベスト4の敦賀気比(福井)は1試合2本塁打の山田や喜多を中心にした強力打線が印象的。高知は酒井-坂本優の継投で38年ぶりの4強入りを果たした。

 昨秋の明治神宮大会を制した仙台育英(宮城)は随所に力を見せたが、ベスト8で敗れた。史上初の3季連続制覇を狙った大阪桐蔭は主力にけがが相次ぎ、力を出し切れず3回戦で敗退した。

 投手は昨年に比べて小粒ながら、8強に入った県岐阜商の藤田と聖光学院(福島)の石井や済々黌(熊本)の大竹ら左腕に好投手が多かった。

  東北勢は「東北絆枠」の山形中央など史上最多の5校が出場し、4校が初戦を突破。東日本大震災で被災した21世紀枠のいわき海星(福島)は、同じ21世紀 枠の遠軽(北海道)に初戦で敗れたが、はつらつとしたプレーだった。20年ぶりの土佐(高知)は伝統の「全力疾走」できびきびと動き、観客を沸かせた。

 走者が相手選手に激しく接触するプレーで、監督が厳重注意を受けた試合があった。本塁打が20本に達した一方で、延長戦は1試合、サヨナラ試合は2試合だけだった。

◇選手 喜びのコメント

(1)小島和哉投手
「夢みたい。先輩たちが打ってくれて楽に投げられた。」

(2)西川元気捕手
「つなぎたかった。林崎先輩のような捕手になりたい。」

(3)木暮騎士一塁手
「初優勝でき森先生に恩返しができて素直にうれしい。」

(4)贄隼斗二塁手
「優勝という形で終われてうれしい気持ちでいっぱい。」

(5)高田涼太三塁手
「夏、ここに戻ってきたいと一番思う。」

(6)竹村春樹遊撃手
「先制されても焦らなかった。甲子園で力を出せた。」

(7)服部将光左翼手
「いつもと少し雰囲気が違ったが、貢献できたと思う。」

(8)山根佑太中堅手
「初球から振っていこうと思った。夏に戻ってくる。」

(9)斎藤良介右翼手
「ここでできるのは当然じゃない。周りの人に感謝。」

(10)山口瑠偉投手
「少しでも貢献できてよかった。素晴らしい経験だった。」

(11)涌本亮太投手
「投げられなかった気持ちを夏にぶつけたい。」

(12)田畑瑛仁捕手
「球場の雰囲気を忘れずに、経験を生かしたい。」

(13)伊藤祐貴投手
「うれしい気持ちはあるが、夏優勝するのが最終目標。」

(14)川井俊希遊撃手
「うれしい。やってきたことは間違いではなかった。」

(15)久保和輝中堅手
「勝った瞬間、仲間にありがとうという思いだった。」

(16)渡邊剛右翼手
「実感がない。校歌を聞いて優勝したんだなと思った。」

(17)前田優作左翼手
「つらい練習を乗り越えて素晴らしい結果を残せた。」

(18)酒井恭遊撃手
「試合に出ていないけど優勝の一員になれてうれしい。」

(埼玉新聞)

◇広島の後輩も声援

 浦和学院の山根佑太選手(3年)が所属していた広島市内の少年野球チーム「Youngひろしま」の選手22人が声援を送った。山根選手は休みに同チーム の練習を訪れ、ノッカーを務めるなど後輩の指導にあたる。スタンドに駆けつけた一行は「ホームランを打って」と気合十分。両手にチームカラーの赤いメガホ ンを持って応援した石谷哲也君(14)は「チャンスで打って、優勝してほしい」と張り切って応援していた。

◇OGら熱いエール

 後輩たちを応援しようと、浦和学院のOB・OGが一塁側アルプススタンドに駆けつけ、熱い声援を送った。川島南斗さん(20)と桝内涼平さん(20)はと もに野球部OB。2人は3年前に卒業し、現在は国士舘大に在学している。この日の朝、埼玉県を出発し甲子園入りした。川島さんは「終盤で点差が開いても手 を緩めないのが浦学らしい」。桝内さんは「ここで終わりじゃない。この勢いを夏につなげてほしい」と後輩たちのさらなる飛躍に期待した。

◇知事もリンマリ

 一塁側のアルプススタンドに上田清司知事が駆けつけた。5年ぶりの甲子園応援となった上田知事は「投打のバランスが良く、落ち着けば必ず勝てる」と力 説。五回、県のマスコット「コバトン」のぬいぐるみを持って声援を送ると、浦学打線が奮起。打者一巡の猛攻を見せ、一挙7点を挙げて逆転した。上田知事は 「選手たちの実力が出始めた。『コバトン』にはツキを呼び寄せる力があるかもしれない」とニンマリ。

(毎日新聞埼玉版)

■決勝(4月3日)

済美
010000000=1
00007208x=17
浦和学院

【済】安楽、山口、太田-金子
【浦】小島-西川
▽三塁打 竹村(浦)
▽二塁打 藤原、盛田(済)西川2、高田、木暮、贄(浦)

【浦和学院】
⑥竹 村6-2-2 .304
④ 贄 4-2-1 .286
⑧山 根5-3-3 .500
⑤高 田4-2-2 .438
③木 暮4-2-3 .350
⑨斎 藤4-2-2 .188
②西 川5-4-3 .429
①小 島5-1-1 .200
⑦服 部3-0-0 .417

(打数-安打-打点)

<投球成績>
小島 9回、128球、被安打8、7奪三振、与四死球2、失点1、自責点1

安 打:浦18、済8
失 策:浦0、済2
三 振:浦2、済7
四死球:浦7、済2
犠 打:浦2、済2
盗 塁:浦4、済0
併 殺:浦1、済0
残 塁:浦8、済8

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