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浦学新監督が着目した心理学 父譲りの伝統、アップデートし朝練廃止

 第94回選抜高校野球大会で、浦和学院(埼玉)の森大(だい)監督(31)は、同校を30年間率いた前監督の父・士(おさむ)さん(57)に続き、親子2代での甲子園采配となった。春夏通算22回甲子園に導いた父の「伝統」をそのまま受け継ぐのではなく、心理学をもとに「アップデートした野球」を実践する。28日に九州国際大付(福岡)を6-3で破り、準決勝進出を決めた。

 森監督は昨秋、30年間チームを率いた士さんの後任に就いた。就任早々、部員に配ったのは「問診票」。睡眠はどのぐらいとっているか。栄養は。心の状態は――。質問は30項目以上にわたり、心や体がどんな状態にあるかを調べた。

 多くの選手にみられたのが「次の日に朝練があることがプレッシャーで十分に眠れない」ことだった。朝練は、士さんが監督時代に毎日課したルーティン。2013年の選抜大会で優勝するなど、同校を全国屈指の強豪に育てた原動力だが、ぐっすり眠れず、目の下にクマができている部員もいた。

 そこで、森監督は朝練を廃止。睡眠を十分に取った成長期の選手たちは、半年ほどで平均体重を4~5キロ増やした。中軸の金田優太選手(3年)は「体を大きくすることで打球が飛ぶようになった」と話す。

 28日の準々決勝は、3-3に追いつかれた直後の八回裏、4番の鍋倉和弘選手(3年)が放った勝ち越しの3点本塁打で勝負を決めた。

 森監督も同校野球部の出身で、2008年の夏は甲子園のマウンドに登った。卒業後、早稲田大学大学院で心理学を学び、全国の甲子園常連校の指導法を調べるなかで、「選手の心理状態が身体に与える影響が大きい」と知ったという。

 「父は1人でチームをまとめるトップダウン方式。自分は分業制」。やり方こそ違うが、父を尊敬するからこそ、自分のスタイルを貫きたいという。19日の初戦の前夜、士さんから「恐れるな。思い切ってやりなさい」と電話で励まされた。

 森監督は「選手は甲子園に来て大きく成長している。ここまで来たら決勝めざして、選手一丸、頑張りたい」と話した。

(朝日新聞電子版)

新生浦学、流れ呼び込むHR 智弁和歌山から刺激、鍛えた振り切る力

八回裏浦和学院1死一、二塁、鍋倉は右越え3点本塁打を放つ。投手香西、捕手野田

 追いつかれた直後の八回、浦和学院は四球、安打で1死一、二塁を築き、左打席に4番の鍋倉和弘が立った。

 2ボール2ストライクからの5球目、内角高めの厳しいコースに狙っていた直球がきた。ひじをたたみ、腰をコンパクトに回転させながら思い切りバットをぶつけ、右翼ポール際にまで運んだ。

 「球をしっかりとらえる意識だった。詰まってライトフライかなと思ったけど、伸びてくれた」と鍋倉。

 詰まり気味でも甲子園のスタンドに届かせるスイング力を持っているということだろう。

 この局面、鍋倉の頭の中には、森大(だい)監督から言われてきた言葉があった。

 「悪い流れを変えるのは1本の長打だよ」

 直前の守りで2点を奪われ、流れは九州国際大付に傾きかけていた。それを断ち、勝負を決めた一発だった。

 「投高打低」が顕著な今大会、浦和学院の長打力が際立っている。

 鍋倉が放った3ランは大会第5号。この試合の六回に2番の伊丹一博が放ったソロを含め、この試合までの5本中4本が浦和学院の選手によるものだった。

 新チームが始動した昨年8月、森士(おさむ)・前監督から長男の大監督に代わり、チームの指針に「超攻撃野球」が掲げられた。

 昨夏、浦和学院は全国選手権の初戦で日大山形に敗れた。31歳の新人監督はその大会で全国制覇を遂げた智弁和歌山の打撃に触発されたという。

 「バットを振り切れば打球は(野手の間を)抜ける、長打が出る」

 そして、選手にはこう声をかけた。

 「振り切ることから始めよう。追い込まれても、つなごうと当てにいくな。凡打でもいいから、恐れず振り切れ」

 振り切る力を鍛えた。

 打撃練習では950グラムの木製バットや1・2キロの鉄バットを使った。紅白戦は木製バットで戦った。

 監督はかっこうの練習相手にもなった。

 森監督は浦和学院での選手時代に投手として甲子園のマウンドを経験し、早大、三菱自動車倉敷オーシャンズでもプレーした。

 対戦相手のフォームをまねながら、打撃投手として本気で投げ込んでくる監督との対戦は「気合が入る」と主将の八谷晟歩(せいほ)は言う。

 冬の間、選手たちはとにかく食べた。伊丹は5キロ、増量してスイングが強くなったことを実感した。

 1回戦が10安打4得点、2回戦が12安打7得点。そしてこの日は9安打6得点、2本塁打を含め長打が4本。

 強打を看板に昨秋の九州大会を制し、優勝候補の一角にも挙げられた九州国際大付を力でねじ伏せた。

 高い守備力をベースに小技を絡めた緻密(ちみつ)な野球が持ち味だった以前とは、ひと味もふた味も違う。

 「アウトになることや三振することを恐れず、自分たちのスイングができていることが本塁打につながっている」と八谷。

 「新生浦学」は勢い十分だ。

(朝日新聞電子版)

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