「浦学、センバツ出場」--。第83回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)の出場校を決める選考委員会が28日、大阪市の毎日新聞大阪本社であり、浦和学院高校(さいたま市緑区)の出場が決まった。同校のセンバツ出場は05年以来、6年ぶり7回目。甲子園出場は春夏合わせて17回目となる。大会は3月15日に組み合わせ抽選会を行い、同23日に阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)で開幕する。浦和学院ナインらは喜びをかみしめながら、全国から選ばれた出場32校の頂点を目指し、奮闘を誓った。
午後3時13分、校長室の電話が鳴った。受話器を取った小沢友紀雄校長は、何度かうなずいた後、「喜んでお受けさせていただきます」と答え、詰めかけた約30人の報道陣に笑顔を見せた。春7回目のセンバツ出場に、廊下で見守っていた教職員から拍手が起こった。
午後3時20分。同校グラウンドには「バリバリ行こうぜ」と選手の掛け声があふれていた。ダッシュ練習を終え、鉄棒で懸垂を始めた時、コーチ陣から「集まって」と声がかかった。
選手らがマウンド近くに整列すると、一塁側から小沢校長が登場。緊張した様子の選手を前に、森士(おさむ)監督と握手を交わした。「推薦されました。おめでとう」。小沢校長が声をかけると、選手の肩から力が抜け、みんなの顔が緩んだ。
小沢校長が「皆さんは底力を持っています。新しいスタートという気持ちで一戦一戦丁寧に、じっくり戦ってください」と激励すると、小林賢剛主将は「甲子園でどのチームよりも多く校歌が歌えるように一戦必勝で頑張っていきます」と力強く応えた。
「学校が選ばれたんだから校長先生を胴上げするぞ」との森監督の掛け声に、「よし、いくぞ」と選手が声を上げ、小沢校長、続いて小林主将が宙を舞った。
同校は、県内有数の強豪校だが、夏は08年、春は05年以降、甲子園には出場していなかった。昨夏の県大会は準決勝で敗退。新チームとなった8月は、1日2試合の練習試合をこなし、底力を付けてきた。秋に関東大会を制すと、神宮大会で4強入り。センバツ切符につなげた。
この日、茨城県の自宅から駆けつけたエース佐藤拓也投手(1年)の父勝美さんは「うれしいです。感動しますね」と目を潤ませながらビデオカメラを回していた。朗報をうけた佐藤投手は「全国制覇して日本一の投手になれるよう頑張りたい」。
小林主将は「目の前のことに全力で向かい、一試合一試合積み重ねて優勝目指して頑張りたい」と胸を張った。「全国制覇」を掲げた選手たちは、足取り軽くグラウンドに駆け出した。
◇「夏」出場も10回
浦和学院高校は1978年に学校法人明星学園によって設立された男女共学の私立校。生徒数は2328人で、大学・短大への現役進学率は88%。15人のプロ選手を輩出している野球部のほか、20年連続で県大会優勝を果たしているハンドボール部や吹奏楽部など、運動部、文化部ともに全国区で活躍している。
開校2カ月後に設立された野球部は、86年夏に甲子園初出場を果たすと、これまでにセンバツ6回、夏10回出場。就任20周年目の森士監督の下では今回が15回目。春、夏とも甲子園でベスト4入りしている。部員は43人。昨秋の県大会と関東大会で優勝し、明治神宮大会で4強に進出した。
◇全国でも頑張って
試合のたびに球場のスタンドから応援を続けてきたソングリーダー部の部員約30人や、他の運動部の選手たちも野球部のセンバツ出場を共に喜んだ。
ソングリーダー部部長の篠原沙英さん(2年)は「私たちにとっても甲子園は初めての場所。一致団結して応援したい」と目を輝かせた。女子ソフトボール部の小林由佳さん(2年)は「先生からの厳しい指導に感謝できる選手たちをすごいと思って見ていました。全国でも頑張ってください」と笑顔で話した。
◇朗報に目尻下げ--地元自治会副会長
「今年は団結力がある。食らいついて甲子園でも頑張って」。学校のある代山自治会副会長の宮沢勝さん(60)は、朗報に目尻を下げた。
1978年の野球部創立当初から応援を続けてきた。当初は道具も満足になく、2本の竹などでバックネットを作り、プレーしていたという。グラウンド整備に使うとんぼを手作りしたり、ナインらとグラウンドの草むしりで汗を流したこともあった。
料理店を営む傍ら、83年から同校学生食堂でも勤務した。野球部員を見つけると、「一杯じゃ足りないだろ」とご飯を大盛りによそった。
食堂を退職した今もグラウンドに足を運び練習を見守る。「みんなでまとまれば力は倍になる」。甲子園に向かうチームにエールを送った。
◇祝福の垂れ幕、生徒らが歓声
校舎には28日、センバツを祝福する垂れ幕が下がり、生徒らが歓声を上げた。毎日新聞社が同校に贈った。正門そばの校舎4階から職員が徐々に降ろすと、保護者らもカメラに収めるなどして喜びを分かち合った。
◇出場報じる号外、県内9カ所で
浦和学院のセンバツ出場を報じる本紙号外約5000部が28日夕、JR大宮駅や川口駅など県内9カ所で配られた。帰宅途中の高校生らも手に取り、甲子園切符を手にした選手の喜びを伝える写真などに見入った。大宮駅で号外を手にした、さいたま市西区の会社員、角政良さん(62)は「高校野球は一生懸命プレーする姿がいい。浦和学院には優勝を狙ってもらいたい」とエールを送った。
◇ぜひとも校歌を--森士監督
出場決定に身の引き締まる思いと共に、選んで下さったことに感謝している。センバツ出場は6年ぶり。あっという間だったが長かった。甲子園で最後に校歌を歌ってから7年が過ぎてしまった。地に足をつけて一試合一試合強くなっていくような試合をしたい。ぜひとも校歌を歌って帰りたい。
◇うれしいの一言--小沢友紀雄校長
うれしいの一言に尽きる。頑張っている仲間を応援できるのがうれしい。私にとって2度目の甲子園だが、今年のチームは一戦一戦あきらめずに戦うタイプ。10対0ではなく、1点差を競り合って勝ち抜いてもらいたい。目標はもちろん優勝。皆さんの応援で埼玉から初の全国優勝を達成してほしい。
◇県代表の自覚を--中山芳行野球部父母会会長
いつも応援していただいている皆さんに感謝の気持ちでいっぱい。皆さんのお陰で選手たちは憧れの甲子園の舞台に立てる。センバツは6年ぶり。先輩たちの思いをよくつないでくれた。選手たちには感謝の気持ちを持って埼玉県代表という自覚をもって試合に臨んでほしい。
◇松田敏男・県高野連会長
甲子園出場おめでとうございます。激戦区埼玉、強豪そろう関東の代表として一試合一試合を戦い抜いてください。厳しい練習の中で培われた仲間との信頼感、これが皆さんの大きな武器です。紫紺の優勝旗を埼玉の地に持ち帰られることを心より祈っております。
◇上田清司知事
浦和学院高等学校野球部の皆さん、6年ぶり7回目の選抜高等学校野球大会御出場おめでとうございます。群雄割拠の秋の県大会と、甲子園常連校など強豪が集う関東大会をともに制した自信と誇りを胸に、チーム一丸となって全国制覇を目指してください。皆さんの御健闘を718万県民の皆様とともに、心からお祈りいたします。
◇清水勇人・さいたま市長
この度は、6年ぶり7回目のセンバツ出場おめでとうございます。昨秋の関東地区高校野球大会優勝と厳しい試合を乗り越えてきた皆さんなら、優勝も夢ではありません。日ごろ、共に汗を流した仲間との絆と力を存分に発揮し、栄冠を手にしてください。ご健闘をお祈りいたします。
◇前島富雄・県教育長
浦和学院高等学校野球部の皆さん、第83回選抜高等学校野球大会出場おめでとうございます。本大会においては、チームの和を大切に、投打に粘り強さを発揮し、全国の強豪を相手に正々堂々戦い抜いてください。甲子園という大舞台での皆さんの活躍と紫紺の優勝旗の獲得を心から祈念しております。
(毎日新聞埼玉版)