秋季県高校野球大会最終日は2日、県営大宮球場で決勝が行われ、第1シード浦和学院が第2シード花咲徳栄を11-3で下し、3年連続12度目の栄冠に輝いた。浦和学院と花咲徳栄は関東高校大会(29日~11月4日・山梨)に出場し、来春の選抜大会出場を目指す。
浦和学院が終盤に向かって底力を発揮した。3点差を追い付かれた六回1死二塁から、明石の左前打で勝ち越すと、緑川の内野安打で追加点。八回には笹川の3ランが飛び出すなど七、八回で計6点を奪い、終わってみれば13安打11得点で圧倒した。
新チームは悔しさとともにスタートした。夏の埼玉大会準決勝で花咲徳栄に敗れ、春夏連続甲子園出場を断たれた。選抜大会を経験した佐藤、笹川、石橋や控え捕手だった林崎、主将の明石らがチームをけん引し、毎日のように組まれた夏休みの練習試合では負け知らず。
森監督がアジアAAA野球選手権の日本代表コーチで2週間チームを離れても無敗を保った。明石は「森先生に頼っている部分があった。最終的に野球をやるのは自分たち」と各自が役割を自覚。強力打線に触発されるように涌本、山口、渡辺剛ら1年生投手陣も台頭してきた。
第1シードらしい戦いぶりで勝ち進んだ県大会。準決勝の聖望学園戦では、1点を追う九回に佐藤が逆転サヨナラ2ランを放つ勝負強さも見せ付けた。この日の決勝でライバルに夏の雪辱を果たした。「選手たちは、この試合に期するものがあった」と森監督。佐藤も「負けた悔しさをぶつけた」とうなずいた。
関東大会まで約1カ月。明石は「課題を克服したい。まだまだです」と引き締める。2年連続の選抜大会出場へ、新たな一歩を力強く踏み出した。
◇喜び控えめ、視線は選抜
一度死にかけたチームは強かった。浦和学院が今夏の準決勝で敗れた花咲徳栄を13安打11得点の猛攻で粉砕した。3年連続12度目の栄冠を獲得した森監督は「3連覇? そうですね。でも過去のことを意識しないで、目の前の試合を一つ一つ戦った結果です」。落ち着いた口調の中にも確かな手応えを感じていた。
準決勝の聖望学園戦は、3-4の九回に佐藤のサヨナラ2ランで何とか勝利をつかみ取り、「九分九厘負けゲームを越せたエネルギーが大きな財産になった」と森監督。この土俵際でのうっちゃりがナインに新たな息吹をもたらした。
3-0の六回表、ここまで好投の先発山口が適時打と自身の2度の暴投であっという間に同点に追い付かれる前日と同じような展開。だがその裏、すぐさま悪い流れを断ち切った。
1死二塁から、明石の左前適時打と緑川の内野安打で勝ち越す。勢いは加速し、七回にも2点を追加すると、八回は笹川の3ランなどで4点を奪った。六回以降に9安打8得点と底力を発揮。2度のスクイズを含め犠打を5度全てで決めるなど、強打に手堅い攻めをミックスさせ花咲徳栄投手陣を切り崩した。
夏は県大会の準決勝で敗退したが、選抜大会に出場した佐藤、笹川、石橋らがチームを引っ張った。「夏は甲子園に行ってない分、うちは負けてはいけなかった」と指揮官。試合後に昨年のような胴上げはなく選手の喜びも控えめだった。期待が懸かる関東大会連覇へ、主将の明石は「一戦ずつ勝って結果的に優勝にたどりつきたい」。あくまで目標は全国制覇。浦和学院の新たなスタートに、おごりはみじんもない。
◇流れ呼ぶ“星”の一打
1日の準決勝で流した悔し涙は、決勝では満面の笑顔に変わった。浦和学院主将の明石が同点に追い付かれた六回、1死二塁で勝ち越しの左前打。力強いガッツポーズを繰り出し、「心が体を動かした」と大喜びだ。
決勝には特別な思いで臨んだ。聖望学園との準決勝、同点で迎えた七回1死満塁で森監督はそれまでの2打席無安打の明石に代打を出した。勝ち越しの絶好機で打席に立てず、「貢献できなかった。キャプテンとしても情けない姿を見せた」と悔しさで胸が張り裂けそうだった。
そして、この日めぐってきた同じシチュエーション。前の打席で左前打を放った感触は残っている。今度こそ結果を残したい。「チームのために」と、こん身の一打は左翼を抜けた。そこからチームは一気に攻撃。ライバルを引き離す分岐点になった。
名前は「飛真(ひゅうま)」。野球漫画の名作「巨人の星」の主人公、星飛雄馬が由来だ。活躍を願う両親の思い、チームの思いを背負い「関東でも勝って、目標は甲子園優勝」と“浦学の星”になる決意だ。
◇堂々投球に大物感
182センチの本格派・浦和学院の山口が大舞台で初先発初完投。変化球主体の堂々とした投球は早くも大物感が漂い、「気持ちで投げた」とライバル打線に投げ勝った。
大会前にぎっくり腰を患い、痛み止めを飲んでの登板だった。六回に暴投などから3失点したものの、その後の回は三者凡退と気迫で投げ切った。森監督は「まだまだ信用ない」と辛口評価だが、期待の裏返しとも取れる。「先発はすごくうれしかった」と初々しい1年生が、関東大会制覇の切り札になりそうだ。
◇大勢決めた初アーチ
浦和学院の主砲・笹川が八回1死一、三塁で3ラン。「勝負強いところが強み」と胸を張る打の柱が、公式戦初本塁打で左翼席にアーチを架けた。
森監督に「一緒に甲子園に行こう」と誘われ、茨城県から越境入学。1年生だった今春の選抜大会では、主力として甲子園に立った。自分たちの代でも出場を狙い、まずは県大会で3連覇。関東大会は「一戦一戦ものにしたい」と手堅く頂点をつかむことを誓った。
◇夏秋逃すも収穫の準V
“トクハル”野球はいまだ発展途上―。花咲徳栄は3点差を追い付く粘りを見せたが、その後突き放され、夏秋連覇を逃した。「要らない失点が多過ぎる。取れるアウトをしっかり取らないと」と岩井監督。1年生5人が先発に入る若さゆえ、ミスは想定内だったようだが、手放した流れを立て直す力はなかった。
四回無死一、二塁で走者を送れず好機を逃すと、裏の守りで失策が絡み、3点を先制された。同点後の六回も死球と失策で進塁を許し、勝ち越し点を献上。3失策がすべて失点につながった。
甲子園のレギュラーがすべて入れ替わり、新チームのスタートは最も遅かった。チームがばらばらなまま初戦敗退した昨年秋の悪夢もあった。3人残った甲子園メンバーの一人、4番藤原は「去年、どういうことをしたら負けるか分かった。ミスしても落ちずに声を出して雰囲気を上げる」。
今大会は2回戦の大宮西戦でサヨナラ勝ちして勢いに乗り、関東切符を取るところまで来た。最後は力尽きたが、花咲徳栄の緻密な野球をつくり上げるのはこれからだ。
岩井監督は「負ける悔しさ、怖さを分かったことが一番の収穫」と前を見る。選抜大会に出場した2003、10年とも、前年秋の県大会決勝で浦和学院に敗れた悔しさを糧にして、関東大会で勝ち進んだ。光輝く春へ向け、希望の火はまだ消さない。
◇ほろ苦い初先発
公式戦初先発で大事な決勝のマウンドを託された花咲徳栄の右腕高橋は6回3分の2を9安打7失点で降板。「どの球種でも今の球威では高めは打たれる」と肩を落とした。
同点後の六回、「4番なので少し力んだ」と先頭に死球を与えてピンチを招き、勝ち越された。3月に上投げから横投げに変え、制球が安定。球速も最速130キロ中盤まで伸びた。エース上田が連投となるため、訪れたチャンスを生かしたいところだったが、アピールできず「低めに投げることが課題」と反省した。
◇成功と失敗 貴重な体験
1年生ながら打撃センスを買われて3番に固定された花咲徳栄の楠本。決勝では成功と失敗の貴重な体験を味わった。
0-0の四回無死一、二塁でセーフティーバントを試みたが、投前に転がり走者を進められず。続く六回の第3打席では初球を打ち、反撃の口火を切る右前適時打。ミスを返そうと、「何を打ったか覚えていない」というほど集中していた。
浦和学院の優勝をベンチで見届け、「高校野球の厳しさが分かった。関東大会でリベンジしたい」と雪辱を誓っていた。
(埼玉新聞)
◇バットで恩返し
浦和学院の石橋司選手が2安打2打点と活躍した。四回1死二、三塁、狙っていた直球を右前に運び、先制の2点を挙げた。七回にも左越えの二塁打を放った。今大会は打ちたい気持ちが先走り不調が続いた。準決勝で「チームのため」と、思い切り良く振って2打点をあげ吹っ切れた。試合後、「結果を出せていなかったのに、ずっと使ってもらって。少しはチームに恩返しができたかな」と喜んだ。「この感覚を忘れずに、関東大会でも頑張りたい」
◇走攻守すべて課題--明石飛真・浦和学院主将
苦しい準決勝(聖望学園戦)をものにできたことが優勝につながった。うれしいが、目標は昨年に続き関東大会での優勝。走攻守すべてに課題があり、克服して自分たちの戦いができるよう謙虚に頑張りたい。
(毎日新聞埼玉版)
◇浦和学院・森士(おさむ)監督
「3連覇という意識はなかった。夏の大会の雪辱を、との思いが選手たちにあった。関東大会では選手の力を全力でぶつけていくだけ」
(読売新聞埼玉版)
■決勝(10月2日・県営大宮)
花咲徳栄
000003000=3
00030224x=11
浦和学院
【花】高橋、小栗-若月
【浦】山口-林崎
▽本塁打 笹川(浦)
▽二塁打 石橋(浦)
【打撃成績】
⑥ 竹 村4-2-0
② 林 崎3-2-0
⑧ 佐 藤5-1-2
⑨ 笹 川3-1-3
⑦ 石 橋5-2-2
③ 明 石4-3-1
⑤ 木 暮3-0-2
① 山 口4-1-0
④ 緑 川3-1-1
(打数-安打-打点)
【投手成績】
山 口 9回、被安打5、7奪三振、与四死球2、失点3、自責点3
安 打:浦13、花5
三 振:浦0、花7
四死球:浦4、花2
犠 打:浦5、花1
盗 塁:浦3、花1
失 策:浦1、花3
併 殺:浦0、花0
残 塁:浦8、花5
終盤に地力の差を見せた浦和学院が、13安打11得点の猛攻で花咲徳栄に快勝した。
浦和学院は3-3の六回、明石の左前打と緑川の内野安打で勝ち越しに成功。七回に2点を追加すると、八回には笹川の3ランなどで4点を奪い、ダメを押した。先発山口は変化球中心の投球で被安打5、3失点。味方の好守にも助けられ138球で完投した。
花咲徳栄は3点を追う六回に、楠本の適時打と2度の暴投で同点に追い付いたが、投手陣が踏ん張れなかった。
(埼玉新聞)