【写真】6回裏浦和学院2死一、二塁、相手の失策の間に二塁走者の小島(左)が本塁生還を果たす。捕手南=24日、甲子園球場(埼玉新聞)
第85回選抜高校野球大会第3日は24日、兵庫県西宮市の甲子園球場で2回戦3試合を行い、第3試合に登場した3年連続9度目出場の浦和学院は、土佐(高知)に4-0で競り勝って、昨春、夏に続き3季連続で甲子園での初戦を飾った。
浦和学院は二回、1死一、三塁から小島の中犠飛で先制すると、六回には相手の守備のミスに乗じて、小島の好走塁で追加点。八回にも2死二、三塁から山根の中前への2点タイムリーで突き放した。
昨夏以来の登板となった先発の左腕小島は、直球と変化球をうまく組み合わせて、被安打6、133球の粘投で甲子園初先発初完封勝利。バックも、贄、竹村の二遊間を中心に、堅守で2年生エースをもり立てた。
初戦という硬さもあったのか、相手に12四死球をもらいながらも3度のバントミスなどで13残塁と、本来の浦和学院らしい攻撃は発揮できなかった。それでも森監督は「粘りながら初戦を突破できたことが何より」と安堵の表情を浮かべていた。
浦和学院は、大会第8日の第2試合(29日、午前11時30分)で2年連続のベスト8入りを懸け、山形中央と岩国商(山口)の勝者と対戦する。
◇たくましくフル稼働 2年生小島が完封
【写真】土佐打線を6安打完封した浦和学院のエース小島(埼玉新聞)
必ず期待に応えてくれる男だ。打っても小島。走っても小島。そしてもちろん投げても小島だ。
昨夏2番手で登板し3回3失点だった天理戦から217日。伸び味抜群の直球に、冬に覚えたチェンジアップ、カーブなどを織り交ぜ甲子園初先発でいきなりの完封劇。浦和学院のエースナンバーを背負う2年生左腕はたくましくなって聖地のマウンドに戻ってきた。
不安要素を全て払拭してみせた。まずは苦手な立ち上がり。いつも試合前は30球弱だったブルペンでの投げ込みを45球に増やした効果が表れた。「緊張したけど、持ち味の真っすぐを投げられた」。四球を与えたが、無失点でしのぎ波に乗る。
三塁側アルプスを埋めた土佐の大応援団の声援にも全く動じない。「スタンドには目もくれず目の前の打者に集中した」。まさに言葉通り、四回には自身の暴投で1死二、三塁を招いたが、走者がスタートを切ったのを背中で感じ、とっさの判断で高めの直球で外した。その後もピンチでも、落ち着いて後続を切って取った。舞い上がってしまった昨夏とは別人だ。
打撃では二回に先制犠飛。走塁でも六回に相手のミスを見逃さず2点目のホームを陥れた。だが本人は「一番は投げることです」とさらりと言ってのけた。「小さい頃から目標だった舞台で完封できてすごくうれしい。でもここからが勝負。全部、自分が先発して投げ切るつもりでいきます」。この1勝で揺るぎない自信を得た背番号1。勢いは加速していく。
◇試合決める主砲の一打 山根
【写真】8回裏浦和学院2死二、三塁、主将の山根が中前に適時打を放ち2点を追加する(埼玉新聞)
主将で主砲の勝負強い一打で、勝利の女神を確実に振り向かせた。
2-0の八回2死二、三塁。ここで点が入るか否かで、状況は大きく変わる。打席に入った3番山根は、カウント1ボール2ストライクと追い込まれながらも135キロの直球を中前にはじき返した。「抜けたときはうれしかった。あの2点で小島も楽になったはず」と力を込めた。
三回に犠打を失敗した責任を感じていた背番号8は「あの一本でバントミスを帳消しにできたと思います」と安堵感を漂わせた。
◇危機救う“職人”技 二塁手の贄
【写真】5回表土佐2死二塁、好守で窮地を救った贄(4)が森監督(左)に笑顔で迎えられる(埼玉新聞)
“職人”の守備がここ一番で輝きを放った。
三回の先頭打者の打球を横っ跳びした二塁手贄。最大の見せ場は1-0の五回、2死二塁で訪れた。
抜ければ同点か、という一、二塁間のゴロを再びダイビング。一塁へ素早く送球し、事なきを得た。守備力強化のため、冬場は朝4時半すぎから捕球練習を繰り返してきただけに、「何がなんでも守備で小島を助けたかった。うぬぼれてはいけないが、大事なところで成果が出せて自信になった」とはにかんだ。
◇声援、闘志を後押し
【写真】アルプス席からナインを応援する浦和学院応援団=24日午後、甲子園球場(埼玉新聞)
応援は数じゃない―。そう言わんばかりの熱い声援が、3季連続の甲子園での初戦突破を呼び込んだ。24日、第85回選抜高校野球大会で3年連続9度目出場の浦和学院は土佐(高知)に4-0で競り勝ち、3回戦に駒を進めた。真っ赤に染めた約700人が勝利の美酒に酔いしれた。
応援席が満員となった土佐(高知)に、浦和学院サイドは気合で対抗。6日に卒業したばかりのOB渡辺健一郎さん(18)は「一人一人が3倍の声を出せば大丈夫」と力を込める。試合前からヒートアップだ。
昨秋の地区大会以来のベンチ入りを決め、公式戦初スタメンが甲子園という前田優作左翼手の母・香世子さん(45)は気持ちがあまり強くないという息子を時には厳しく、時には温かく励ましてきたという。「メンバーに入ったって聞いた時はうれしかった。とにかく気持ちで負けないで、できる最大限のプレーを」と祈るように息子を見詰める。
母の願いが通じたのか前田選手は3打席目に中前安打を放つなど、3打席全てで出塁を果たし晴れ姿を披露した。
先発した2年生エース小島和哉投手の兄・雅浩さん(19)は消防士の仕事を早朝に終え、その足で応援に駆け付けた。上尾高校野球部で4番を担いながらも甲子園出場がかなわなかった雅浩さんは、「普段は優しい弟だけど、内に秘めた熱いものがある。うらやましいけど、うれしい気持ちの方が大きい。悔いのないように思いっきり投げて」。頼もしい弟に自身の夢を託す。
その思いに応えるように小島投手は、土佐打線を6安打に抑え甲子園初先発で、見事な完封勝利を挙げた。
試合は4-0で3回戦進出を決めたが、初戦の硬さやバントなどのミスも目立った。浦和学院野球部出身で森士監督がコーチ時代に共に汗を流した、西川元気捕手の父・孝さん(41)は「結果は言うことないが、つなぐウラガクらしい野球を次は見せてほしい」と、OBの目線で後輩たちにエールを送った。
◇勝利も反省多く
3季連続で甲子園の初戦を飾り、浦和学院好発進―。4-0のスコアだけ見れば、こう言いたいところだが、一歩間違えば負けていても不思議ではなかった。
これが甲子園の初戦の怖さなのだろう。
安打数は土佐と同じ6本。12四死球をもらいながらも、3度のバント失敗に併殺も二つ喫した。残塁も13を数え、徹底的に練習してきた緩い球を中堅から逆方向へ狙い打ち返すことも、実践できたとは言い難い。
八回に唯一の適時打を放った主将で3番の山根は「もっとボールをしっかり芯で捕まえることを意識しないと」と厳しい表情で振り返る。八回に好守備で小島を救った1番竹村も「浦和学院らしい1点をもぎ取る野球ができなかった。次の試合まで、基本をやり込んで臨みたい」と決まらなかった犠打を悔やんだ。
それでも、甲子園で勝って反省できることは、未完成なチームにとってはこの上なく大きい。森監督も「不利な状況になっても、我慢強く戦って崩れなかった。欠点を含め、収穫多き勝利」とポジティブに捉えていた。
◇土佐、本塁遠く 悔いが残る4回のミス
私学として初めて21世紀枠に選ばれ20年ぶりに甲子園の土を踏んだ土佐。敗れたものの、力を余すことなく伝統の全力疾走を披露した選手たちに試合後のスタンドからは「また帰ってこい」と温かい声が投げかけられた。
関東王者の浦和学院と終盤まで互角に渡り合った。悔いが残ったのは攻撃のミス。1点を追う四回1死二、三塁で久保田がスクイズのサインを見落とし、二塁走者が狭殺された。今大会のために増やしたサインだった。西内監督が「試合形式の練習で同じミスをしていたので大丈夫かなとは思っていた」と抱いていた不安が現実となった。
その後も再三、好機をつくったが、抜けそうな当たりや野手の後方に落ちそうな打球をアウトにされ、本塁が遠い。西内監督は「力の差があったかなと思う。勝負を分けたのは守備の差」と率直に相手をたたえた。
三回に織田主将が左翼フェンスにぶつかりながら飛球を好捕するなど、三塁側のアルプス席を埋め尽くした大応援団に精いっぱいのプレーは見せた。織田は「全力疾走はもちろん、土佐らしいプレーを見せられて良かった」と涙をぬぐって甲子園を後にした。
(埼玉新聞)
■2回戦(3月24日)
土佐
000000000=0
01000102x=4
浦和学院
【土】宅間、高橋-南
【浦】小島-西川
▽二塁打 南(土)
【浦和学院】
⑥ 竹 村5-1-0
④ 贄 1-0-0
⑧ 山 根5-2-2
⑤ 高 田1-0-0
③ 木 暮4-0-0
⑨ 斎 藤4-1-0
② 西 川4-1-0
① 小 島1-0-1
⑦ 前 田2-1-0
H7服 部0-0-0
(打数-安打-打点)
<小島投手投球成績>
9回、133球、被安打6、8奪三振、与四死球3、失点0、自責点0
安 打:浦6、土6
失 策:浦0、土2
三 振:浦2、土8
四死球:浦12、土3
犠 打:浦2、土2
盗 塁:浦3、土0
併 殺:浦0、土2
残 塁:浦13、土8