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夢の続きは後輩に 浦和学院3年・島津裕真主将

 「なんとか走者をかえす」。1点を追う九回、二死三塁。王者の誇りが生んだ最後のチャンス。打席に入ると雄たけびを上げ、勝負に集中した。

 カウント0-3から、甘く入ったカーブを見送る。次の一球、聖望学園・佐藤勇吾が勝負をかけた内角直球を振り抜くと、打球は無情にも中堅手のグラブに吸い込まれていった。

 県史上初の4連覇という野望がついえた瞬間。「努力が足りず仕留められなかった」。悔いは隠せないが、森士(おさむ)監督は「彼が抑えられたらしようがない。勝負してくれた相手に感謝したい」と頭を垂れた。

 3年連続夏の甲子園出場のプレッシャーはなかった。だが、「球場の雰囲気にのまれた。負けた実感がわかず涙も出ない」。甲子園しか見えていなかった主将に、予想もしなかった長い夏休みが訪れる。

 「次こそ勝てるよう、後輩をバックアップすると約束しました。練習を手伝います」。果たせなかった夢の実現を託すつもりだ。

(産経新聞埼玉版)

◇責任感でチームまとめ

 九回裏2死三塁の場面で打席に立った。失策が絡み4点を失ったが、回を追うごとに本来の攻守を取り戻し、1点ずつ着実に取り返した。あと1点。しかし、打球はセンターのグラブに吸い込まれた。

 主将で4番打者。昨年甲子園に出場した経験があるのは自分一人だ。大会初の4連覇を目指してチームを引っ張らなくてはならない。森士監督やコーチからアドバイスを受ければ、忘れないよう大学ノートに書き留めてきた。3年間で5冊になる。観戦に来た母みどりさん(43)は「野球での経済的な負担を気にして、私に甲子園で恩を返すからねと言ってくれた」と話す。

 守備の乱れから浮足立ったナインをイニングごとに集めた。「気持ちを切り替えよう」。試合後、森監督は「選手らの信頼もあり、よくチームをまとめてくれた。最後の打席、こいつでだめなら仕方ない」と振り返った。

 「体が泳ぎました。僕の努力不足です」。丁寧な言葉で報道陣の質問に答えた気丈な主将。仲間の輪に戻り肩を抱かれたとたん、涙があふれた。

(毎日新聞埼玉版)

◇4連覇の夢半ばで散る

 報道陣に気丈に応対していた表情が、一気にゆがんだ。

 「ごめん。ごめんな」

 球場を出て、応援に回っていた仲間たちに次々に抱きつかれると、浦和学院主将の島津裕真(3年)の目から、大粒の涙があふれ出た。

 4年連続の甲子園出場を狙っていた。春の関東大会を制し、盤石にも見えた。

 それが、この日の序盤は王者らしさが影を潜めた。

 1回は被安打0、3回は被安打1で2点ずつを与えた。四死球と失策が手痛い失点につながり、重苦しい展開になった。

 今大会初めてのシード校との対戦で、しかも相手は昨春の選抜大会準優勝の聖望学園。「緊張し、集中出来なかったかも」(島津)。

 島津は今の3年生で唯一、昨夏のレギュラー。その経験をチームに伝えようと、主将には自ら立候補した。

 すぐには結果が出なかった。昨秋の県大会は初戦でまさかの敗退。チームは先輩たちのように、練習中に仲間同士で指摘し合うことができないままだった。

 チームで話し合い、テーマをつくった。「正義感・思いやり・負けず嫌い」。仲間でもミスを許さず、かつ相手を気遣い、競い合う。そんな願いを込めた。

 それ以来、「仲間とグラウンドで戦えるようになった」と実感できるチームに変わった。だが、最大の目標だった夏の頂点への挑戦は、道半ばで途絶えた。

 後半は追い上げ、底力を見せた。4番打者として、5回の適時打など2安打を放ったが、9回は最後の打者になってしまった。「打てなかったのは努力が足りなかったということ。今後の人生に生かす」。王者らしく、堂々と前を向いた。

(朝日新聞埼玉版)

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