埼玉を代表する強豪校同士の対戦はお互い譲らずに9回裏逆転サヨナラで浦学が関東大会進出を決めた。試合時間2時間48分、互いに持ち味を出した熱戦だった。
1点差を追う9回裏浦和学院最後の攻撃。得点は3-4。先頭の竹村の三塁線を襲う内野安打を一塁に暴投し無死二塁のチャンス。2番が送り三塁に。一打同点の場面で迎るは3番・主砲で2安打と好調の佐藤。1回からリリーフした聖望学園・川畑の初球は真中のストレート。振り抜いた打球はライトスタンドへ一直線の逆転2ラン。最後は主砲・佐藤の一発で決めた。
試合は1回・聖望学園が先制し、その裏浦和学院が2-1と逆転。3回に聖望が追いつくと、4回には再び突き放し3-2と浦和学院リード。6回・石橋がセンター越えの三塁打で無死3塁と追加点のチャンスを迎えたが、聖望・川畑の粘り強い投球の前に無得点。この直後7回聖望学園の攻撃は3打席3安打と好調の4番巻口が4本目のヒットをセンター前に。バントで送った2死から、今大会初出場の代打・納谷がレフトへタイムリーを放ち3-3の同点。
その裏浦和学院もすかさず反撃。林崎、佐藤の連打に死球で1死満塁のチャンス。ここも聖望学園・川畑は代打の渡辺を2塁ゴロでホーム封殺。3安打と好調の石橋に対し、ボールから入り1-3でも際どいコースを攻め2-3。最後は投手フライに仕留めた。満塁で3ボールになっても落ち着いた投球は見ごたえがあった。
ピンチの後はチャンスの言葉通り、8回聖望学園が勝ち越す。1番からの攻撃で四球と投手前バントを佐藤が一塁へ悪送球で一・二塁。ここで浦和学院ベンチが動き投手交代、ライトに入っていた渡辺が再びマウンド。バントで二・三塁になると。4-4と好調の4番を迎え、右投手に交代。この初球がワイルドピッチとなり三塁走者が返り4-3と聖望学園が勝ち越し。その裏浦和学院は三者凡退に押さえ込まれ9回を迎えた。6番手の浦和学院・山口が聖望学園の攻撃を3人で押さえ9回の反撃に繋げた。
終盤は互いに死力を尽くした攻撃を見せたが、堅い守りを見せ追加点を許さない試合展開に互いの応援席は一喜一憂。勝負ところで出た互いのエラーが勝負の明暗を決めた試合。8回・聖望学園の勝ち越し点は相手投手のエラー。9回浦和学院の逆転も三塁のエラーから始まり、捕手交代でリズムと配球ミスが重なった(聖望学園・岡本監督)1球が試合を決める結果になった。試合時間を感じさせない展開に、森・浦和学院監督は「この時期では最高のゲーム」と両チームの健闘を称えていた。
◇土壇場で勝敗を分けたインコース勝負
「負けゲームかな」と浦和学院(以下浦学)・森監督はゲーム終盤腹をくくっていたが、最後は主役の一振りで劇的な幕切れを迎えた。
浦学の先発は1年生・涌本、聖望の先発は左腕の小林(祐)でスタートしたこの試合、ゲーム序盤は浦学ペースで進む。聖望は1回表、この日4番に入った巻口の先制タイムリーで先制するが、その裏、先発の小林(祐)が捕まり2死満塁とされると、聖望ベンチは早くも小林(祐)を諦め、右サイドスローの川畑を投入する。川畑がその変わりっぱなを狙われ石橋のセンター前2点タイムリーで逆転を許す。
だが、その後川畑がサイドスローから微妙に動く直球を駆使し強打の浦学打線を相手に4回の1点のみに抑える好投をみせ、流れを聖望に引き寄せる。
一方の浦学もこの日序盤からややリズムに乗れない涌本を2回途中で諦め、左サイドスローの渡邊(剛)を登板させる。この早いタイミングでの継投は意外だった。いくら左が多い聖望打線とはいえ、聖望が現状での切り札川畑を出したそれとは違い、その後の浦学ピッチングスタッフを考えても、浦学が早いタイミングで涌本を降ろしたことでのダメージが大きく、皮肉にもその後の試合展開を苦しくする一つの要因となってしまった気がしてならない。
だが、それは聖望ベンチにとっても意外だったようで、何より代わった渡邊(剛)は丁寧にコーナーを突き良く投げた。左打者の多い聖望は、選手達の判断でバントの構えから体を開かないように工夫し渡邊(剛)を打ち崩そうとするが、チャンスは作るがなかなか連打が出ず渡邊(剛)を打ち崩すまでには至らない。
両チーム1点づつ取り合い3-2と浦学1点リードで迎えた7回表、聖望は2死3塁から代打の納谷がレフト前タイムリーを打ち3-3の同点とすると、8番・田畑もヒットで続きついに渡邊(剛)を引きずりおろし、佐藤を引っ張り出す。
だが、浦学にとってこの佐藤が誤算だった。7回のピンチは抑えるが、8回表、先頭の小林(健)を歩かせると、続く吉田(悠)の送りバントを自らの悪送球で無死1、2塁と傷口を広げ早くもマウンドを後にしセンターに戻る。これはさすがに想定外であったようで、ここから浦学ベンチはバタバタし始め、投手陣は総動員となる。ライトに守っていた渡邊(剛)を呼び戻し、送りバントで一つアウトを取ると、4番の巻口を迎えすぐさま右の池山に代える。
「あの辺りはひらめきです」
と森監督も試合後苦笑いしていたが、その池山も悪い流れを断ち切れない。あっさりとワイルドピッチで勝ち越し点を与えてしまう。
浦学は打線も7回裏1死満塁から主将・明石に代え出した渡辺(健)、石橋が凡退し絶好のチャンスを逃すと、8回は三者凡退に抑えられ球場内に浦学敗退という雰囲気が漂い出す。だが、最終回ドラマが待っていた。
9回裏、先頭の竹村の当たりは3塁線への強いゴロとなる。サード小林は良く止めたが一塁への送球が逸れ、無死2塁となる。佐藤の前にランナーを出したかった浦学にとって願ってもない展開となるが、とにかく、聖望にとってはこのプレー特に暴投は大きかった。
なぜなら、「もし最悪無死1塁だったら、送られても佐藤を敬遠して1、2塁で笹川勝負ができた。併殺もある。でも、1死3塁で佐藤を敬遠すると、うちは途中からキャッチャーを高橋に代えてるし走られる可能性が高くなる。そうなると、1死2、3塁とワンヒットで逆転サヨナラっていう状況になってまうから難しくなったよね」(聖望・岡本監督)
そして、佐藤を迎える。聖望バッテリーにとって非常に難しい場面となる。伝令を送り岡本監督が指示を出すかと思われたが、「伝令は同点に追いつかれてからと思って取っておいた。それまでのピンチをうまく抑えていたからまさかとは思ったんやけどね」ということで、1年生バッテリーにすべてを託す。おそらく様子を見たりくさい所を突きながらという攻めを期待していたのであろう。だが、その考えは甘かった。真っ向勝負だった。初球ストライクを取りにインコースへストレートを投げそのボールが甘く入る。
一方の佐藤は確かに1死3塁で犠牲フライで同点という佐藤にとっては比較的楽な状況ではあったが、本人もまともに勝負されないとも感じていた。だから来ても一球、張っていたインコース寄りのストレートだった。それを捕らえると打球は両翼99mで高さ5mのフェンスと高校生にしてはなかなかハードルの高い球場でも難なくライトフェンスの上を越えていった。県営で自身4本目となるホームランは逆転サヨナラ勝ちを決める貴重な一発となった。浦学は彼の一振りで関東大会への切符を手繰り寄せた。これは彼の凄さだが、とにかくミスショットが少ない。ここぞという所で1球で仕留められるバットコントロールは高校レベルでは図抜けている。
聖望にとっては浦学打線にビックイニングを作らせず、ゲーム中盤からは完全に聖望ペースで最後まで来ていただけにまさに痛恨の敗退となった。たまらず、試合後岡本監督は選手を集め、バッテリー中心に厳しく追求していたが、その後取材陣にこうも言っていた。
「川畑は良く投げた」
結果的には8回表、勝ち越し直後の1死1、3塁のチャンスで一気に突き放せなかったことも響いたが、このチームは1年生が中心である。この敗戦を糧に川畑を中心に一冬越えての成長を期待したい。
(高校野球情報.com)