第87回選抜高校野球大会第3日は23日、兵庫県西宮市の甲子園球場で1回戦3試合が行われ、一昨年覇者の浦和学院は、史上3校目の春連覇を狙った龍谷大平安(京都)に延長十一回の末、2-0で競り勝った。1回戦屈指の好カードにふさわしい緊迫した投手戦。最後は浦和学院が昨秋の関東王者、明治神宮大会準優勝の地力を見せ、2年ぶり2度目の全国制覇へ弾みのつく勝利をつかんだ。
浦和学院・江口、龍谷大平安・高橋の両左腕エースが、互いに譲らず好投。スコアボードにはゼロが並んだ。
江口は「好ゲームになることは分かっていた。マウンドを楽しんだ」と大舞台に気後れすることなく、落ち着いた投球を披露した。二回1死満塁の大ピンチは強気に内角を攻め、併殺に切って取った。六回1死三塁では、三ゴロを三塁手諏訪が迷わず本塁へ送球して生還を阻止。一本許せば、流れが大きく傾く場面だったが、堅守に支えられ無失点で乗り切った。
試合は今大会初の延長戦へ。打線は延長十回まで、毎回のように走者を出したが、高橋の粘りの投球の前に、あと一打が出ていなかった。
迎えた十一回、先頭の4番山崎滉が四球で歩くと犠打で進塁。2死二塁から荒木が「無心で打った」と、左前へ先制タイムリーを放ち、ついに均衡を破った。続く西野も右翼線へ二塁打を放ち貴重な追加点。初の連打で2点を奪い、勝利を大きく手繰り寄せた。
徐々に調子を上げた江口は七回以降、安打を許さなかった。127球で3安打完封。高橋との投げ合いに勝った。
2年ぶりの全国制覇へ好スタートを切った浦和学院の森監督は、「感無量です」と喜びを口にした後、「優勝候補に勝ったことを励みにしながら、一戦必勝で戦っていきたい」と表情を引き締めた。
浦和学院は27日の大会第7日第3試合で英明(香川)-大曲工(秋田)の勝者と対戦する。
◇浦学、緊迫の投手戦制す 延長11回決着 2度目Vへ好発進 |
第3日は1回戦3試合が行われ、一昨年の選抜大会を制した浦和学院や昨秋の明治神宮大会で優勝した仙台育英(宮城)敦賀気比(福井)が2回戦に進出した。
浦和学院は延長十一回、史上3校目の連覇を狙った龍谷大平安(京都)に2-0で競り勝った。十一回に荒木の適時打で均衡を破ると、続く西野の二塁打で加点。左腕江口が散発3安打に抑えて完封した。
仙台育英は18安打の猛攻で神村学園(鹿児島)に12-0で大勝した。佐藤世は再三走者を許しながらも、要所を抑えて完封した。宮城勢は春30勝目。
昨夏4強の敦賀気比は春夏通じて初出場の奈良大付に3-0で完封勝ち。打線は小刻みに得点し、エース平沼は無四球で10三振を奪って1安打に封じた。
◇不屈の闘志 魂の127球 江口 |
決して本調子ではなかった。それでもホームを踏ませないエースの背中に不屈の闘志を見た。11回を投げ抜き、127球3安打完封で初戦突破に貢献した左腕江口。「終盤は自分のテンポで投げることができた」と冷静に試合を振り返った。
二回1死満塁のピンチでは内角直球で注文通りの併殺を誘った。「インコースの真っすぐが決まりだしてからは組み立ても楽になった」と、チェンジアップやカットボールを織り交ぜながら凡打の山を築いた。
一昨年の9月、視神経の炎症で右目の視界が突然狭くなった。「いきなり野球ができなくなり、何も役に立てなくなったらどうしようと心が折れそうになったとき、みんなに支えてもらった」。約1年間に及んだ投手としてのブランクも、血のにじむ努力と感謝の心で肥やしに変えた。
「この舞台に立っていること自体が神懸かり的な強さ」と森監督。江口は「全員で束になって全力で戦う」とチームプレーにこだわる。仲間の支えと自身の気力で病魔を乗り越えたエースに怖いものはない。
◇努力の成果 結果で示す |
緊迫した場面で発揮される勝負根性こそ、ウラガク野球の真骨頂だ。
試合前日の練習後、森監督は「一人一人の打者が気力負けしないこと」と試合のポイントを挙げていた。ナインは龍谷大平安のエース左腕高橋に対して積極的にバットを振っていく姿勢を貫き、好投手のペースにのみ込まれなかった。
一回の第1打席で初球を中前に運んだ諏訪のバッティングもチームを勇気付けた。「緊張はなかった。やってきた自信があった」と諏訪。冬場はチーム全員が多い日で2千本の素振りをこなし、狙い球を逃さないスイング力を身に付けた。
0-0で迎えた延長十一回2死二塁のチャンスで、森監督は「来たボールを全て打て」と荒木に指示を出した。内角低めのスライダーに体勢を崩しながらも、しっかり振り抜いて左前に運んだ。
粘り強い投球でチームを勝利に導いた先発のエース左腕江口も「絶対に1点もやらないつもりで投げた」と大舞台で気迫を前面に出した。強気に内角を攻める姿に背番号1の風格が漂った。
「この試合で勝つことができたことが素直にうれしい」と主将の津田。前回王者を接戦の末に破って手にした白星は、1回戦突破という額面以上の大きな意味を持つ。冬の努力が結果に表れた自信を胸に、目指す高みへ速度を増して突き進む。
◇勝利呼び込む一振り 荒木 |
第1、第2打席と続けて空振り三振に倒れていた7番荒木は「初心に戻って、来た球を上からつぶして打ってやろう」。延長十一回2死二塁の好機で、内角低めのスライダーを左前に運んで勝利を大きく引き寄せた。
広角に打ち分ける打撃が最大の特長。昨秋は関東大会準決勝でサイクル安打を記録したほか、チーム最高打率の4割9厘を記録。それでも成績に甘んじることなく、「冬の間はセンターに鋭い打球を打ち返すことを意識してきた」と努力を重ねてきた。
マイペースな性格で普段は周囲と絡むことが少ないものの、主将の津田も「一番信頼できるバッター」と評価するほど打撃面での信頼は厚い。静かに自分を磨く巧打者は「次も一球一球集中して打っていきたい」と次なる舞台を見据えた。
◇攻守でけん引 光る存在感 西野 |
チームの姿勢を象徴する貴重な追加点となった捕手西野の適時打。決勝打を放った荒木に続いて「1球目から積極的に振っていけた。ボールをつぶせたからこそ詰まっていたけど抜けた」と右翼線を破る適時二塁打で粘りの投球を続けてきた江口をアシストした。
女房役としても「1週間前はカットボールが高めに浮いていた。腕を振った中で変化球が低めに集められた」と巧みにリード。地元関西の空気を吸って生き生きしてきた扇の要が、攻守で投手陣をけん引してみせる。
◇主砲の山崎 走塁で貢献 |
4番打者山崎が、果敢な走塁で勝利に貢献した。延長十一回に四球で出塁し、犠打で二塁へ。2死後、荒木が2ストライクとなるとサインが出た。「けん制がないと思った瞬間にいった」とスタートを切ると荒木の打球が左前に抜け、先制のホームを踏んだ。
181センチ、86キロの主砲は、相手に警戒され3四球。バットで試合を決めることはできなかったが「森先生のサインはゲームの流れを読んでいる」と指揮官の采配に感心しきりだった。
◇3安打に加え、守備でも躍動 諏訪 |
3安打に加えて守備でも躍動した諏訪。前日にフルスイングを予告していた第1打席は「イメージ通り」と有言実行の初球打ち。華麗な中前打でナインを勇気付けた。
関西入りした翌朝に39度の高熱を出したが、昨夏の猛練習の中で津田とともに皆勤を達成した持ち前の気力で全快。「メンバーから外れるところだった。間に合ってよかった」と憧れの甲子園で輝きを放った。
上り調子の新2年生は「1番として出塁する役目を果たしたい」とさらなる活躍を誓った。
◇大接戦、声の限りに 優勝信じ心一つ |
第87回選抜高校野球大会第3日は23日、兵庫県西宮市の甲子園球場で1回戦3試合が行われ、2年ぶりの全国制覇に挑む浦和学院が第3試合に登場。連覇を狙う前回王者・龍谷大平安を延長戦の末に2-0で破り、27日の2回戦に進出。一塁側アルプス席を赤く染め上げた応援団も喜びを爆発させた。
21日の開会式前から現地でチームを見守ってきた保護者やOBに加え、試合当日は学校からバス10台、300人を超える大応援団が駆け付けた。生徒会長の服部龍さん(17)は「野球部は朝から晩まで練習している。必ず優勝できると信じている。みんなで心を込めて応援したい」。野球部の日頃の努力を知っている生徒たちは、ナインの活躍を自分のことのように喜んだ。
吹奏楽部部長の金子陸さん(17)も「行事などで練習時間が少なかったが、全力で練習してきた。日本一の応援ができるように頑張りたい」と話していた通り、テンポよく壮大な演奏で選手たちの背中を後押しした。
初めての応援団長を務めた田村将一選手(17)は制服に鉢巻姿で気合十分。「自分たちの応援でグラウンドとスタンドが一体となり、ウラガクの気で甲子園を支配する」と声を張り上げて大応援団をまとめ上げた。
エース左腕江口奨理選手の父・文彦さん(47)が「マウンドに上がると別人のようになる。チーム全員が全力を出し、できるだけ長くマウンドに立ってほしい」と期待した通り、試合では江口選手が延長十一回まで相手打線を完封する好投を披露。十一回2死二塁から荒木裕也選手が左前へ値千金の適時打を放つと、地響きのような歓声が聖地に鳴り響いた。
野球部父母会長の小宮昇さん(46)は「選手たちを応援する気持ちでスタンドが一体となっていた。初戦という緊張感の中、落ち着いたプレーができていた」とナインの戦いぶりをたたえた。
(埼玉新聞)
◇実った素振り1日2000回 荒木選手・西野選手 |
均衡を破ったのは、7番荒木裕也選手(3年)のバットだった。延長十一回、2死二塁で打席に入った。「絶対に打ってやる」。カウント2―2からの6球目。内角低めのスライダーを左前に運んだ。流れを引き寄せる先制打を放ち、「まっすぐを待っていたけど、うまく拾えた」と笑顔を見せた。
冬場の積み重ねが実った一打だった。
荒木選手は昨秋の公式戦14試合でレギュラートップの打率4割9厘。関東大会ではサイクル安打を放つなど、巧みなバットコントロールで強打を誇る浦学を下位打線から支えた。
しかし、昨年11月の明治神宮大会の決勝で相手投手にほんろうされる。その反省から、チームは先月まで毎日、1日2千回の素振りを続けた。「手袋禁止で、豆ができて大変だった」と振り返る。
その成果は九回に現れる。相手投手の決め球・低めのスライダーを左前に。この安打でできた余裕が、十一回の決勝打につながった。「(今日のような)甲子園の勝負どころで打つためにやってきた」と胸を張った。
先制打の直後には、「荒木の一打を無駄にできない」と西野真也選手(3年)が一塁線を破り、二塁の荒木選手を迎え入れた。森監督は「打てずに本当に苦しかった。だが、下位打線がよく振ってくれた」とたたえた。
(朝日新聞埼玉版)
◇励まし競う“王者対決” 「頂点目指せ」敗者エール |
23日の第87回センバツ第3日の第3試合は昨年と一昨年の覇者の対決となり、2年ぶりに頂点を狙う浦和学院(埼玉)が、連覇を目指した龍谷大平安(京都)を延長戦の末に降した。両校は毎年のように練習試合をし、切磋琢磨(せっさたくま)してきた好敵手だ。中学時代のチームメートや選抜チーム仲間も敵味方として再会し、「負けられない戦い」に臨んだ。
沖縄出身で浦和学院の幸喜勇諮(こうきゆうし)選手(2年)と、京都出身で龍谷大平安の市岡奏馬(そうま)選手(2年)は中学3年の夏、所属する硬式野球リーグで米国遠征メンバーに選ばれた。1、2番として遠征チームの優勝に貢献し、「甲子園で戦おう」と誓い合った仲だ。
両校の出場決定時に市岡選手が「決まったな。試合で当たったらよろしく」とメールを送った。対戦が決まって開会式前日に顔を合わせると、「勝負やな」「絶対に負けない」と火花を散らした。幸喜選手は決勝点につながるバントを決め、市岡選手は1安打を放った。
この日出場しなかった浦和学院の控え捕手の氏丸直岐選手(3年)と龍谷大平安の江口時矢主将(3年)は中学時代、奈良県内の同じチームにいた。周りから遅れて1年の夏に加入し、溶け込めずにいた氏丸選手に、最初に声をかけてくれたのが江口選手だった。それから互いの家に泊まり合うほど親しくなった。
浦和学院への進学が決まり、江口選手から「会えなくなるな。絶対甲子園に出ろよ」と送り出された氏丸選手だが、試合になかなか出られない。沈んでいた今年1月、江口選手の主将就任を知った。「俺だって江口と一緒に野球をやってきたんだ」。自分を奮い立たせ、センバツではメンバー入りした。
“王者対決”は延長十一回で決着。浦和学院の氏丸選手は「江口の存在を励みにここまで来られた。今度はお互いグラウンドに立ちたい」と、幸喜選手は「夏に会おうと市岡に言いたい」と話した。龍谷大平安の江口選手は「氏丸は一緒に練習した仲間だし、このまま勝ち上がってほしい」と言い、市岡選手は「夏に向けてレベルを上げたい。浦和学院には頂点まで進んでほしい」とエールを送った。
(毎日新聞大阪版)
試合結果 |
1回戦 3月23日(甲子園球場) | ||||||||||||||
TEAM | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 計 | H | E |
浦和学院 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 2 | 10 | 1 |
龍谷大平安 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 1 |
【浦】江口-西野【龍】高橋-吉村 ▽二塁打:西川(龍)西野(浦) |
浦和学院打撃成績 | ||||
位置 | 選手名 | 打数 | 安打 | 打点 |
⑤ | 諏訪 | 5 | 3 | 0 |
④ | 臺 | 4 | 1 | 0 |
⑥ | 津田 | 5 | 1 | 0 |
③ | 山崎滉 | 2 | 1 | 0 |
⑧ | 幸喜 | 3 | 0 | 0 |
⑨ | 高橋 | 3 | 0 | 0 |
H9 | 新谷 | 2 | 0 | 0 |
⑦ | 荒木 | 5 | 2 | 1 |
② | 西野 | 5 | 2 | 1 |
① | 江口 | 5 | 0 | 0 |
計 | 39 | 10 | 2 | |
龍谷大平安打撃成績 | ||||
位置 | 選手名 | 打数 | 安打 | 打点 |
⑧ | 城島 | 5 | 0 | 0 |
② | 吉村 | 4 | 0 | 0 |
④ | 橋本 | 4 | 0 | 0 |
⑦ | 西川 | 5 | 2 | 0 |
③ | 正木 | 3 | 0 | 0 |
① | 高橋 | 3 | 0 | 0 |
⑤ | 堀北 | 3 | 0 | 0 |
⑥ | 城ヶ原 | 2 | 0 | 0 |
⑨ | 市岡 | 4 | 1 | 0 |
計 | 33 | 3 | 0 |
投手成績 | ||||||||
TEAM | 選手名 | 回 | 球数 | 被安打 | 奪三振 | 四死球 | 失点 | 自責点 |
浦和学院 | 江口 | 11 | 127 | 3 | 5 | 5 | 0 | 0 |
龍谷大平安 | 高橋 | 11 | 147 | 10 | 5 | 3 | 2 | 1 |
TEAM | 三振 | 四死球 | 犠打 | 盗塁 | 暴投 | 失策 | 併殺 | 残塁 |
浦和学院 | 5 | 3 | 3 | 1 | 0 | 1 | 2 | 10 |
龍谷大平安 | 5 | 5 | 2 | 0 | 0 | 1 | 1 | 7 |
息詰まる左腕同士の投手戦を浦和学院が制した。延長十一回2死二塁から荒木の左前適時打で均衡を破ると、西野も二塁打で続き、この回2得点。江口はチェンジアップを有効に使って的を絞らせず、3安打で完封した。
龍谷大平安は打線が序盤の好機を生かせなかったのが響き、力投の高橋に報いることができなかった。