中学3年だった2008年の夏、アルプススタンドから母・志奈子さんとともに、マウンドに立つ兄の大さん(早大)とベンチの父・士監督の姿を見つめた。
「兄ちゃんみたいになりたい」と尊敬する兄は10番を背負って先発。強豪の横浜を相手に力投したが5-6で敗れた。終了後に「お疲れさま」と声を掛けると、「今度は、おまえが頑張れ」と夢を託された。
1年生の春からベンチ入りし、主に代打で出場。新チームから正捕手に座った。しかし、昨秋の県大会は5番を任されながら打率は2割台半ば、4打点と物足りなかった。関東大会前には右ひじと腰を痛め、1年生の林崎にスタメンを奪われた。
「けがをして気持ちを切らせた。後輩が出て、人生で1番悔しかった」。決勝の東海大相模戦も控えだったが、試合中にベンチで采配を振るう父に出場を直訴した。父は「行けるのか。びびってやるなよ」と檄を飛ばした後、「(言いに)来るのが遅いよ」と一言。気持ちも吹っ切れ、7回からマスクをかぶってサヨナラ勝ちに貢献した。
「兄ちゃんの借りを返すわけではないけれど、甲子園ではまず1勝したい。親子兄弟で同じ舞台に立てるのはうれしい。名誉なこと」。まず目指すのは、兄が届かなかった聖地での勝利。その先にチームの、そして一家の目標である全国制覇がある。
(埼玉新聞)