◇「熊谷の新球団を強く」
埼玉で生まれ育った“打撃の天才”が指導者として第二の人生をスタートさせる。プロ野球埼玉西武など3球団で活躍し、昨秋をもって18年の現役生活に区切りを付けた石井義人氏(36)。今季からプロ野球独立リーグ・BCリーグに参戦する武蔵ヒートベアーズ(熊谷市)の打撃コーチに就任し、「地元の新球団を強くしたい」と燃えている。
◇教える楽しさ
川口市出身で1996年、浦和学院高校の主砲として春夏連続で甲子園に出場した。巧みなバットコントロールで広角に打ち分ける打撃が最大の特長。通算打率2割9分の数字以上に勝負強いバッティングが印象的だ。巨人に移籍した2012年には中日とのクライマックスシリーズ・ファイナルステージ第5戦、九回裏1死満塁の好機に代打出場。サヨナラ打を放ち、同シリーズのMVPに選ばれた。
華々しいプロとしてのキャリアも、終盤に差し掛かると2軍暮らしが長くなった。若手から助言を求められることも増えた。技術を伝えた選手の活躍が自分のことのようにうれしかった。「教える楽しさを知ってしまった」。厳しい競争の世界で感じたことのなかった心境だった。
◇指導者の道へ
現役引退を発表した昨年10月に武蔵ヒートベアーズから誘いを受けた。当初は選手兼コーチというプランも提示されたが、「コーチの仕事は初めて。教える方がおろそかになってしまってはチームに申し訳ない」と、指導者一本で勝負することにこだわった。
結果がものをいうプロの世界に身を置くか、球団が仲介する安定した職業を選ぶか、人生の岐路に立って悩んでいたとき、「野球界にいればいい」と背中を押してくれたのは巨人の原辰徳監督だった。球団スタッフとしてチームに残ることを勧める同僚たちの声も多かったが、指導者になるという決意は固かった。
◇地元埼玉の縁
「卒業生の中で3本の指に入る打者。一番の努力家」とは母校・浦和学院高校の森士監督。「長年プレーヤーとして学んできたものをプロを志す人に伝えてもらえたら」と期待を込める。同級生として共に甲子園で戦い、埼玉西武でもチームメートだった同高の三浦貴コーチも「昔の仲間が同じ埼玉で指導者になるのは感慨深い。お互いに切磋琢磨(せっさたくま)していいチームをつくりたい」と旧友にエールを送る。
石井氏は「埼玉で指導者をするのは何かの縁。サッカー人気も高いが、野球に少しでも貢献できれば。自分自身成長しながら今までの経験を伝え、将来的にはNPBの指導者になりたい」と夢を語る。尽きることのない野球への情熱が、新たな人生の一歩を踏み出す原動力となる。
■BCリーグ
野球を通した地域活性・貢献を掲げる独立リーグ。群馬、新潟、長野、富山、石川、福井の6球団に、2015年シーズンから新規参入する埼玉、福島の2球団を加えた8球団が各県でリーグ戦を行う。近年はNPB(日本プロ野球機構)を目指す若者の受け皿にもなっている。
(埼玉新聞)