量や質を管理し体重万全に
6月下旬、近大高専(三重)の食堂で、スポーツトレーナーの南真人さん(36)が野球部員たちに呼びかけた。脂肪がつくのを抑えるためだ。
南さんは埼玉県の名門、浦和学院の出身。甲子園でも登板した投手だった。しかし、大学時代にひじを痛め、メスを入れることになった。医師から原因として指摘されたのが、急激な体重の減少だった。
球児たちに同じ思いをさせたくないと、現在は運動選手らに栄養管理を指導する「食育こ~ぼ」(京都府精華町)を営み、野球部のある各校を回っている。近大高専でも月に1度、部員一人ひとりの体重や体脂肪率、筋肉量などを測定。部員たちに、前回との数値の変化を振り返らせる。
前回に比べ体重が落ちた投手の山川太嗣君(3年)は「筋肉量は増えているので、(週末の)連投が原因だと思います。朝食だけはきちんととっていきたい」と冷静に受け止めた。
エースの中西元亜(ゆきあ)君(3年)は体重の増えやすい体質に悩まされてきた。入学当時は95キロ。南さんと相談し、マヨネーズなどカロリーの高いものを控えた。他の部員たちが体重を増やすため、食事量を増やす中、食事量をセーブし、80キロに落ち着いた。「今の体重がベスト。身体のキレもあり、球威も出せます」
南さんは部員や保護者の相談にもLINEで応じている。保護者の作った弁当を写真で送ってもらい、アドバイスを送る。「きちんとした食生活は、野球をやめた後にもつながる。何より生きるために必要なことですから」
「食」を見直し、夏に臨むチームが別にある。チームをあげて食事量を増やし体づくりを進める相可だ。
主将の市野巧大(こうた)君(3年)は、春季大会の地区予選敗退が決まった後のミーティングで切り出した。
「みんなで集まって昼ご飯食べへん?」
午前の授業が終わると、弁当を片手に部員が集う。早々に弁当を食べ終えると、今度は炊飯器で炊きあがった白米を分け合う。味付けのりをご飯に巻いたり、ふりかけをかけたり。1人あたり1合以上の米を平らげる。
「何を言ってくるかと思ったら。正直驚きました」と逵(つじ)兼一郎監督(43)。部員たちの提案を実現させるため、部員の集まる教室を確保。白米はOBや保護者から提供を受けた古米を使い、マネジャーが朝練習の間にお米を炊いている。
市野君自身、162センチと小柄。1年生の冬、筋トレに励んだが、身体は大きくならず、目を向けたのが食事だった。母親に頼み、用意してもらった約2・5合の米を毎日食べた。
体重が増えたことで筋トレの効果も上がった。下半身はがっちりとし、捕手と4番を任される大黒柱となった。「自分の食べるものが身体をつくっている。身体づくりの基本だと思って続けてきました」。けがもなく、万全のコンディションで最後の夏を迎える。
(朝日新聞三重版)