◇2年生エース 秋は相次ぎ敗退
春夏の甲子園で活躍した2年生投手が、秋季大会で相次いで敗れた。夏を制した前橋育英(群馬)の高橋光成(こうな)、選抜で優勝した浦和学院(埼玉)の小 島和哉、春夏で計5勝した済美(愛媛)の安楽智大(ともひろ)。勝ち続けることの難しさを痛感した3投手はそれぞれの課題と向き合い、来夏へ向けてスター トを切った。
◇1人で投げきる力を 浦和学院・小島和哉
小島は忙しそうにグラウンドを駆けていた。10月中旬。ノックで一塁を守った後は、右翼で打球を受け、フリー打撃の投手を務めた。主将も任され、「投げるプラス打つ。チームをまとめ、背負っても負けない強さを身につけたい」と力を込める。
今春の選抜優勝時のレギュラーで残るのは、小島だけ。経験の少ないメンバーと戦った秋は「空回りした部分があった」。県大会の3回戦、本庄一戦で11回を完投したが、8安打を浴び、2―3で敗れた。
右打者の内角へ食い込む直球の精度は、甲子園でも実証済み。ただ、それを分かっている相手打者に狙い打たれた。「外角の出し入れと緩急。そして、1人で全部投げきる力をつけること」が課題だ。
今夏の選手権の仙台育英戦では9回に足がつって降板し、チームは敗れた。「昨年の冬は左足のくるぶしを骨折していて走り込みが足りなかった。今年はもう一度、ゼロから作り直したい」
◇ひじ休め下半身強化 済美・安楽智大
「負けて2週間は悔しさが先に来たけど、今は切り替えて練習しています」。エースで4番、秋からは主将も務める安楽は言う。
右ひじに異変が襲ったのは9月22日だった。秋季県大会1回戦の西条戦。1回の投球練習中に、しびれを感じた。立ち上がりに2失点すると、3回途中に降板。チームはそのまま敗れた。
選抜で準々決勝から3連投するなど、投げ続けてきた疲労もあり、右ひじには水がたまっていた。医師からは「1カ月間は安静」と言われた。痛みは引いたが、上甲正典監督と話し合い、本格的な投げ込みは春先まで控える。
安楽はこの「休養」を前向きにとらえ、「下半身が投手の命」と筋力トレーニング、走り込みに時間を費やす。天性のひじの柔らかさを消さないためと、嫌って いた上半身のトレーニングにも取り組むようになった。「強さと柔らかさの共存」を目指し、トレーニングとストレッチを交互にやりながら、上半身にも強い負 荷をかけている。
昨冬は選抜に向けて1月から実戦練習に入った。「この冬は2月いっぱいまで体をいじめ抜く。野球人生で、一番重要な冬になると思います」
◇連覇へ目指すは150キロ 前橋育英・高橋光成
高橋は冬の目標をはっきりと口にした。「150キロを目指したい」。今の最速は148キロ。あと2キロの壁に挑むには、理由がある。
この夏、全国の頂点に立ったが、直球の質に納得できなかった。「体力的にきつくて腕が下がり、シュート回転していた」。優勝を決めた最後の空振り三振は、直球のサインに首を振って投げたフォークだった。
9月に台湾であった18U(18歳以下)世界選手権で松井裕樹(神奈川・桐光学園)や安楽の投球を見て感じた。「いい直球があるから、変化球も生きる。自分のまっすぐはまだまだ」
特に、同学年の安楽から受けた刺激は大きかった。台湾の宿舎では同部屋で、直球、変化球の握りや投げ方について議論した。
秋の県大会は台湾から帰国した翌日の9月10日にあり、初戦の太田工戦で敗れた。高橋はリードを許した4回から登板したが、流れを変えられなかった。
荒井直樹監督は言う。「台湾から戻ってきてから先頭に立って練習するようになった。高橋は調整が間に合わなかったけれど代表に行かせてよかった」
3投手に共通するのは、県内のライバルから目標とされ、研究されていること。それをはねのけるため、試練の冬が始まる。
(朝日新聞)