【写真】浦和学院高時代、高校日本代表で大谷翔平選手とともにプレーしたJR東日本の佐藤拓也さん=千葉県内で2023年10月2日
日本選手初の本塁打王、米大リーグ史上初の2年連続「2桁本塁打、2桁勝利」を達成し、2年ぶり2度目のア・リーグ最優秀選手(MVP)に満票で輝いた大谷翔平選手(29)は、多くの人に影響を与える存在でもある。社会人野球のJR東日本で外野手として活躍する佐藤拓也選手(29)も、高校時代に出会ったことが人生の転機になったという一人だ。
高校代表で同室 刺激受け、野手専念
「純粋にすごすぎる。これまでパワーでは日本選手は少し劣るという見方をされてきた中で、そのパワーでメジャーの選手に勝つなんて。しかも投手をやりながらって、本当に規格外ですよね」。本塁打王のタイトル、そして2度目のMVPに感嘆の声を上げる。
佐藤選手は埼玉・浦和学院高のエース兼主軸打者として甲子園に3度出場し、立大を経て2017年に同社に入社。今年の夏もチームの中心選手として、都市対抗に出場した。
大谷選手と交流があったのは高校3年生の時だ。
まず夏の甲子園の予選前に岩手・花巻東高と練習試合で顔を合わせ、大谷選手に左中間に二塁打を打たれた。「打球の速さが違ったんですよ。(投げたのは)直球だったと思うんですけど、ちょっと甘めに入った。監督に『日本一いいバッターに真っすぐで勝負して、通用するわけないだろう』みたいな感じで怒られたのを覚えています」
大谷選手は岩手大会決勝で敗れ、夏の甲子園での再会はかなわなかったが、高校日本代表でチームメートになると、同じ投打「二刀流」だった2人は同部屋になり、一緒に過ごす時間も長かった。
チームメートになる前は、体が大きく、能力もずば抜けている大谷選手は近寄りがたい雰囲気なのではと勝手に想像していた。だが「いざ会ったらめちゃめちゃ話しやすいし、すごくマイペース。野球の時と普段の生活のギャップがありました」。
例えば、合宿中、夕食後に選手が集まってバットを振りに行くときも、誘いに乗らない。「翔平に『行く?』って声をかけても『寝てる』みたいな。ノリが悪いとかそういうのは全然ないんですけど、うまく自分の時間を使っていたんじゃないかな」と当時を思い起こす。
ただ、グラウンドに出ると、やはりその実力は抜きんでていた。キャッチボールではいつも大谷選手とペアを組んだが、軽く投げているように見えて、指に掛かったきれいな回転の球がグラブに勢いよく飛び込んでくる。「キャッチボールから全く違うんです。投手として自信をなくしました。もうそれで(大学からは)野手に転向しようと踏ん切りがついた。『ショック』とかじゃないし『超えてやろう』というレベルじゃない。とてもじゃないが無理だと」
大学からは外野手として打撃力に磨きをかけ、4年時のリーグ戦では東京六大学野球で史上32人目の通算100安打もマークした。「(大谷選手に)刺激を受けたことは、僕の野球人生にも大きく関わっています。そういう選手を見ずに大学に行ったら、高校である程度活躍した自分に満足して頑張れなかったかもしれない」という。
「高校の時から二刀流で活躍できるとは思っていたけど、メジャーで本塁打王を取るところまでは想像できていなかった。投打両方やっている分、負担もかかるだろうし、翔平だからできている部分もある。長く応援し続けられたらうれしい、僕自身も社会人の第一線で、一年でも長く活躍し続けたい」
10年連続での都市対抗出場を目標に掲げる佐藤選手。いつまでも大谷選手は、背中を押してくれる存在だ。
(毎日新聞)