第85回選抜高校野球大会は、決勝戦で浦和学院(埼玉)が済美(愛媛)を17対1で下し、春夏を通じて初優勝を飾った。浦和学院の森士(もり・おさむ)監督(48)は、27歳で監督に就任して春夏通算18度目の甲子園でつかんだ悲願である。心から「おめでとう」と申し上げたい。
過去に甲子園練習で何度か拝見した浦和学院の選手たちのキビキビとした動きは、鮮明に私の目に焼きついている。グラウンド内では常に全力ダッシュであり、声は常に腹の底から発せられ、はつ剌颯爽としていた。その動きや言葉には『魂』を感じた。高校野球のお手本といえるだろう。私も多くのものを学んで地元に帰ったような気がする。
森監督といえば上尾高校(埼玉)の名将・野本喜一郎氏(故人)の愛弟子である。私は22歳で監督を引き受けて、部員もまともに集まらない野球部からスタートした。当時は、どうしたら弱小チームが強くなれるのかと指導について日々悩んでいた。
色々な世界を身につけ、それを指導に役立てようと一心不乱に本を読んだ時期でもあった。さまざまな本を手にしたのだが、感銘を受けて手本とした指導者の一人が、野本氏であった。
高校野球の名将として全国に知られた人である。その厳しさ、一徹な心、妥協を許さない姿勢から多くを学んだ。一方で、厳しさの中にも人間としての優しさ、弱者に温かいまなざしを向けていたことを思い出す。
「厳しさと優しさの同居」。これが指導者として不可欠な条件ではないかと今でも思っているが、名将と呼ばれる多くの人は、この二つの条件を併せ持って『人間力』を発揮しているように思うのだ。森監督にみる厳しさと優しさは、野本野球が源泉となっているような気がする。
しかし、この厳しさは優しさに追い越されてはならない。あくまでも、厳しさが根本なのである。優しさが先行してはならないのだ。
褒める効果は、叱ることで、より鮮明に現れる。褒めることに意識が縛られ、叱ることを忘れた教育になってはならない。叱ることを忘れた教育は、子供をわがままにする教育でしかないことを、肝に銘じるべきである。厳しさあっての優しさなのである。
敗れた済美の名将・上甲監督の笑顔も、厳しさに裏付けられた笑顔なのだろう。済美の決勝戦での敗退は、選抜大会では初めてだという。上甲監督が、いかに負けない指導者であるかを実証している。これも偉大な記録というほかない。
いずれにしても、厳しさを秘めた両チームが決勝の場で雌雄を決したことに心からの喜びを感じている。
(サンスポ)