大会連覇の夢を断ち切った。関東王者の浦和学院(埼玉)が延長11回、昨年覇者の龍谷大平安(京都)を破って2年ぶり優勝へ向け初戦を突破した。78年ぶりとなった前回優勝校と前々回優勝校の好カードは息詰まる投手戦となり、浦和学院が11回に決勝点を奪った。視覚障害のために一時は野球を続けることも危ぶまれた江口奨理投手(3年)が甲子園初登板で完封、センバツV左腕の高橋奎二投手(3年)に投げ勝った。
難病を克服した浦和学院の江口が、龍谷大平安のセンバツ連覇の夢を打ち砕いた。一昨年と昨年の覇者がぶつかった一戦は、やはり1回戦屈指の好カード。0-0で延長戦に突入した息詰まる投手戦を、江口が制した。11回、最後の打者を三ゴロに打ち取ると、小さなガッツポーズを見せた。
3安打無失点で、堂々の完封勝利。「インコースの真っすぐが決まりだしてから自分のテンポで投げられた」。一昨年の優勝左腕で今春早大に進学する小島和哉投手直伝の内角攻めがさえた。延長まで投げるのは初体験だったが、「絶対に相手に点をやらないぞ、と諏訪が奮い立たせてくれた。厳しいところに投げ切るのに徹した」という。
一度は野球をやめるところまで追い込まれた。「去年の今ごろを思うと…、ここに立てるというだけで喜びがある」。1年生だった一昨年9月、右目を患った。角膜潰瘍という病気だった。1年近く野球ができなかった。父・文彦さん(47)は「病院などを7、8カ所回ったがどこからも治らないと言われた。野球どころか、将来就職もどうなるのかと途方に暮れた」と振り返る。しかし、奇跡的に回復。「視界が白くぼやけて見えにくかった」(江口)が、10メートルほどのキャッチボールから再開。昨年8月に復帰した。
身長も173センチと大柄ではないが、中学時代に全国大会で優勝し、日本代表にも選ばれている野球のエリートだった。それでも文彦さんは、今回のことが「自分の将来を見つめるいい機会になったと思う」と話す。今年の正月、江口は自衛官である文彦さんに「お父さんの仕事は、どんな仕事なの?」と、詳しい内容を初めて尋ねてきたという。そして、江口が今大会のアンケートに答えた「将来の夢」の欄には、「自衛官」と書かれてあった。
森士監督(50)は、江口の投球に「落ち着いて臆することなく投げてくれた。たくましくなった」と目を細めた。9回無死一塁の攻撃で送りバントを失敗して併殺を食らい、指揮官も「あぁ、これはだめか」と思ったというが、延長で見事な勝利。「こんな展開、正直、感動しました」とうれしそうだった。
(中日スポーツ)
◇浦学・江口、強気の延長11回完封!失明危機乗り越え前年王者斬り |
1回戦3試合が行われた。第3試合では一昨年優勝校の浦和学院(埼玉)が昨年優勝校の龍谷大平安(京都)と対戦し、延長11回の末に2-0で下した。江口奨理(しょうり)投手(3年)が散発3安打で完封し、高橋奎二(けいじ)投手(3年)との投手戦を制した。第1試合の敦賀気比(福井)の平沼翔太投手(3年)、第2試合の仙台育英(宮城)の佐藤世那(せな)投手(3年)も完封勝利。センバツでは06年の開幕日以来、9年ぶりに一日全3試合が完封試合となった。
最後まで強気に攻めた。2点先制した直後の延長11回無死一塁。江口は内角直球で3番・橋本を三ゴロ併殺打に仕留めた。さらに4番・西川も内角直球で三ゴロ。127球目だ。高橋とのエース左腕対決を制し、左手でガッツポーズした。11回以上を投げた完封勝利は大会19年ぶりだった。
「相手はいい投手。点を取るのは難しい。0に抑えれば最後に打ってくれると信じていた」。序盤はピンチの連続だった。初回2死一、三塁を切り抜けると、2回も1死満塁とされた。2年前のセンバツ優勝投手で同じ左腕の先輩、小島(早大に進学予定)の「最後はイン(コース)。気持ちでバッターに向かっていく」という言葉を思い出した。内角直球で二ゴロ併殺打。窮地を脱すると、その後も胸元を突いた。小島直伝の「強気」を貫いた。
2年前の優勝時は高校入学前。江口はテレビで見て「先輩たちみたいに日本一になりたい」と誓った。直球は自己最速を3キロ更新する135キロをマーク。さらに小島から直伝された、もう一つの武器があった。カットボールだ。右打者の内角を攻めて、ファウルを打たせてカウントを稼いだ。今大会6年ぶりとなった0―0での延長戦突入。高橋に投げ勝ち、前々年覇者として、前年覇者の龍谷大平安を破った。
「甲子園で投げられていることが奇跡。昨年の自分からは考えられない。素直にうれしい」。1年の夏、視神経の炎症で失明の危機にさらされた。視界不良は続き、年末年始に帰省した埼玉県内の実家から寮に戻る際には「野球をやっていく自信がない」と家族に漏らし、涙を流した。昨年の今頃は練習の手伝いと球拾いに明け暮れていた。「このまま終わるのか…」と失望しかけた昨夏、奇跡的に回復した。「支えてくれた方々に感謝したい」。家族、小島ら先輩、チームメートに励まされ、自身初の甲子園で最高の結果を出した。
2年ぶりの大会制覇へ。そして意地と意地をぶつけ合った龍谷大平安ナインの思いも、その左腕に託された。「1勝を積み重ねた結果が優勝になればいい」。どん底からはい上がった男は強い。
◆江口 奨理(えぐち・しょうり)1997年(平9)12月22日、埼玉県生まれの17歳。小1から野球を始める。新曽中では軟式野球部で中3時にKボール全国大会で優勝。日本代表入りし、アジア大会準優勝。浦和学院では1年春の埼玉県大会でベンチ入りを果たした。家族は両親と妹2人。1メートル70、68キロ。左投げ左打ち。
(スポニチ)