雑誌「甲子園の強豪校はこんなごはんを食べていた! 強くなるための「食育」カルテ」(オークラ出版)に浦学野球部の食事について掲載されています。
◇浦和学院 徹底して管理も基本は「楽しく」
甲子園常連校である浦和学院は、高い意識で食事をとっていることでも知られている。しっかりとした体づくりは勝利のため。いったいどのような食事環境のもと野球に取り組んでいるのだろうか。
◇強い意識により実現した体制づくり
2013年春のセンバツで優勝した浦和学院。全国制覇が初であったことが意外に思えるほどの甲子園常連校だが、強さを維持する要因のひとつに、徹底した生 活管理がある。特に食事については早くから取り組んできた。「練習に耐えられるだけの体づくり。その元を作っているのは全部食事であり、栄養があって体が できる…その意識づけから始めました。食事対策の必要性は、指導者になって一層感じるようになりましたね」(森士監督)
その思いは、家庭科室に保護者が集まって作るところから始まり、2000年代にはグラウンド前に食堂を併設、健康サポート会社「コーケン」のサポート導入へと発展する。
「保護者の方にご協力を頂くというのは、大変な負担をかけてしまいます。それをできるだけなくして、自分たちだけでできる体制を作りたいという思いはずっとありました」(森監督)
10年以上かけて取り組んできた現在の体制は、ようやく納得のいく形になったという。
◇摂取カロリーは一般成人の2・5倍
浦和学院では1日の摂取カロリーを成人男性の2・5倍相当にあたる6000キロ~7000キロとしている。ご飯は自分でよそったあと、森監督、またはコー チが見守る計量器の上に載せ、重さを確認する徹底ぶりだ。ご飯の量は、夕飯時は一杯400グラムで2杯食べることが必須。2杯目は食べたければ400グラ ム以上になっても構わない。ちなみに、米は胚芽米を使用。この日は、鳥の唐揚げ甘酢かけに切干大根、油揚げと小松菜の煮浸し、野菜サラダ、豆腐とわかめの 味噌汁にオレンジという内容だ。
配膳や片付けは選手が行うのが基本。夕食を食堂で食べるのは通いの部員たちで、寮生は寮に戻って同じものを食べる。
すべての用意が揃うと、選手は一斉に「いただきます!」。食べ終わった者は、順次空けたどんぶりを持ってコーチのもとへ行き、残さず食べたことをチェック してもらう。食器を下げたら、今度は体重計に乗り、測った数値は記録簿を構えるコーチに申告する―。それが一連の流れだ。
食べる回数は、朝昼晩の3食だけではない。午前中と午後の授業の休み時間に1度ずつ、おにぎりやアンパンなどの間食が用意され、選手たちはその都度食堂へ食べに来る。さらに、寮生は夜食も用意されており、都合1日6食が基本的なスタイルとなっている。
また、通いの部員も朝夕を学校で食べるというのも浦和学院の特徴だ。「ここに相当するものを家庭で用意するのはかなりの負担になります。それに、コンビニ エンスストアなどで買って食べるようだと個人差がでますから。一括すれば、費用的に効率が良いし、道草せず帰宅できます」(森監督)
◇元コーチが食事をバックアップ
現在、浦和学院の食事の用意や管理を担当しているのは、株式会社遊楽社の田村雅樹代表取締役。田村氏は森監督就任時に入学した硬式野球部OBでもある。食のことについて話を伺うにあたり、まず選手だった頃を振り返って、次のように話した。
「あの頃はまだ食堂の無かった頃ですし、一般的にも『練習中に水は飲むな』と言われていた時代でした。でも、当時から森監督は、練習の合間に選手にバナナと牛乳を摂らせていました。その意味では、食べることについても先を行っていたと思います」
田村氏は函館大に進学して野球を続けたあと、卒業後は母校のコーチを99年から約10年間務めながら、コーケンの社員として母校の食事管理の体制確立に携わってきた。現在は独立して飲食店経営や惣菜・お弁当製造業を営む傍ら、浦和学院の食事の管理に従事している。
「食堂が完成したあとも、最初は保護者の方が当番で行っていたのですが、それをなんとかしたいという要望もあって始めました。今は作り手の人に常駐してもらっています」(田村氏)
常に料理担当者がいることで、細かい対応が可能になったという。
「たとえば、監督から『今日は暑いけど、午前中の練習で追い込みたいんだ』という話があれば、お昼はササッととれるようなものにして、間食をもうひとつ挟んで夕食にしましょう、という流れにも対応できます」(田村氏)
現在の料理長は金子誠氏。20歳で料理の世界に入り、料理屋で懐石料理の腕を振るっていたが、縁あって13年9月から担当している。
<料理長に聞きました!>
2013年9月から浦和学院の食事作りを担当することになった金子さん。それ以前に勤めていた料理屋とまったく勝手が異なるが、「時間が決まっている分、 作る側としてはむしろやりやすい」という。高校時代は同じ埼玉県内の高校球児。「自分自身、野球を見ているのが好きなので、ここにいられることが楽しいで す。選手にも楽しく食べてほしいですね」。森監督も「おいしいんですよ」と太鼓判を押す味で、選手の食を後押しする。
◇試行錯誤を経て行き着いた現在の体制
毎日の献立は、コーケンの管理栄養士に作ってもらっている。ただ、そのままだと、ごく一般的なアスリート用の内容になってしまうことがあるため、浦和学院 の“特殊”ともいえる練習量に対応しきれないケースが生じることもある。そうした際に、田村氏は森監督と相談しながらその都度食事の量や内容について調整 してきた。それは、母校の練習を熟知する田村氏だからできることでもある。1日の摂取カロリー6000キロ~7000キロも、その過程で行き着いたものだ。
そして、通常時以外に、長期休みや大会時など、時季により内容も変える。「冬は体づくりに適した動物性タンパク質を多くしたり、大会期間中はエネルギーとなる炭水化物を増やすなど、季節によって調整します」(田村氏)
また、現在の間食の回数に至るまでにも、様々な試行錯誤があったという。
「練習の合間に摂らせることには、当初抵抗があったのですが、人間が1回で吸収できる量って、食べたものの25~30パーセント程度なんです。練習で体が疲れていると消化機能がさらに落ちるので、回数を分けることで効率良く摂らせるようにしました」(田村氏)
こうした取り組みにより、現在では選手の体づくりや体調管理について、確かな実感を得てきた。
「効率良く管理することで体調不良やケガが少なくなりました。今は、選手がいかに力を発揮するかに重点を置いてやっています」(田村氏)
大会や地方遠征など、長期滞在時は宿泊先に日ごとのメニューを出してもらい、不足があれば入れてもらうように要望する。1泊2日程度の場合はそこまでしないが、「計量器と体重計だけは必ず持っていきます」(田村氏)。
◇徹底してるが「明るく楽しく」
ここまでの話だと、大変厳しい雰囲気のもと徹底して管理している印象を抱くかもしれない。だが、森監督は取材の最後に「食事のときは明るく楽しくです」と話していたように、選手たちの表情は明るい。その点については、田村さんも笑いながら話す。
「選手が『今日、何ですか?』と聞きに来ることがあるんです。『教えないよ!』とか言ってからかうんですが、『この匂いからすると…』と、くい下がる選手もいます」
時には食堂の大画面TVのスイッチを入れ、最近ではドラマ『あまちゃん』などを見ながら食べるときもあったという。
システムは厳格だが、それは強さを求めたこだわりであり、選手たちは他と変わらぬ高校生に違いはない。それが垣間見える浦和学院の食の形だ。