【写真】中学生に野球をする心構えや技術を教える森士さん(中央)
埼玉・浦和学院高の監督として2013年春の選抜高校野球大会で優勝した森士(おさむ)さん(61)。30年率いたチームを全国屈指の強豪に育てた。4年前に退任した後は、スポーツを中心にした地域貢献活動で第二の人生を歩んでいる。
「地域移行」のモデルケースに
森さんは21年末、文武両道を実践する人材の育成を目指す特定非営利活動法人(NPO)「ファイアーレッズメディカルスポーツクラブ」の開設を発表した。22年から男子中学生を対象に、野球と勉強を本格的に教え始めた。
現在は男女の小学生や女子中学生も受け入れている。森さんが理事長を務め、浦和学院高のグラウンドや体育館などで活動している。
「(子供たちには)いろいろな経験を通して、本当にやりたいことを見つけてほしい」という願いから、女子のバスケットボール、キッズダンス、そろばん、ピアノなどの教室も開設した。参加者は約350人。受講料を払い、それらの教室を組み合わせるなどして学んでいる。
講師は森さんと交流のあった元教員らが担う。人脈を生かし、多くの「身内」が力を貸してくれた。
NPO法人の取り組みは、国が進める中学校部活動の「地域移行」のモデルケースになると考えており、「今後は活動のノウハウを各地に伝えることができたら」と語る。
選手への医療もサポート
森さんはさいたま市出身。浦和学院高のコーチを経て1991年夏に監督に就任した。春夏の甲子園大会に22回出場し、13年春にはプロ野球・ロッテで現在活躍する小島和哉投手(29)らを擁して優勝した。
サポートできる体力があるうちに長男の大さん(34)にチームを託すため、監督歴30年の節目となった21年夏の甲子園を最後に勇退した。
NPO法人を運営する構想は、監督を退任する2、3年前から第二の人生として描いていた。
「スポーツと学習、医療を通して地域に恩返しする」。監督時代に「課題」と感じた選手の学習面を支援しながら、小中学生にもスポーツ指導の輪を広げたいと考えた。高校時代に右肘を手術して大事な試合で投げられなかった苦い経験を踏まえ、NPO法人では医療サポートも受けられるようにした。
中学3年生を対象にした野球指導のため、今も精力的にグラウンドに立つ。健康維持のために重視するのは「運動とバランスの取れた食事」だ。
指導の合間にウオーキングで体を動かし、監督時代と同じようにサウナで汗を流す。教え子が勤める飲食店でリラックスすることはあるものの、酒はほとんど飲まず、好ききらいなく何でも食べるようにしている。
「野球界への恩返し」につながればと考え、意外な取り組みも始めた。
動画投稿サイト「ユーチューブ」での発信。名前にちなみ、一部の人から親しみを込めて「もりし」と呼ばれていることから「森士【モリシ】チャンネル」と銘打ち、これまで130本超の動画を配信した。NPO法人の活動の紹介や「監督対談シリーズ」などがある。
「養成ギブスをつけているようだ」
11月中旬、森さんの姿はさいたま市内にあった。グラウンドで野球を教える相手は女子選手たち。NPO法人は今春に発足した浦和学院高女子野球部の運営にも携わっている。
「性別やレベルは違っても同じ野球。彼女たちのひたむきな姿を見ると野球の原点を感じます。勝つためにどうしようか考えるのは、やはり楽しいですね」
気になることがあれば選手たちに身ぶり手ぶりでアドバイスを送り、打席での心構えや配球などのポイントを伝える。その姿勢は男子を教える時と変わらない。
浦和学院高の監督時代は「責任感から常に(漫画「巨人の星」で主人公が体を鍛えるために装着した)大リーグボール養成ギプスをつけているようだった」と笑う。
しかし、退任後は気持ちにゆとりが生まれ、改めて気づいたこともあった。
「やっぱり、人が成長する姿や喜ぶ顔を見るのが好きですね。生きがいでもあります」
第二の人生も変わらぬ思いを胸に、歩み続ける。
(毎日新聞)



