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『監督からのラストレター』浦和学院高校/森士監督

甲子園常連校であればあるほど、甲子園を失ったショックの大きさは計り知れなかったはず。浦和学院もその一つだった。緊急事態宣言を受けて、寮を閉鎖。与えられたメニューを自宅で行う活動に切り替えた。離れていても仲間意識は育つのか?選手を信じ見守った1カ月半。先輩たちからのエールが背中を押してくれた。(書籍『監督からのラストレター』から引用)

やられても立ち上がれ、諦めるな!

野球を始めて、楽しさを知っていって、そのうち甲子園という象徴を夢に描いてきたと思う。浦和学院にきたのも、甲子園に行くんだという大きな目標があったからだと思う。その目標がある日、突然予想だにしない形で奪われてしまった。そのショックは計り知れなかったと思う。

春のセンバツがなくなった時は衝撃で、夏はまさか中止になることはないだろうと思っていたのに……、中止が決まった。野球界のことだけでなく、日本が、世界が一変した。 「俺ならグレるだろうな」 。正直、そう思ったよ。子どものころからの夢が突然奪われたんだもんな。

甲子園にかけていたやつほど、切り替えなんかできなかったと思う。6月に一人一人と面談をしたけど、ある者は号泣し、ある者は放心状態、ある者は嗚咽していたな。そんなお前らを俺はただ黙って見守ることしかできなかった。

仲間の前では冷静を装っていたやつも、一対一になった時は崩れるように泣いていたよな。「上で野球、続けるか?」 。一人一人と話して、聞いていった。この先の進路をどうするかの面談だったけど、そんなにすぐに目標の置き換えなんてできなかったはずだ。俺にとってもショックだったけれど、お前らが甲子園を目指せなくなってしまったという喪失感のほうが大きかった。俺は野球が好きだけど、野球に関わる人のことが好きなんだ。夢に向かって頑張るお前たちの姿を見られない。それがつらかった。

そんな中、3年生31人中、27人が 「大学でも野球を続けたいです」 と言ったことには正直、驚いた。例年よりも多いくらいだったからな。それだけ、自分の高校野球が消化不良だったんだなと思った。

新チームスタート時は力がなくて、1年生に背番号を奪われてしまっていたチームが、代替大会ではベスト4まで勝ち上がった。立派だった。でも、やり残したという感情があったんだと思った。大学に行って、もう一度日本一を目指したいのだとも思った。

浦和学院の目標は全国制覇。目的は人間形成だ。高校で果たせなかった夢を、大学でかなえてほしいと願っている。

浦和学院は仲間意識の強さがチームの力となって勝つチーム。そうだったよな?それが今回、寮が閉鎖になり、一緒にいられなくなった。みんながバラバラの場所にいながら、自分の役割をどうやって果たしていくのか。監督の俺にとっても、初めての経験だった。正直、いろんなことを考えるきっかけにもなった。

50人の2、3年生を5班に分けて、オンラインで活動報告をし合いながら、全員がランニングタイムの課題に取り組んだ。7周を20分以内で走るというノルマを決めたけど、甲子園がなくなった3年生のほうが音を上げず、真剣に取り組んでいた。正直、胸が熱くなった。

「やらされる練習」 から、自宅で 「自主的にやる練習」 になっても、3年生たちはやり遂げた。代替大会でも 「勝つ」 ということにこだわって戦った。

離れていても、浦学の 「全員野球」 を果たしてくれたと思う。一体感を作ることが2020年は何倍も難しかったと思うが、 「浦学の強さはやっぱり仲間意識」 。改めてそれを感じた年にもなったはずだ。野球部で出会った仲間とは、一生の付き合いを続けてほしい。社会に出た時、この経験を糧にして頑張ってほしいと思う。

最後に。
お前たちは、素晴らしい先輩に恵まれたことに感謝してほしい。
5月20日、甲子園中止が決まった直後。39期の主将・蛭間拓哉(早稲田大)らがメッセージ動画を作って、届けてくれたよな。あの動画を見た時、俺は涙が止まらなかった。
「過去と他人は変えられないけど、未来と自分は変えられる。また野球ができることを信じて……。最後まで諦めずに、みんなで頑張ろう」

お前らが1年生の時の3年生たち。俺なんかのメッセージよりも、何倍も思いが伝わったはずだ。自分もつらいのに、後輩のことを思って行動してくれた蛭間たちの優しさを、どうか見習ってほしい。悲しんでいる仲間を励ませる人になってほしい。

それが浦学の伝統だ。

ネバーギブアップ! つらかったと思うが、俺はあえてお前らに言い続ける。
ネバーギブアップ! やられても立ち上がれ、諦めるな。
どんな困難にも負けず、前に進め。

浦和学院高校
硬式野球部監督 森 士

OBから3年生に送られたメッセージ

3月18日に発売される単行本「監督からのラストレター 甲子園を奪われた君たちへ」に浦学・森士監督からのメッセージが掲載されています。

主な内容
全国43校の監督が、不完全燃焼のなか巣立っていく3年生に向けてしたためた手紙集。前代未聞の「甲子園中止」。“悲劇の高校球児”として報道されたその裏側で、本当はどんなことが起きていたのか。監督の想いとともに監督の目を通して記憶された、か弱くもたくましい3年生たちのみずみずしい姿が綴られています。
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