あの夏の悔しさがあるから、一打同点のピンチにも臆することはなかった。四回、一死満塁で今大会初のマウンドに上り、打ち取った当たりを味方が悪送球、あっという間に1点差に。だが、表情を変えることなく、相手の3、4番をスライダーで抑えた。
前のチームから主力。特に今春は、3番打者兼投手として、関東大会優勝に貢献した。県内屈指の強豪校において、順調な道を歩んでいると言えるが、足りないものがあった。甲子園だ。
優勝候補筆頭と目され、4連覇を目指した夏の大会はよもやの5回戦敗退。例年より一足早く、7月末から新チームになったが、「自分が引っ張らなきゃ」と気負い、投球フォームを乱した。
迎えたこの日。マウンドでは無心だった。「後ろが守ってくれる」と信じ、本来の打たせて取る投球で、5回3分の2を四回の2失点だけにとどめた。与えた四死球は0。打っては先制適時打を含む3打点と、中心選手の役割は果たせた。
甘いマスクで、打席に立てばスタンドから「かっとばせー、王子!」と声援が飛ぶ。「関東大会ではみんなの力で優勝する」。選抜大会への出場権獲得を、力強く誓った。
(読売新聞埼玉版)