【写真】サヨナラ負けを喫し、悔し涙を流すエース小島(右)とねぎらいの言葉を掛ける森監督(埼玉新聞)
第95回全国高校野球選手権大会第3日は10日、甲子園球場で1回戦4試合を行い、春夏連覇を狙った浦和学院は、仙台育英(宮城)に10-11でサヨナラ負けした。
仙台育英は昨秋の明治神宮大会優勝で、選抜8強の強豪。試合は1回戦屈指の好カードの名に違わぬ激戦となった。浦和学院はエース小島がまさかの乱調で一回に6失点。それでも打線が三回に爆発し、8点を奪って逆転に成功した。
しかし、4点リードの六回に失策などが絡み同点に追い付かれ、試合は振り出しに。八回には1死三塁の好機に、山根が三振、高田が一飛に倒れた。その裏無死満塁の大ピンチを招いたが、小島が三者連続三振で切り抜けた。
九回、小島が足を痛め2死から安打を許し降板。急きょマウンドに立った山口がサヨナラ打を許した。
◇泣くな小島 2時間59分 熱投182球
泣くな、小島!君にはまだ来年がある。選抜大会優勝の浦和学院は、昨秋の明治神宮大会覇者で選抜8強の仙台育英(宮城)に10-11で九回サヨナラ負け。1回戦屈指の好カードの名にたがわぬ2時間59分の激闘を演じたが、史上8校目の春夏連覇への挑戦は初戦で終わった。2年生エース小島は本来の調子ではなくまさかの11失点。それでも随所に日本一左腕の片りんを見せ、182球の熱投だった。
◇まさかの光景
【写真】サヨナラ負けを喫し、喜ぶ仙台育英ナインの横でぼうぜんとする捕手西川(埼玉新聞)
10-10の九回2死一塁だ。足がつって限界を超えた小島を継投した山口が投じた144キロの直球が、左翼手服部の頭上を越える。サヨナラ負けに崩れ落ちる浦和学院ナイン。県勢初の優勝、史上8校目の春夏甲子園連覇へ。壮大な夢は、あえなく終焉(しゅうえん)を迎えた。
一回に先制したが、その裏に信じられない光景が繰り広げられた。
全国屈指の安定感を誇るはずの小島が、8連続ボールを含む5四死球と3安打でいきなりの6失点。53球も費やした。春以降に2失点以上を喫したことも初。これだけ球が高めに浮くエースの姿も見たことがない。
埼玉大会で50回を投げた左腕はその後、疲労回復とフォームの修正に務めた。ブルペン入りしたのは関西入りしてから。試合の前日まで森監督が付きっ切りで細かな部分をチェックしていた。
本人は「調子は上がっている」と言っていたが森監督は「ギリギリ間に合ったかな」と。さらに指揮官は前日の練習後に「打撃戦になると思う。うちがその中でどれだけ踏ん張れるか。春とは違う戦いになる」と予言。だが裏を返せばエースの状態への不安が拭い去れなかったのではないか。
三回に8得点を奪うなど一時は10-6とし、安全圏のリードを奪った。だが六回の守備。中堅手山根の飛球の落球など2失策などが絡み、4失点し同点とされたことは、さらなる誤算だった。
そして小島は九回に力尽き、涙の降板。サヨナラ負け…。「試合を壊してしまった。10点も取ってくれたのに…。自分のせい」と消え入りそうな声で責任を負った。八回無死満塁の大ピンチをすべて直球で三者連続三振で切って取ったことが、せめてもの意地だった。
森監督は「選手はいろいろな重圧がある中でも頑張ってくれた。チームの将来を考えれば収穫」と語った。だが小島頼みからの脱却へ、今後のさらなる成長が期待できただけに、敗れたことは悔やまれて仕方がない。
◇12度目挑戦、攻守で輝く 竹村
今チームで山根と並ぶ甲子園最多の12試合目に臨んだ竹村。打っては、三回の右前タイムリーを含む2安打、守っても磨いてきた鋭い一歩目で再三の好守備を見せた。 それでもチームは一歩及ばず、「こういう苦しいゲームで勝つために、小さなことも放置しないでやってきた。けど最後に逆転されてしまった」と大粒の涙を流した。
この日も無失策を貫き甲子園ではわずかに1失策。浦和学院を2年間支えた堅守の遊撃手は、輝かしい記録を残して聖地を去ることとなった。
◇痛恨2失策 自責の主将
主将で中堅手の山根が六回に痛恨の2失策。4点リードから同点とされたことに「勝てる試合を負けにしてしまった。申し訳ない」とぼうぜんと立ち尽くした。
六回無死一塁。中前の当たりを捕球した山根からの返球は捕手の頭を大きく越えて二、三塁にピンチを広げた。さらに、1死二、三塁からの中飛を捕り損ね「あれで流れが相手にいってしまった。自分がリズムを崩した」。力投した後輩の足を引っ張る失態の連続に、自らを責め続けていた。
◇厳しい球に手出した 高田三塁手
(先発メンバーでただ一人無安打)「こういう苦しい展開の時こそ小島を助けてあげないといけなかった。厳しい球に手を出してしまった」
◇何もできなかった 山口投手
(サヨナラ打を浴びる)「思ったより高めにいってしまった。何もできなかった」
◇チーム1イニング最多二塁打4の大会タイ
浦和学院が1回戦の仙台育英戦の三回に記録。第93回大会の光星学院以来で8度目。
◇エースの力投に涙 スタンドも全力尽くす
【写真】野球部員が中心となりアルプススタンドからナインに声援を送った=10日午後、甲子園球場(埼玉新聞)
待ちに待った初戦には埼玉からバス15台を含む約1200人の大応援団が三塁側アルプスに押し寄せた。
高田涼太三塁手の朝霞三中野球部時代の仲間も3人が駆け付けた。埼玉大会で8強入りした市川越高で主将を務めていた郡司健人さん(3年)は「あいつの本塁打が見たい」。朝霞高の元主将の高橋和也さん(3年)も「春のように打ってチームを勇気づけてほしい」。中学3年の時、同じクラスだった伊奈学園高の元副主将だった小林春輝さんも「豪快なプレーに期待」と共にエールを送った。
浦和学院野球部のOBで父母会長を務める西川元気捕手の父・孝さん(42)は再び聖地にチームが戻ってこれ「周りの方々の支えがあって今がある。ありがたい気持ちでいっぱい」と話し、「選手と一緒に戦っている気持ちで応援します」と気合を入れる。
試合は一回に1点を先制するも、その裏に小島和哉投手が6失点するまさかの展開。それでも打線が三回に一挙8点を奪うなど五回を終えて10-6とリード。だが六回に2失策などで4点を失い、追い付かれると九回には小島投手をリリーフした山口瑠偉投手が左越え二塁打を浴び、春夏甲子園連覇の夢はついえた。
敗戦の瞬間は静まり返ったスタンドだが、浦和学院ナインがあいさつに来ると「泣くな」「よくやった」と奮闘をたたえる拍手へと変わった。
◇小島投手の地元・鴻巣 苦闘を拍手で応援
【写真】サヨナラでの敗戦に、ぼうぜんとするパブリックビューイングの視聴者=鴻巣市本町のこうのすシネマ(埼玉新聞)
春夏連覇を懸けた浦和学院が仙台育英(宮城)に10-11で敗れた。小島和哉投手の地元・鴻巣市の本町にあるこうのすシネマの「多目的ホールA」でパブリックビューイング(PV)が開かれ、来場者は一球一打に固唾(かたず)をのみ、声援を送り、手に汗握った。試合時間2時間59分のまさかの結末に、現実を受け止め切れない姿もあった。
選抜大会王者の初戦を見ようと試合開始時には128席全席が満席に。7月の埼玉大会準々決勝~決勝に続く4回目のPVには、中学時代に小島投手がプレーした行田シニアから50人を超える選手たちも会場に駆け付けた。
庄司敏希主将(14)が「野球以外もしっかりやる見本になる先輩」と尊敬する小島投手が先発したが一回に6失点。制球に苦しむ左腕に勇気を届けようと、会場では1ストライク1アウトごとに拍手が起こった。
小島投手が卒業した鴻巣市立赤見台中学校に通う飯塚悠喜君(14)は「投球に集中してください。打線がフォローしてくれる」と祈るように話すと、打線は三回に7安打と畳み掛けた。西川元気捕手、小島投手の連続適時打で勝ち越すと大歓声が上がった。
10-10の九回、小島投手の左脚にアクシデントが発生した。誰もが心配そうに視線を送り、祈った。182球目を安打されて降板すると、直後にサヨナラ負け。小島投手の姿に、会場では目頭を押さえ、うつむき、席を立てない人もいた。
家族3人で視聴した鴻巣市の会社員藤村亮さん(31)は「今日がヤマだと思っていた。連覇を期待していた」。同市の飛田堅太郎さん(75)は「高校野球は分からない。初戦で波に乗れればと思っていたが…」と話していた。
最前列で試合を見守った行田シニアの望月和義監督(50)は「本人は投げたかったと思うが仕方ない。小島は春と夏で天国と地獄を味わったと思う。この負けを生かすためにも、また頑張ってほしい」と教え子に言葉を掛けた。
■1回戦(8月10日)
浦和学院
108100000 =10
600004001x=11
仙台育英(宮城)
【浦】小島、山口-西川
【仙】鈴木、馬場-小林遼
▽二塁打 山根、津田、服部、木暮、西川(浦)菊名、熊谷(仙)
▽投手成績
小島(浦)8回2/3、182球、被安打9、8奪三振、与四死球9、失点11、自責点8
山口(浦)0回0/3、 7球、被安打1、0奪三振、与四死球0、失点0、自責点0
鈴木(仙)2回2/3、 71球、被安打6、2奪三振、与四死球2、失点8、自責点7
馬場(仙)6回1/3、102球、被安打5、8奪三振、与四死球3、失点2、自責点2
【浦和学院】
⑥竹 村4-2-1
⑦服 部4-2-2
⑧山 根4-1-1
⑤高 田3-0-0
③木 暮4-1-2
⑨斎 藤5-1-0
②西 川5-2-2
①小 島5-1-1
1山 口0-0-0
④津 田3-1-0
【仙台育英】
⑥ 熊 谷5-4-3
④ 菊 名3-1-1
⑦ 長谷川3-1-1
⑧ 上 林5-0-0
③9水 間3-0-1
② 小林遼3-0-1
⑨ 川 島0-0-0
H9阿 部1-0-0
9 首 藤0-0-0
1 馬 場3-1-0
⑤ 加 藤3-1-1
①9鈴 木2-1-2
H3小野寺3-1-0
(打数-安打-打点)
浦和学院は10-10の九回2死一塁、2番手山口が仙台育英・熊谷に左越え二塁打を浴びサヨナラ負けした。左腕小島がまさかの乱調。一回に5四死球などで6失点。4点リードの六回には4短長打などで4失点した。九回に足を故障し2死から安打を許したところで降板した。
打線は三回に8得点するなど地力を発揮した。ただ、相手2番手馬場を攻略できず、八回1死三塁の勝ち越し機では、山根、高田が凡退した。
(埼玉新聞)
◇手作りのお守り
浦和学院ナインはバッグに女子マネジャー6人が手作りしたお守りを付けて試合に臨んだ。マネジャーたちは最後まで諦めない浦学らしいプレーを願って「浦学魂」と、背番号を縫い付けた。6人で約90個を作り、7月の埼玉大会初戦前に選手や森士監督らに渡した。9日夜にバスで埼玉を出発し、10日午後に球場入りした女子マネジャーの小泉由梨恵さん(3年)は「4回も甲子園に連れてきてもらって幸せ者。目の前の試合に集中して頑張ってほしい」とエールを送っていた。
(毎日新聞埼玉版)