高校球児を大きく成長させる「糧」の一つに、「悔しさ」がある。この春の関東大会でも、たしかな成長の手応えをつかんだ選手たちがいる。
「横浜、横浜って言いながらこの冬はやってきたんです」。浦和学院の左腕、佐野涼弥(2年)が言う。
昨秋の関東大会。佐野は横浜との1回戦に先発したが、制球を乱して5回7失点。チームも敗れ、今春の選抜大会への出場が絶望的になった。
佐野はその試合を「横浜という名前に精神的に負けて、力んで自分の投球ができなかった」と振り返る。悔しさから冬場は多いときで1日20キロの走り込み。スタミナと自信をつけた。
そして春。21日の関東大会2回戦の相手は、再び横浜だ。「敵は横浜じゃなく、自分。力まず、打たせて取る」と言い聞かせた。
冬から3キロほど球速が上がった直球に縦に落ちるスライダー。六回から救援のマウンドに上がり、無失点で6三振を奪った。2-0の勝利に森士監督も「秋の悔しさを持ってやってくれた。いい試合ができたと思う」と選手たちの成長をたたえた。
今春の選抜に出場した前橋育英の根岸崇裕(3年)もそうだ。昨秋は公式戦9試合で5回3分の1を投げただけ。身長192センチの大型右腕で見るからに「大器晩成」タイプ。荒井直樹監督も「素材は良いけど、まだまだ時間がかかる」と話す選手だった。
転機の一つが、選抜だった。2回戦の報徳学園(兵庫)戦に先発し、1回4失点で降板。敗戦の責任を背負い込み、「力んでしまった」と大きい体を小さく丸めていた。
あれから2カ月。関東大会2回戦(20日)のマウンドに、背番号1をつけて堂々と投げる根岸がいた。
春の群馬県大会では7回参考ながらノーヒットノーランも記録。そして20日も駿台甲府(山梨)を相手に先発し、八回途中まで無失点と好投した。
「時間がかかる」と予想していた根岸の進化を、荒井監督が説明する。
「体がシャープになってきた。土台ができて、ボールの質が変わった。彼は本当に地道にコツコツやる子。私はそういう選手を使いたい。周りの人間にも見本となるので」
根岸も言う。「選抜では四死球から崩れてしまって。自分に自信が持てるように、普段の走り込みから抜かないように意識しました」。これによって、不安定だった下半身が安定し、投球フォームにぶれがなくなったのだ。「凡事徹底」を座右の銘とする荒井監督が、そんな右腕に背番号「1」を授けたのは、必然なのかもしれない。
この春も全国各地で「悔しさ」を経験した選手たちが大勢いるだろう。負けや失敗をいかに自らの血肉とするか。集大成の夏まで、もう少し、時間はある。
(朝日新聞)