第85回センバツ:優勝指揮官に聞く初Vの道程 浦学・森士監督

 攻守でスキのない見事な野球だった。2年生エース・小島を中心に5試合で1失策という堅い守り。打っては四番・高田を筆頭に積極打法で相手投手を攻略し た。強豪校として全国的に名を馳せるも、これまではあと一歩のところで頂点に届かなかった歴史を持つ浦和学院高。その壁をついに破った要因を指揮官に聞く。

◇ツキを感じた日程的余裕

―あらためまして、センバツ初優勝おめでとうございます。

森  ありがとうございます。振り返ってみると、いろいろな意味で、ウチにツキがあったなと思いますね。決勝戦もウチの小島和哉が2連投、対する済美の安楽智 大君は3連投と日程的にも有利でした。最初の抽選会の時点で「ウチに風が吹いているかな」となんとなく感じていたんです。これで勝てなかったら、(周囲か ら)またいろいろと言われていたでしょうし…(苦笑)。この大会は本当に運が良かったですよ。

―大会前には監督ご自身もさまざまな重圧を感じていられたのでしょうか。

森  上甲正典さん(済美高)、中井哲之さん(広陵高)、西谷浩一さん(大阪桐蔭高)ら、優勝経験がある監督さんもいる中で、今大会の出場校では、甲子園出場 回数が春夏を合わせると私が一番多かったんです(18回)。多く出させていただいているのに優勝したことがないということもあり、周囲からも期待していた だいていたのは感じていましたからね。とはいえ、優勝をはっきりと意識していたわけではないのですが、多く出場しているだけの経験は生かさなければいけな いなと私自身は大会前に考えていたんですけどね。

―チームは昨秋に関東王者になり神宮大会を経てセンバツへと入りましたが、チームをどのように仕上げていったのでしょうか。

森  例年のチームと比べて特別に何かをやったわけではありません。むしろ今年は1月14日に大雪が降り3週間グラウンドが使えませんでした。2月に入っても 凍える日が多く、3月に入ってやっと練習ができるようになりました。ただ、センバツに出場するときだけ、ウチは宮古島で合宿をさせていただいているのです が、期間中に一度も雨が降らなかったんです。これまでは雨に泣かされることも多かったのですが、今年は天候に恵まれ急ピッチでチームを仕上げることができ ました。

―監督としては、ある程度の手応えを持って甲子園入りはできた?

森 いえ、 まったく手応えというのはありませんでしたね。昨秋の神宮大会の時点では、優勝された仙台育英さんが頭一つ抜けた力を持っていると感じましたし、下級生の 多い関西高さんもいいチームでした。神宮には出ていなくても、近畿勢は侮れませんし、四国では当時1年生の安楽君が150キロを出していた情報も入ってい ましたしね。そういうチームにウチがどこまで近づけているのかな…というのが率直な気持ちでした。昨年に春夏で2勝ずつを挙げた前チームがベースとしては あったものの、今年のチームはそれよりも劣る力でしたからね。

―関東王者といえども、大会に臨む気持ちは無欲で一戦必勝だと。

森 そうですね。選手たちには目の前の試合を大事に戦っていこうと伝えていました。

◇守りあっての攻撃

―では、あらためて初戦の土佐高戦(2回戦)から振り返っていただけますでしょうか。

森  まず心配したのは、間違いなく“完全アウェー”の雰囲気での試合になると考えたので、浮き足立たないように選手たちには言いました。秋の時点での土佐高 さんの試合映像は少し見ましたが、ひと冬超えてどう変わったのかは分かりませんでしたからね。相手以上に、初戦の戦い方という意味の不安はありました。

―結果的に、打順は大会を通してほぼ不動でしたが、攻撃プランはどのように考えていましたか。

森 打線としては、調子のいい選手を使っていこうと考えていたのですが、それまでの練習試合などを経てほぼこのメンバーで固定はされていましたね。

―中盤までは接戦で試合は進みました。

森  相手エースの宅間健翔君は腰が悪く、それまであまり投げていないという情報があったので、成長著しい高橋潮生君とどちらが先発してくるのか分からなかっ たのですが、結果、宅間君が先発。ウチとしては調子のいい高橋君が出てくる前にできるだけ加点したかったというのが、本音だったんですけどね。相手の選手 にも硬さは見られたのですが、思った以上にウチの選手も最初硬かったですよね(苦笑)。

―2年生エース・小島投手の初マウンドの様子は?

森 小島も最初は緊張していたのが分かりましたが、相手打者も緊張なのか振れていなかった。そのうちに自分のリズムで投げられるようになっていましたね。

―結果、8回に2点を追加し4対0の完封勝ちとなりました。

森 内容はどうあれ、まず初戦は勝つこと。緊張した中でも結果を出すことが最優先でした。初戦が終わり、そこから甲子園での生活を含めてチームの体勢を立て直すというのが、ウチのやり方です。

―体勢を整えた中で迎えた3回戦、山形中央高との試合は大差が付いたとはいえ、中盤までは接戦でした。

森 山形中央さんと岩国商さんの試合を私も見させていただきましたが、本当に攻守ともノビノビ野球をするチームだなと。庄司秀幸監督は社会人野球も経験されていますし、非常に洗練された好チームでしたから、なんとか先に主導権を握りたいという思いはありました。

―勝因は打線爆発というよりも、やはり小島投手の好投で相手に主導権を渡さなかったことでしょうか。

森 初回、相手の出鼻をくじくことができ打者3人で2点を取れたことで、小島も落ち着いて投げられたんだと思います。相手の打者にも硬さがあったので、うまくそこを突いた投球ができていたと思います。

―5回裏に1点を返され2対1。ここでは、どんな指示を選手に出していたのですか。

森 相手先発の高橋凌平君が2回以降の配球を変えてきたこともあり、ウチの打者もとらえ切れなかったのですが、6回に高田が一発で仕留めてくれた。傾向として、2種類の狙い球があったので、そこをしっかりと決めていこうと。

―6、7、8の3イニングで計9得点。結果的にこの攻撃が、今大会における打撃陣の調子をワンランク上げたような印象を受けました。

森 私自身も予想していなかったことでした。確かに、自分たちの攻撃を発揮し出したのは、ここからだったと思います。

―次の北照高との準々決勝はどうでしょうか。

森 北照さんは神宮大会でベスト4。昨夏の甲子園を経験したメンバーもいて投手力もあり、攻撃の爆発力もある。ウチとしてもこの一戦で勝てるかが、さらに上を目指すポイントになると考えていました。

―1回裏、またも四番・高田選手の2ランで先制に成功しました。

森 そうですね。とはいえ、その後また無得点が4回まで続いたことを考えれば、小島の投球が勝因だったと言えるでしょうね。

―大会を通して、小島投手にはどんなアドバイスを送っていたのでしょうか。

森 まずはシンプルに自分の投球をすること。相手打線の分析の前に自分のスタイルを信じて投げるようにしなさいと言いました。

―リードする捕手の西川元気選手には、どんな指示を。

森 ある意味で同じですよ。取り越し苦労はするな。そして(配球の)片寄りをなくすように言いました。

―この試合も10得点。しかし一方で無失点に抑えるバッテリーを含めた守備も見事でした。

森 やはり守り優先ですよ。守りから攻撃のリズムを作るというか、しっかり守れたから落ち着いて打てたのだと思います。

―では、準決勝の敦賀気比高の一戦。大会を通じて敦賀気比の好調さがうかがえた中での対戦だったと思いますが。

森 振り返ってみれば、結果的に5試合の中でも、最もポイントとなった一戦かもしれませんね。

―1回裏に逆転はしますが、いきなり初回に今大会で初めて先制を許す展開でしたが。

森  先発の岸本淳希君は本当に粘り強い投球をする印象でしたね。昨年のセンバツ1回戦で敦賀気比さんとは戦いましたが(10対2)、そのときとは比べものに ならないくらい成長していましたね。バッテリー、中軸ともレベルが上がり、しのぎ合いになるなと試合前から覚悟していました。

―5対1というスコアでしたが、やはり序盤までは1点差の展開。

森  考えてみると、5試合すべてが同じような展開でしたよね。点差が付くとしても終盤から。序盤、中盤までは、どっちに転んでもおかしくないような展開ばか りでした。まあ、それがウチのスタイルと言いますか、決して強いわけではなく、中盤まで粘って粘って、終盤のチャンスをモノにするという形でしたね。

―そして決勝は済美高。まず、相手チームの印象はどうでしょう。

森 一言で言えば「安楽君のチーム」。その中でポイントになるのは立ち上がりと終盤だろうと考えていました。とはいえ、準決勝も先にウチが終わっていたし、時間的な猶予としてもウチにとっていい入り方ができていたと思います。

―決勝を前に、監督ご自身はどのような思いを感じていましたか。

森 それが特に何もなく初戦とあまり変わらない気持ちでした。目の前の試合だけといいますか、甲子園という舞台で戦える喜びだけでした。「決勝だから…」というようなものは一切なかったですね。

―選手たちはどうでしょう。

森 基本的には、これまでの一戦一戦と同じ気持ちで戦おうと言っていたのですが、初戦の序盤やミスした後のときのように、この決勝の立ち上がりも選手たちは硬かったように感じましたね。

―4回を終わって0対1。リードを許したままで中盤に入る展開は初めてでしたよね。

森 ここまでの勢いもあったので、序盤は何も言わず見守っていたのですが、それが逆に選手の硬さにつながったのかな…と。それで4回に選手にはゲキを飛ばしたんですよ。「なに、緊張してんだ!もっと立ち向かう気持ちで打席に立たないと打てないぞ!」と。

―では、安楽投手の印象についてはどうですか。

森  いい投手ですから、やはりボールを見ていては打てないと思っていました。そういう意味からも序盤は積極性に欠けていたのかなと。さすがに連投で、安楽君 も本来のスピードが出ていなかった。それでも、あのフォームに驚くのか、ウチの選手が合わせに行くような感じで自分からバットを振りにいっていなかったよ うな感じでしたよね。

―そのゲキが効果を発揮したのか、その後は大差が付く展開となりました。今大会を通じ、ベンチの指示をしっかりと体現した選手たちは素晴らしかったと思いますが。

森  そういう面では、イメージした野球が多少はできるようになったんですかね。だからこそ勝てたと思いますし、そのための準備をしてきました。選手たちは瞬 間的な判断において勇気を持ってプレーできた。その結果、一緒にやっていて楽しいなと感じる野球ができたのかなと思いますね。

◇初戦で土佐と戦えた幸運

―今回の優勝で、チームの中で何か変化はありましたか。

森  優勝で、というよりも今大会での収穫は本当に多かったと思います。特に初戦で土佐高さんとやれたこと、ある記事で土佐高さんを評して「勝って奢らず負け て挫けず」という言葉を使っていたことが私は非常に印象深いんです。そして、実際の試合でもウチが校歌を歌っているときには、土佐高スタンドから手拍子を いただいたんです。アルプスに行くときにも拍手喝采で送り出してくれ、あれこそ高校野球の姿だと思いました。ああいうチーム、学校をウチも目指していこう という目標ができたことで、2戦目以降も新鮮に戦えたように思いますね。戦う精神、原点を確立、再確認できた上での優勝というのが大きかったと思います。

―森監督は上甲監督とも親交が深いと聞いています。

森  はい、勉強させてもらっています。互いにセンバツがない年には、松山までうかがい合同練習をさせてもらっています。上甲さんから教わった練習法も多くあ りますし、指導者としての心得を私に教えてくれた方でもあります。そんな上甲さんと決勝で戦えたのも深い縁を感じましたね。

―では、一人の指導者としてこの優勝にはどんな意味が。

森  上甲さんはじめ、渡辺元智さん(横浜高)、高嶋仁さん(智弁和歌山)ら大先輩の皆さんが、今も熱い情熱で現場に立たれているそのエネルギーの源がどこに あるのか不思議だったのですが、今回優勝してみてそれが少し分かったような気がします。素直に「優勝って、いいな」と。今まで負けて甲子園から帰ってきた のが今回は負けずに帰ってこられたことの喜び。そして、18回も出させてもらっていて結果を出せていなかった申し訳なさというか、その責任というか…。今 回の優勝で、私もまたエネルギーをもらえたような気がしています。とはいえ、やることは変わりません。夏もまた1回戦からのスタート。これまでどおり、 “真剣勝負を楽しむ”というか、一つひとつ準備していくだけです。勝負の世界では、春の優勝が貯金として残るわけではないですからね。

―過去の甲子園出場経験があった上での優勝だったわけですよね。

森  甲子園でも1回戦負けが続いていた時期というのは、知らず知らずのうちに選手たちにも余計なプレッシャーを与えていたのかもしれません。間違いなく言え るのは、私が未熟だったということ。そういう意味では昨年にその壁を越えて2勝してくれた前チームがあって、その先輩を見てきた今の選手たちが結果を出し てくれたのだと思います。

―ちなみに、今号では「1年生投手の育成」について小誌では特集を組みます。今大会の決勝が2年生投手対決となったのは、両校の投手育成がしっかりしていたからだと思います。ご意見をお聞かせください。

森  まず1年生には絶対に無理はさせません。もっと投げたいな…と本人が感じる程度で、こちらでストップをかけます。まずは少ない投球の中から1球の意味を 知ってほしい。その1球が試合なのか、ブルペンなのかは選手によって違ってきます。そして「1人の打者を抑える」→「1イニングを抑える」→「3イニング を抑える」…と段階を踏む。小さい成功の積み重ねが大きな成功へとつながるのだと思います。

―球数制限だけでなく、まずは1人の打者をどう抑えるかが第一歩。

森 1人といっても状況で大きく変わってきますよね。点差、走者の有無、アウトカウントなど場面をいくつかに分けて経験を積んでいく必要があると思います。

―その中で、できるだけ早期に実戦で投げさせたいと思うのも指導者なのではないでしょうか。

森  実際には高校野球は2年と4カ月しかありません。通用するのであれば、できるだけ上のステージで経験を積ませてあげたいですよね。もちろん、体力的な面 を見つつですが、何よりも選手自身が高校野球、チーム、仲間などの特徴を把握する時間も必要でしょう。本格的に練習できるのは夏の終わり。3年生が抜け新 チームになってからなのではないでしょうか。ちなみに、ウチでは2年生のころはとにかく基本に忠実に。3年生になってその応用展開を考えるというのが指導 方針です。ですから、小島においてもまだまだ基本レベルの段階ですよ。

―ありがとうございました。では最後に夏への抱負をお願いします。

森  先ほども言ったように春の優勝はアドバンテージになりませんので、ある意味で一からやっていくことになりますよね。優勝したとはいえ、私から見れば決し て強いチームだとも思いません。選手たちもそのことは分かっていると思いますので、何も変わることなく、上を目指して挑戦していくだけです。

ベースボール・クリニック2013年6月号
(ベースボール・マガジン社)
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