選手自らが判断し、律する「自律性」のある行動。それが「新生・浦学」の原動力だ。浦和学院(さいたま市緑区)は森大・新監督(31)のもと、7年ぶりの4強入りを果たした。
大会で勝ち上がるごとに、記者の目には自律した選手の姿が見えた。
2回戦の和歌山東戦。相手の麻田一誠投手(3年)は外角中心に攻めてくると試合前に分析していた。
だが、最初の打席に立った2番打者の伊丹一博選手(3年)は感じた。「自分の時は内角に来ている」。次打者の金田優太選手(3年)に伝えたという。
「そこから狙い球を変えた」という金田選手。3打席目に内角の直球を振り抜き、本塁打を放った。自ら判断した行動が、結果につながった瞬間だった。
「自律性」を高めるトレーニングは、昨秋に就任した森監督が取り組んだ改革の一つだ。父で前監督の士さん(57)が伝統にしていた朝練を廃止。練習を短くする代わりに、選手が1人で考える時間を増やした。
「小論文」もその一つだ。森監督は「データを読み取る頭も必要」と、スタメン選びにも小論文の内容を加味していたという。
準々決勝までの3試合(23イニング)を投げ、3失点に抑えたエース左腕・宮城誇南選手(3年)は「『のび太』という生きかた」という本を読み、小論文を書いた。
これまでアニメの中で「のび太はできない子」という印象を持っていた。だが本を読み、異なる視点で書かれたのび太の姿に、自らの固定観念に気づいたという。以後、宮城投手はチームメートと話す時、自分の考えと異なる考えに触れても「こういう考え方もあるんだ」と解釈できるようになったという。
主将の八谷晟歩選手(3年)は「ミーティングで自分の言葉で伝えられるようになった」。それまでは「失敗をしてはいけない」というプレッシャーがあったが、今は「ミスは誰にでもある。そこでどうするかが大事」と考える。「前は許してもらうためにやっていた。今は自分のために」
監督とおこなうミーティングは、時には自分から開く。「次の試合でどう戦うか」をメンバーと話し合い、自ら紙にまとめて監督に出しに行くという。
「自律性」を磨いて4強入りした浦和学院。近江(滋賀)にサヨナラ負けした準決勝の終了直後の取材では、ほとんどの選手がすでに課題を分析し、夏に向けて練習に取り組んでいく意欲を見せていた。勝利だけにこだわらない選手たちの可能性が感じられた。
「新生・浦学」は既に次を見据えている。