【写真】甲子園で8年ぶりの勝利を挙げ、主将の明石からウイニングボールを受け取る浦和学院の森監督(左から2人目)=21日、甲子園球場(埼玉新聞)
第84回選抜高校野球大会は21日、兵庫県西宮市の甲子園球場で開幕。第2試合に登場した2年連続8度目出場の浦和学院は、敦賀気比(福井)に10-2で快勝し、1回戦を突破した。5大会連続初戦敗退が続いていた同校の甲子園での勝利は2004年夏以来、6大会ぶり。選抜大会では03年以来、9年ぶり。
「一戦必勝」。今回こそ結果を出すと大会に臨んだ選手たちは、序盤から得点を重ねて主導権を握った。二回、竹村の左犠飛で先制すると、さらに佐藤の左中間への適時二塁打で2点を追加。三、四回にも山根の適時打、林崎の犠飛でそれぞれ1点ずつを加えた。
中盤に3点差まで追い上げられたが、九回にも”つなぐ打線”が本領を発揮した。無死一、二塁の好機に笹川が中前適時打。主将の明石にも2点適時打が飛び出すなど、一挙5点を奪い、ダメを押した。11安打で10得点と持ち前の強打を披露した。
昨年に続き先発のマウンドを託されたエース佐藤は2失点完投。立ち上がりからテンポの良い投球がさえた。序盤は直球主体、中盤以降は落ちる変化球も駆使した。前回不本意な投球で敗れた雪辱を果たした。バックも緑川、竹村の二遊間を中心に体を張った守備を見せ、無失策でエースを盛り立てた。
理想的な展開で手にした勝利。喜びは控えめだったナインだが、校歌を歌う姿は誇らしげだった。6大会ぶりに甲子園で白星を飾った森士監督は、「感無量です」と実感を込めた第一声。「選手が落ち着いてプレーしてくれた」と続け、お立ち台で満面の笑みを見せた。好投した佐藤も、「ずっと甲子園で校歌を歌いたかったから、うれしい」と声を弾ませた。
浦和学院は大会第6日第2試合で、10年ぶりのベスト8入りを懸け、三重と対戦する。
◇3安打の大暴れ 緑川
【写真】4回表浦和学院1死三塁、林崎の犠飛で三塁走者緑川が4点目の生還。捕手喜多(埼玉新聞)
浦和学院の陰の働き者が表舞台に躍り出た。9番緑川は敦賀気比が繰り出す3投手全員を打ち崩し、三塁打を含む3安打の活躍。2得点のほか1犠打1盗塁も決めるなど随所でらしさを見せた。
最初の打席で勢いに乗った。二回1死一塁で初球を犠打。これが三塁手の悪送球を誘ってチャンスを拡大し、3得点につなげた。「最初が肝心。バントを決めて楽になった。それが3安打につながった」と納得。「(打撃の)調子は普通。今日はたまたまです」と図に乗らない性格も長所だ。
◇つないで得点演出 林崎
【写真】4回表浦和学院1死三塁、林崎が右犠飛を放つ。捕手喜多(埼玉新聞)
聖地でも存在感を見せた。浦和学院の林崎は捕手としてエース佐藤を支え、打席でもつなぎの2番として光る働き。「佐藤が粘り強く投げてくれて完投につながった」と、まずは仲間をたたえた。
一回1死一塁で二塁を狙った走者を刺し、ピンチを未然に防ぐと、四回2死一、二塁ではすかさずマウンドに行き、「体が突っ込む悪い癖が出ている。ここで切り替えられなかったら交代だぞ」と佐藤を激励。続く打者を三振に切って取った。
打っては「つなぐことと塁に出ることが自分の一番の役割」と仕事を全うした。1安打のほか2四球を選び、2度本塁に生還。四回1死三塁では確実に右犠飛を放ち、チーム5点目を奪った。
「一戦必勝で全国制覇する。ここで終わりじゃない」という扇の要の頼もしさは増すばかりだ。
◇苦しい歴史に終止符
【写真】2回表浦和学院2死一、三塁、佐藤が左中間に2点二塁打を放つ。捕手喜多(埼玉新聞)
たかが1勝、されど1勝。全国で勝つことの難しさを痛感してきた浦和学院が苦しい歴史に終止符を打った。敦賀気比を寄せ付けず、2004年夏以来実に8年ぶり、春夏合わせて出場6大会ぶりの甲子園1勝。試合後の森監督は「感無量です。ありがとうございます」と満面の笑みを見せた。
投打、攻守が絶妙にかみ合った。先攻の一回1死満塁のチャンスで後続が凡退。拙攻が続いて焦りが出るのはこれまでの悪いパターンだ。しかし、直後の守りで捕手林崎が走者を刺すなど無失点で流れを引き寄せると、二回の攻撃で見せた。
山根、緑川の下位打線が1死二、三塁の好機をつくり、1番竹村の犠飛で先制。林崎が四球でつなぐと、3番佐藤が左中間へ2点適時二塁打を放った。9度のゴロを無難にさばいた竹村は「守備からリズムをつくるのが浦学のパターン」。林崎は「つなぐことを考えた」と、それぞれが自分の持ち場で力を発揮した。
その後も三回に山根の適時打、四回に林崎の犠飛で1点ずつを追加。九回には打線がつながり、5点を奪った。投げては昨年の選抜で不本意だったエース佐藤がバックにも助けられ、6安打2失点で完投。投打ともに理想的な試合運びだった。
主将の明石が「初日のいい緊張感で落ち着いてできた」と話すように、普段通りの野球ができたことが大きな勝因。4番笹川は「うれしいけど次が勝負。たまたま1回勝ったと言われるのは嫌だ」と気を引き締める。
一つ壁は越えた。しかし、満足していたら次はない。ここからが真価の見せどころだということを選手自身がよく分かっていることが頼もしい。
◇聖地に気負わず新2年生が堂々 山根
外野のスタメンを勝ち取った浦和学院の新2年生・山根が得意の打席で見せ場をつくった。
二回1死から四球を選び、その後に竹村の犠飛で先制の生還。「先制のホームを踏んでほっとした。そのまま行けそうだと感じた」と甲子園に慣れると、三回2死二塁でチーム4点目の右前打。九回にも一塁線を抜く適時二塁打を放った。
九回の適時打については「笹川さんの適時打で、その勢いのまま打たせてもらった。今度は自分がチームに勢いをつけたい」と先輩を立てていた。
◇一戦必勝でやる 浦和学院・笹川右翼手
(4番で九回に適時打)「次につながる一打になったので良かった。甲子園に入ったときから先輩たちの借りを返すつもりでやってきた。まず一つ返せた。日本一を取りに来たので、先を見ずに一戦必勝でやりたい」
◇次は1番らしく 浦和学院・竹村遊撃手
(先制犠飛のほか、9度のゴロをさばく)「守備で地に足が着かない感じがあったけど、落ち着いてできたと思う。犠打は打ったけど、先頭打者としてチャンスをつくれなかった。次は1番らしくいきたい」
◇エース佐藤、投打で躍動 1年間の成長を証明
1年越しの舞台で、浦和学院の大黒柱が誰なのかということを明らかにしてみせた。エース佐藤が6安打2失点で完投。打っても決勝点となる2点適時二塁打を放ち、「ずっと(甲子園で)校歌を歌うために練習してきたのでうれしい」と喜んだ。
最初の見せ場は打席で訪れた。二回に先制した後、続く2死一、三塁のチャンスで初球の外角直球を逆らわず左中間へ。「四球の後はストライクを取りに来たがる。初球を狙った」と、2人を迎え入れる殊勲打だった。
本職の投球ではバックに支えられて試合をつくった。三回に犠飛、五回に内野ゴロの間に失点したが、適時打はなし。四回2死一、二塁のピンチでは、この日左打者に有効だった決め球のツーシームで三振を奪った。
昨年は1回戦に先発したが、冷静さを欠き、7四死球、3暴投、失策にボークまで犯すなど散々な内容だった。秋の明治神宮大会でも結果を出せず、「神宮で負けて、春の選抜でも悔しい思いをして、全国で力を発揮することを目標に取り組んできた」と屈辱をばねに、1日200球の投げ込みなどで鍛えてきた。
森監督も「一冬頑張ってきた成果。大舞台で本領発揮してくれた」と1年間の成長にうなずく。汚名返上した背番号1はもう自分を見失うことはない。2回戦ではさらに自信をつけた姿でマウンドに立っているはずだ。
◇8年待った校歌 浦学、初戦突破
【写真】アルプス応援席で浦和学院応援団と一緒に声援を送る宮城県石巻市の鹿妻・子鹿クラブスポーツ少年団の子どもたち=21日午後、甲子園球場(埼玉新聞)
8年ぶりの甲子園勝利だ―。21日に開幕した第84回選抜高校野球大会で、2年連続8度目出場の浦和学院が第2試合に登場。敦賀気比(福井)に10-2で快勝し、1回戦を突破した。2004年夏以来、聖地で響き渡った校歌に、駆け付けた約1000人の応援団も歓喜に酔いしれた。
最前列で控えの野球部員たちと一緒にメガホンを振ったのは宮城県石巻市の鹿妻・子鹿クラブスポーツ少年団野球の子どもたち。東日本大震災で被災した同チームと浦和学院野球部は昨年から野球を通じて交流を深めてきた。12月には子どもたちが浦和学院を訪問し、逆に選手たちは2度にわたって石巻を訪れ、ボランティア活動などを行った。
昨夜、小学生4人、中学生3人を含む13人がバスで石巻を出て、約13時間をかけてたどり着いた。6年生チームの主将である阿部蓮君(12)は「注目選手は(投手の)佐藤君。甲子園で優勝できるように頑張って」と応援。芳賀海斗君(12)は「楽しみにしていた。みんなが熱くなれる試合を見たい」と期待した。
昨年は震災の直後だったため、大会を通じて鳴り物応援を自粛。学校としても在校生徒の応援団を募らなかった。今回は学校からバス24台で約700人の応援団を結成。一般の参加者も合わさって、三塁側のアルプス席を埋めた。
吹奏楽部部長の安西和哉さん(17)は「去年は試合があったのに、応援がなくて残念だった。去年の分も応援したい」と力強い一言。昨夏に野球部を引退し、今月に卒業したOBの反謙雄さん(18)は「自分たちは1回戦で負けた。何としても1回戦を勝ってほしい」と声援を送り続けた。
試合はエース佐藤拓也選手らそれぞれの選手が持ち味を発揮し、終盤は相手を圧倒した。野球部父母会長の緑川美博さん(44)は「選手はもっと硬くなるかと思ったけど、伸び伸びしていた。校歌を歌えた感動が一番」と、勝利を呼んだナインに感謝した。
(埼玉新聞)