野球選手の指導専門誌「ベースボール・クリニック2013年3月号」(2月16日発売)に森士監督のインタビューが掲載されました。
[3号連続特集]3カ月集中バッター強化講座・注目チームの打撃練習法(III)巻頭インタビュー
<森士・浦和学院高監督>
■関東王者として聖地に乗り込むウラガクの神髄 頭脳を駆使してシンプルにスイング
3号連続してお送りしてきたこの特集。今号はいよいよ最後になるが、その巻頭には昨秋に史上初の関東大会3連覇を成し遂げて今春センバツに出場する浦和学院高。春夏計18度の甲子園出場を導いている森士監督にその指導方針とバッティング全般に関して語っていただいた。
◇浦学の指導理念
まず、私たちの選手へのアプローチはおおまかに学年別に分けて「1年は見る、2年が基本を、3年に応用へ」。これが基本方針になります。
最初の1年間は各選手たちがどういう能力を持っていて、どんな素材かをわれわれ指導者はよく見なければいけません。その間に目につく部分があればもちろん アドバイスをしますが、基本的には教え過ぎないこと。また、この「見る」というのは選手本人にも意識させます。同級生がどんなスイングをしているか、上級 生がどういうふうに各コースを打ち分けているのか。これはバッティングもピッチングも同じだと思いますが、うまくなりたかったら自分に合っているなと感じ た人をマネることがスタートでしょう。それが同級生や上級生、プロの選手でもいい。まずは研究心を持つことです。
そうして2年生になったら、直すべきポイントを徹底的に意識させる1年間です。それからようやく応用といいますか、2年間で培ったものをどう使っていこうかと方向性を示してやる。これがウチの指導方針となっています。
その上で話を進めますと、バッティングはその選手の特徴を生かした部分を極力消さないことが大事ではないでしょうか。例えば得意、不得意のコースがあるの なら、それでいい。すべてのコースが打てればなおいいのですが、そういう打者というのは限られていますよね。それならばどこか一つのコースに絶対の自信を 持っているなら、その能力は生かしてやるべきです。
そのための、「見る」でもあります。選手個々のスイングやフォームの悪い部分を壊してまで良いものを取り入れることが、はたしてその選手のためになるのか。引いてはチームのためになるのか。われわれ指導者が考えなくてはいけないでしょう。
かといって、そのままでは到底、打てない、ボールに当たる確率が低いというのならば、変えないといけませんよね。選手にとってはフォームを変えられる、い じられるというのは理解と作業に大変な労力を必要としますから、そこは指導者が付きっ切りになってでも一緒に取り組むのが理想です。
ただ、いくらこちらが熱心に説いても、選手に受け入れられる器というか、準備ができていなければ意味がありません。例えば、プロ野球では打撃コーチが入団し てからずっと同じというわけではないでしょうし、コーチ以外のいろいろな方からアドバイスを受けることもあるでしょう。それをすべて聞き入れていたら、混 乱してしまったなんてことが往々にしてあると思います。そこで生き残っていくためにプロはもがくんでしょうけど、これは高校野球でも同じだと思います。
すべては自己責任。自分がどういう打者になりたいか、どういうふうな打球を打ちたいのか。先ほど、指導者側の「見る」について触れましたが、選手も1年生 のうちに自分の周囲の環境を見ることでイメージをふくらませておかないといけない。その上で指導者からのアドバイスを取捨選択して練習しないと高校野球の 2年半はあっという間に終わってしまいます。
私はバッティングで結果を出すには、「技術50%・頭50%」と考えています。技術という のは日々の練習の積み重ね、頭というのはその練習でもそうですが、紅白戦や練習試合を通しておのおの状況を考えて動けるかということです。それがバランス よく備えられて100%、それから結果を呼び込めるものでしょう。
また、これは野球選手に限ったことではありませんが、人が備える運動 能力には「技能」「神経」「知能」の3つがあると考えています。トップを目指すアスリートならばどれも追い求めるべきものですが、最終的に差が出るのが知 能でしょう。技能と神経は先天的要素に左右される部分もありますが、知能は選手個々次第でいくらでも変わってきます。先の2つで負けていても、この知能次 第で勝負をひっくり返すことだってできる。
バッティングでも中学生までは技能や神経だけで強い打球、遠くへ打てたとしても、高校でその ままでは上積みはありません。そこには、知能を使ってぐんぐん伸びる選手がいる。技術、神経に劣る選手というのは「どうやったらあいつに追いつけるのか」 と頭をフル回転させます。それで能力を伸ばす効率のいい努力を重ねますから3年最後の夏に立場を逆転したり、大きく差をつけることだってあるのです。
ですから、繰り返しになりますがまずは能力に頼っている選手、頭を使おうとする選手など、どういうタイプなのかを見る。それからはじめてバッティングの指導がスタートできるのではないでしょうか。
◇Simple is Best
その肝心のバッティングについて、私は選手たちに共通して「ボールを強くたたきなさい」と言い続けています。そのためのスイング動作はもちろんのことです が、バッテリーの配球、試合状況を読むことも必要になってきます。例えば一死一塁で、強くたたけと言われたからといって打球がショート正面でゲッツーでは 何の意味もありませんよね。こういう理解に「頭」がカギとなってくるわけです。
この「強くたたく」ということは簡潔に言えば、バットの ヘッドを走らせること。では、体をどのようにして、バットをどうやって使えばヘッドが走るスイングができるか。そのためにムダなことは省いていかないとい けません。ボールが真っすぐ自分に向かっているのにもかかわらず、体が上下動して目線がブレたり、インパクトまでわざわざ遠回りするスイング軌道を描いた りと、ある意味でバッティングというのは自分でムダな動作をしてしまい確率を下げているように思います。
シンプルに考えましょう。まずボールを待つ形、いわゆるトップの位置でヘッドがどこにあるか。言い方を変えれば、グリップの位置がどこにあるか、ですね。ヘッドが頭頂部、つまりグリップが右打者でいえば顔の右側周辺にあることが理想的とされています。
感覚的なことを言いますと、構えから動き始めてトップの形を迎えたときにほんのわずかな間ではありますが「静」の状態になります。そして、その一瞬から再 び動き始めてインパクト。これがバッティングの簡潔な流れなわけですが、この「動」→「静」→「動」をシンプルにすればスムーズに動作が進むと思います。
トップの形は、ボールを引きつけてエネルギーを爆発するための準備段階。ただ、力をためている状態ですから体全体が力みやすい。しかし、一方で本当に力を 出すべきときはその先のインパクトの瞬間です。スイングという一つの動作を考えた際に、トップで力を入れて、またインパクトで力を入れるというのはすでに 一つの動作としては成り立っておらず、結局はインパクトのときには力が抜けています。バッティングというのは力学で、これを理解できるかも知能にかかわっ てきますね。
ボールのつかまえ方がうまい選手というのは、トップの位置がブレないで安定しています。どういうタイミング、どういうコースにボールが来ようとトップの位置が一定で体に力みがない。いつでも打てる、ある程度どのボールにもバットを出せる準備ができているわけですね。
これは済美高の上甲正典監督がおっしゃっていたんですが、「バッティングはシンプルに四つだ」と。
・ボールをよく見る
・タイミングを合わせる
・芯でボールをつかまえる
・フルスイングする
確かにそのとおりだと思います。当たり前のことかもしれませんが、いろいろ考え過ぎてしまうことで指導者も選手もあれこれと余計なことを体に植え付けてい るのかもしれません。ですから試合になれば、私が選手に伝えるのは「強くたたきなさい」ということを含めた、この5つしかありません。プラスアルファで知 能を使っての状況判断です。
また、上甲監督はこんなことも言っていました。「打者が18・44メートルのバットを持っていれば、それを 投げたところに出せば打てるんだよな」と。それはそうなんですよね(笑)。「でも、そうじゃないから、この距離とボールが自分の場所までに来る時間の中で どんなスイングができるか。これがバッテリーとの駆け引きだ」と続けられ、やはりトップの位置がカギというわけです。
◇勇気なき者、すべて失う
バッティングにはいろいろな練習方法があると思いますが、これをやったからと言って必ず打てるというのは極論を言えば、ないですよね。現に10割打者なんて存在しませんから。ただ、少しでも確率を上げるために、各練習で自分の感覚を研ぎ澄ませられるかだと思います。
就任当初よりも打つ、振る数は多くなっていると思います。ただ、数を振ればいいというわけでもありません。間違った形が染み付くだけですし、ケガの原因に もなり得る。それでも、数を振らないことには感覚は体に染みつかないし、覚えられない。理屈抜きに振らないといけないと思いますが、そのバランスは難しい ところですね。だから、そこに選手本人の意識がどれだけ入っているか。自分に合うものがなんなのかを踏まえてこその数でないと意味がありません。
今の選手の特徴にドアスイングが多いというのがあります。金属バットの弊害の一つでしょう。ですから、これはウチのチームだけではありませんが、竹バット を普段から使うようにしています。このバットを使って打ったときにしなる感覚を得ることが大事になってきます。寒いこの時期に竹バットでフルスイングす る。当然手がしびれて痛いですよ。それを怖がって変に当てにいくのではなく、速いスイングスピードでしびれない打ち方、つまり理想のボールのつかまえ方を 身につけないと。
「勇気なき者、すべて失う」と選手たちにはよく言っているんですが、尻込みしたり、ためらっては勝ち取れません。寒くてしびれるからと言い訳してフルスイングしない練習なんて何の身にもなりません。何のための努力なのかを分かった上で取り組まないといけない。
ただ、フルスイングというのは、イコール力任せに振ることではありません。力をむやみに入れても腕は最大加速では振れない。バッティングはいかに自分の力 を効率よくバットを通してボールに伝えられるかという力学ですが、これを無意識に表現できる選手もいれば、意識してもできない選手もいます。
私の経験では中学から硬式でプレーしている選手に力任せにスイングしようとする傾向が多いように見受けられます。また、成長のスピードが速く、ほかの子よりもパワーのある子もそう。このあたりでも、どうやって頭を使うかでその子がどう伸びるかに変わってきますね。
私のバッティングに関するお話をさせていただきましたが、正直、自分が投手出身ということもあって、私自身まだまだ模索中でもあります。ただ、上甲監督が おっしゃったことはバッティングの神髄かと思います。いかにシンプルに強くたたけるか。これに尽きるのではないでしょうか。
われわれは おかげさまでこの春の甲子園にも出場させていただきます。ただチームには例えば、昨年の世代で言えば藤浪晋太郎君や濱田達郎君クラスの投手を打ち砕けるよ うな打者はいません。個の能力を線に変えたときに勝負になると考えています。関東チャンピオンではありますが、決してうぬぼれることなく、挑戦者の立場で 臨みたいですね。
◇浦和学院高 オフのバッティングメニュー
数を振らせると言いましたが、1日に約2000スイングでしょうか。もちろん素振りだけでなく、ティー、マシン打撃でこなしていきます。ティーバッティン グにはいろいろなスタイルがありますが、それぞれに長所短所があります。例えばポイント習得には置きティーがいいでしょうし、真横からのティーはどうして もその方向を向きやすくなりますからドアスイングになりやすいデメリットがあります。
ボールを打つ際に素振りのヘッドスピードと同じ速 さで振れるかというと、そうはいきません。当てることを優先して無意識に体がスピードを抑えます。だから、いかにその誤差を少なくできるか。ティーバッ ティングそのものはそれを簡潔に体感できる練習でしょう。また、「ボールを打った感触がなかったです」とホームランを打った選手がよく言うセリフがありま すが、これは素振りと同じヘッドスピードとほぼ同じスイングができたときの感覚だと思います。
打感が伝わらないくらいのスピードを実現できたことで、ボールを強くたたけた。ティーバッティングの本質は、その感覚をつかむためのものにあると思いますね。
(1)両方向からのティー
足を広げて両サイドからのトスに対応してバランス意識の強化。片方を打ったら逆手のまま打ち返す
(2)重心を落としてティー
ステップ幅を取り、トスに対して腰を落としてスイング。自分の重心の位置把握と下半身強化
(3)片手でティー
それぞれの腕でティー。払う腕、押し込む腕それぞれのコントロール能力を磨く
(4)連続ティー
連続したトスをひたすら打ち返す。スイングするスタミナ強化とスピードアップを目指す
浦和学院高では、選手たちの側には常に指導者がついてアドバイスを送る環境が整っている。
ベースボールクリニック2013年3月号
(ベースボール・マガジン社)