「教える力、育てる力」(講談社)に浦和学院が取り上げられています。
◇食・挨拶・勉強…強いチーム、負けない選手の「生活習慣」拝見
“なぜ「同じ釜の飯」が大切か”
埼玉一の甲子園出場回数を誇る浦和学院高校野球部の強さの秘密は?トップチーム・選手の生活習慣に迫る。
◇浦和学院高校野球部「朝食・夕食を部員が一緒に摂る」
団体生活において基本的な生活習慣は「食べること」である。俗に言う「同じ釜の飯を食う」だ。だが家庭でさえ別々に食事を摂る「個食」になっている現代で、「同じ釜の飯」という機会にはなかなか恵まれない。
埼玉県にある私立・浦和学院高校野球部では、朝と夜の練習後、寮生だけでなく自宅からの通学生にも食事を出している。全国的に珍しい試みである。森士監督は、こう言う。
「食事を部員みんなで摂るようになった理由は、やはりチームの一体感を高めるためです。闘う集団として、まずそれが基本になりますから」
また最近の選手たちが摂る食事の量が、かつてよりかなり少なくなっている、ということもある。単純にコメを食べる量が少ないのだ。これまで取材してきた野球関係者の間でも、それは指摘されていた。
「もともと食べる量が少ないのにプロテイン(タンパク質サプリメント)ばかり摂っても意味がない」
「偏食の選手のために、親がダンボール1箱分のカップ麺を送ってきた」
「腹が減るとすぐお菓子で腹一杯にして、それでいいと思っている。栄養や食の基本知識がまったくない」
◇食事は肉体を作るための訓練
浦和学院でも同じだった。
「以前は練習が終わると帰宅前にコンビニに寄ってパンとか買い食いして、それで家で夕食という感じでしたね。それでは身体ができないですよ。だから食事の部分も、7年前から我々が面倒を見ることにしたのです」(安保隆示野球部部長)
食事のカロリー、量もコントロールしている。夜はだいたい毎食1700キロカロリーで、ご飯も1杯分400グラムを2杯平らげることが選手のノルマになっている。
まず最初の1杯を食べ終わると監督、部長など指導者のところに持って行き、空になった丼を「お願いします!」と見せる。それを「はいよ」と了解されると、次に山盛りにもった飯を持ってきて、計量器で400グラムあるかチェックする。
「お願いします!」、「はいよ」
食事を全部食べ終えると、すべて空になった皿や茶碗を見せて、3度目の「お願いします!」、「はいよ」で終わる。
ちなみに取材に訪れた日のメニューは豚肉の生姜焼きにオニオンリングのフライ、ポテトサラダ、きんぴらに味噌汁とフルーツだった。おかずの量も多い。指導者も同じように食事しているのできつくないか訊ねると、安保部長もコーチも苦笑いを浮かべた。
「ご飯は軽くして、おかわりも絶対にしません。おかずも生徒に押しつけてます(笑)」
この日も投手にデザートのフルーツの皿を押しつける。生徒が一瞬、「えっ」という顔をすると、「お前、今度納豆押しつけるぞ。どっちがいい?」「こっちです」。
食べ終えた食器はみんな自分たちで洗う決まりになっている。上級生も下級生も関係がない。食べた後にまた練習して、最後に終わるのが午後9時。夜食用に200グラムのおにぎりが用意されていた。
◇野球部はひとつの家族みたいなもの。だから監督は父親になる
森監督はこう言って笑う。
「野球部って、ひとつの家族のような存在なんです。そこで監督は親父みたいなものですから」
「同じ釜の飯」は、疑似家族化の演出に一役買っているのだろう。
「僕は大学時代の恩師から、『教育とはつまるところ1分1秒でも長く生徒と一緒にいてやることだ』と教わりました。だから練習のあと、選手たちと一緒に食 事もするし、大会前の合宿では僕も寝泊まりして、健康ランドにお風呂に入りにいったりしますよ。そうやってお互いの健康状態を見ているから、ちょっとした 変化でも気づきます。お互いの性格もわかるようになります」
◇部員が部員に練習参加を直訴
これは食事ではないが、疑似家族化と思われる出来事が練習中にあった。ある選手がバックネット裏で練習を見ている森監督の前に来て、「頑張るのでノック 受けさせてください!」と直訴したのだ。森監督が「そんなの俺に言うな。向こうに言えよ」と顎をしゃくると、選手は円陣を組んでいるベンチ入りメンバーの ところに走っていき、また「頑張るから、みんなの仲間に入れてくれ!」と直訴して、やっと仲間に加わった。
「あの選手は前の試合でミスをしたので、メンバーから外したんです。でもメンバー中心の練習に参加したくて、直訴しに来たんでしょうね」
練習参加に監督ではなくてチームメイトの同意がいる。
「僕はみんなの考えの代表としての監督なんだから、まずお前らが考えろと言ってます。だから、みんなに練習参加することを求めなくちゃいけない。そうやっ て、自分たちがチームを作っていく一体感ができてくる。上下関係や仲間との一体感など、昔なら遊びや普段の生活習慣の中で自然と身についたことでしょう。 今はわざわざ体験させて身につけさせなくちゃいけない」
「同じ釜の飯を食う」というある種、浪花節的な行為も、今の若い世代には組織に馴染ませる「仕掛け」として必要なのだ。