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森ウラガク20年目の挑戦(1)

◇不可能を可能に 不安はねのけ驚異の成長

 浦和学院が2008年の夏以来、約2年半遠ざかった聖地にようやく戻ってくる。春は6年ぶり7度目、春夏通算17度目の甲子園出場は、くしくも森士(おさむ)監督の就任20年目の節目と重なった。昨秋は県大会を2連覇、関東大会を15年ぶりに制覇し、明治神宮大会でも4強入りと過去最高の成績を残した。主力が大きく入れ替わり、前途多難だった新チームの船出から、驚異的な成長を遂げた“新生・森ウラガク”の強さの秘密を五つの視点に分けひもとく。

 まさかの敗戦だった。昨夏の埼玉大会準決勝の本庄一戦。先制しながら六回に失策からピンチを招いて逆転を許すと、そのまま1-4で敗れた。浦和学院が2年連続で夏の甲子園出場を逃したのは1998年以来、12年ぶりだった。

 その日の夜のミーティング、誰もが不安を抱えていた。新チームにスタメンで残るのは遊撃手の小林だけ。公式戦経験者も少ない。

 森監督は残った1、2年生に告げた。「このチームに財産はない。秋に勝って選抜に行くのは不可能だ。だが、不可能を可能にする気持ちが大事。休みは一日もない。覚悟があるやつだけあしたから(練習に)来い」

 翌日、グラウンドに全員がそろった。覚悟を決めたチームの選抜大会への挑戦が始まった。

 新チームをスタートした選手たちは、その時点で自分たちの実力が歴代のチームに及ばないと実感していた。

 新主将になった小林は「自分たちは弱いって言われていたし、技術がある先輩たちですら甲子園に行けなかった」。公式戦経験者の沼田も「自分たちだけでできるのかと思った」と吐露する。

 だが、チームを成長させた原動力はほかでもない。その危機感だった。

 8月だけで練習試合が41試合も組まれ、記録的猛暑の中、連戦が続いた。同14日の前橋育英(群馬)戦、さすがに選手の疲労を感じた森監督は言った。「きょう勝てば休みをやる。負けたら休みはない」

 試合は投手陣が打ち込まれ、五回まで大量12失点。しかし、選手は誰一人諦めなかった。「それまでも投手が打たれ、追う試合が多かったので落ち着いていた」と小林。そこから猛反撃に転じ、15-14で逆転勝ちした。

 がむしゃらさは公式戦でも表れた。昨秋の県大会準々決勝の聖望学園戦で好右腕・滝瀬をノックアウト。10―0で五回コールド勝ちした。捕手の森は「自分たちもやればできるんじゃないか」。参考記録ながら無安打無得点に抑えた佐藤も「自信になった」と振り返る。

 森監督は「一球、一死、一塁を進むことに必死。そこからは相手がどこであろうと目の前の試合に精いっぱいで戦えた」。

 自分たちの弱さを認識し、やるべきことに集中し始めたチームは準決勝で鷲宮、決勝で春日部共栄を破って大会2連覇。強力打線が爆発し、投げては背番号「7」のエース佐藤が試合ごとに成長した。

 地元開催となった関東大会は甲子園上位経験のある強豪校との連戦となったが、投打ががっちりかみ合い勝ち進んだ。

 初戦の準々決勝で千葉経大付に12安打9得点でコールド勝ち。選抜大会出場を当確させると、準決勝の横浜(神奈川)戦も、10安打8得点で8-3で快勝。決勝は昨夏の甲子園準優勝の東海大相模(神奈川)と接戦を演じ、九回に日高のサヨナラ安打で5-4で15年ぶりの頂点にたどり着いた。

 森監督は「地区予選からすべての試合を一戦必勝でやってきた。これに尽きる」と話した。危機感を持ってスタートしたチームは、勝利への執着心を求める中で、たくましく成長した。

(埼玉新聞)

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