紅白戦で2回を無失点に抑えた2月16日の夕方、西武の3年目、渡辺勇太朗の電話が鳴った。
「このままじゃダメだ、と。ハッパをかけていただきました」
直球の質が悪かった。渡辺自身も感じていたことを、電話の主は言い当ててきた。
内海哲也だった。
巨人のエースとして一時代を築き、西武に移籍して3年目を迎えた38歳の内海と、将来のエースと期待される20歳の渡辺。2人の間には強固な「師弟関係」がある。
出会いは2019年。内海は左前腕のケガでプロ入り後初めて、1軍登板なしに終わった。2軍でリハビリに励む日々。毎朝、必ず6時半には球場に来て体を動かした。その姿を見ていたのが、ルーキーの渡辺だった。
渡辺は身長191センチの大型右腕。埼玉・浦和学院高時代は、第100回全国高校野球選手権で好投し、根尾昂(中日)、藤原恭大(ロッテ)らとともに高校日本代表にも選ばれた。
自分の倍近い年齢のベテランが、誰よりも早く球場へ来て練習する姿に、心を揺さぶられた。
「自分も見習って、朝から動くようにしたんです。2人で会話させてもらう機会も増えて。内海さんは自宅から球場まで1時間半くらいかかるのに、毎朝のトレーニングを欠かさない。ついていこうと思った」
投手としての心構え、トレーニングのこと、人生観……。様々なことを学び、今年は1月の自主トレもともにした。
渡辺はそこで、内海を感心させた。
ハードなランニングメニューで知られる左腕の自主トレに、しっかりとついていったのだ。
内海がうれしそうに言う。「(渡辺との自主トレは)刺激しかなかった。勇太朗はちょっと抜けているというか、しっかりしていないところが去年までは見受けられた。でも、今年は僕のランニングにも最後までついてきた。叱るところが一切なかった」
この春のキャンプは別々だった。渡辺はA班(宮崎)にばってきされ、内海はB班(高知)で調整に励んだ。その間も、3度ほど連絡を取り、現状などを報告したという。
渡辺は自らの性格を「好奇心旺盛」と表現する。
新しいトレーニング法を知れば、ついついそれに飛びついてしまいがちな面がある。悪いことではないが、内海からその点を指摘されたことがある。
「今取り組んでいるトレーニングの成果がどう出るかも分からないうちに、別のものに飛びつくな」と。一つのことに一貫して取り組む、「芯」を持てという意味だ。
内海の練習を見ていると、「芯」の強さがよく分かる。例えば外野のポール間を繰り返しダッシュするメニュー。特別足が速いわけではない内海だが、その練習で若手の中でもトップのスピード持続力がある。
長年、サボることなく走り続けてきたことで、心肺機能や下半身の持久力を高いレベルで維持できている証しだろう。朝練を続ける姿勢も含め、渡辺にとっては最高の教材だ。
2人とも、今季は「勝負の年」になる。渡辺は「入団した時から、3年目で先発ローテーションに入ることを目標にしてきた。アピールしたい」。
過去2年で1勝しか挙げていない内海も正念場。「状態をどんどん上げて、1軍から『ほしい』と言われたときに、常に高いレベルの準備ができているようにしたい」。18歳差の師弟の活躍に注目だ。
(朝日新聞)