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<今どき高校野球論>浦和学院、自主性尊重 監督が目指す「考えさせる指導」

【写真】投球フォームについて話す森監督(左)と選手=さいたま市緑区代山

 さいたま市緑区にある浦和学院の野球グラウンドで6月中旬、森大監督(33)と一人の投手が話していた。直前にあった練習試合でエラーをしたばかりだった。

 「この失敗を次に生かそう。原因は何だったと思う?」。森監督が問いかけると、この選手は「(ボールを捕る時の)腰の位置が高くなってしまっていました」と自分のプレーを分析した。

 これに対し、「そうだね。でも、(エラーだけではなく)良かった投球もあった。その時のフォームを常にイメージしよう」と返し、選手を送り出した。

 甲子園の常連校で、選抜大会の優勝経験もある浦和学院。森監督は「社会の変化とともに、高校野球も変わっていかなくてはならない」と、選手の自主性を尊重することの重要性を説く。

 森監督は早稲田大の大学院で、規律と自主性から考える「PM型理論」に基づいて高校野球の指導法を研究した。森監督によると、Pはパフォーマンスの略で、強い規律でチームをまとめる指導、Mはメンテナンスの略で、選手の自主性・主体性を重視した指導と言い換えられる。

 前任で父の士さん(60)が監督だった時代の浦和学院は、厳しい叱責が日常的にあるなど、規律を非常に重視したPの要素が強い指導だったという。

 そんななか、2018年に30校以上の高校野球の指導者にアンケートをして、指導方法の中でPとMのそれぞれの強さを調べた。

 質問は「規則で決められたことに選手が従うよう厳しく言うか」「チームに気まずい雰囲気があるときに、それを解きほぐすようなことがあるか」など20問。それぞれ「とても当てはまる」から「全く当てはまらない」までの5択で答えてもらった。

 すると、甲子園に出場するような強豪校は、PとMにある程度の強さがありつつ、二つの要素のバランスが取れた指導が多かった。

その日の体のコンディションについて話す森監督(左)と選手=2024年7月7日

スパルタ指導、「受け入れられないことが増えた」

 士さんが監督の時代、選手やコーチとしてその指導を近くで見ていた森監督。「父は『この監督の言うことさえ聞いていれば甲子園に行ける』という強いカリスマ性で引っ張っていく指導で成果を出していた。でも、自分は選手とコミュニケーションを取りながら、一緒に強いチームを目指したかった」

 時代の変化も感じていた。かつてはスパルタ指導にも耐える人材が社会に求められており、選手や保護者の多くもそうした指導を望んでいたと考えるが、「今は主体性を持って行動できる人材が求められている。スパルタ指導が受け入れられないことが増えてきたと思う」と話す。

 3年前にチームを引き継ぎ、指導方針の転換を図った。生活態度のような基本的なところは厳しく指導しつつ、選手がプレーで失敗した時にはヒントを与えて「なぜ失敗したか」を自分で考えさせるようにした。「規律はもちろん重要。『スピードの出る左ピッチャー相手にはバントも使う』など、試合ごとの最低限の約束は守らせる。でもそれ以上しばるとイレギュラーが発生したときに自分で考えて対応できず、エラーにつながってしまう」

 以前は練習で誰かが失敗すると、連帯責任で全体練習も長引いたが、今は時間で区切って終わらせている。試合でも、小技やチームバッティングをより重視する「全員野球」の伝統があったが、打力のある選手には積極的に長打を狙わせる。

 長打は自信につながるからだ。「今は、昔より自分に自信のない子が増えている」ため、失敗を恐れずにフルスイングする経験を積んで欲しいのだという。

 三井雄心主将(3年)は昨秋、今春の県大会で、後ろにつなぐ模範的なバッティングを意識しすぎて思い切ったプレーができなかったという。春に16強で負けた後に監督からもらったアドバイスは「ホームランを狙いにいっていい」。「自分の個性を尊重してもらえた」と感じ、いまは長打でチームを引っ張ろうと考えているという。

「名将」を訪ね歩き、見直した指導方法

 県内の公立校で36年間指導を続けている越谷東の斎藤繁監督(60)も「昔のやり方は通用しない」と話す。理不尽や厳しい叱責に耐えることが必要と感じていた時期もあったが、時代に合わないと感じるようになった。いま心がけているのは「褒める、おだてる、そそのかす」だという。

 かつては、「甘やかさない指導」こそが選手を育てると信じていた。選手が失敗した時は、「なんでこんなこともできないんだ!」「やる気がないなら帰れ」と頭ごなしにりつけることもあったという。

 変わったきっかけは三郷北で指導していた18年前。取手二、常総学院(ともに茨城)で春夏計3度の甲子園優勝を経験した木内幸男監督など、「名将」を訪ね歩いたことだった。

 こうした強豪校では、いずれも暴言や体罰のような指導をしていなかったという。トップダウンの指導をやめ、選手の意見を採り入れるようにした。勝てなかったチームが2年後には夏のベスト16にまで成長した。「ただやみくもに厳しくしていた自分のやり方が間違っていたと気がついた」

 今は違う。「何が原因で失敗した?」「成長するためにはどういう練習をすればいいと思う?」と選手に問いかけ、考えさせる。昔の教え子からは別人のようだと言われるという。

 「選手たちは、納得したらものすごく伸びる。課題を明確にしながら、どうすればうまくなるかを自分で考える手助けをすることが重要だと思います」

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