大きな声で後押しできなくても、球場にファンの熱い視線と拍手が戻ってきた。春季県高校野球大会が23日、県営大宮や上尾市民など4球場で開幕。地区大会では控え部員や保護者らに限られていたスタンド観戦が、県大会からは一般客にも認められた。一般客が入場できるのは2019年の秋季県大会以来、約1年半ぶりだ。この日を待ち焦がれていた高校野球ファンは「最高の日」と頬を緩め、球児も「幸せを感じた」と全力プレーで応えた。
各球場で入場制限人数を設け、氏名、連絡先、観戦場所を記入する「入場者カード」を提出するなど新型コロナウイルス感染防止対策を実施。上尾市民球場では検温後、記入した入場者カードと引き換えにチケットを購入し、うれしそうにスタンドに入っていく一般客の姿が見られた。
同球場は第1試合に地元の雄・上尾高校が登場したこともあり、ネット裏にはオールドファンが多く詰め掛けた。
45年間、高校野球のとりこだという上尾市の無職秋元満男さん(79)は「高校野球ファンは、みんなこの日を待っていた。天気もいいし、最高の日。球児の純粋さと一生懸命な姿が好き」と若々しい表情を見せた一方で不安も。県内でも再びコロナ感染者が増加傾向にあり「もし緊急事態宣言が出たらどうなるのか。今の方法でいいから、お客さんを入れて決勝までできるとうれしい」と切に願った。
上尾高校の応援団OBで同市の無職早川喜一さん(68)は「新聞で日程を確認して、きょうを楽しみにしていた。バットの音や臨場感がいい」と笑顔。60年以上の高校野球ファンという上尾市の無職大国郁夫さん(74)は「高校生の熱心さが伝わってくる。生で野球を見るのは、やっぱりいいですね」と力説した。
熱い視線が注がれる中、試合は上尾がふじみ野に7―0で勝ったが、両チームとも最後まで死力を尽くした。ふじみ野の主将、森田元幹一塁手(3年)は「見てもらえることは当たり前ではなく幸せなことだった。やっぱり野球は楽しいなと実感できた」と前を向いた。8回を無失点に抑えた上尾の新井陸斗投手(3年)は「いつも以上の緊張感を力に変えられた。いろいろな人が見てくれて投げるボールの一球一球が重いなと感じた」と言葉に思いを込めた。
新型コロナウイルスが流行してから、球場に一般客を入場させて大会を実施するのは初。県高野連の神谷進専務理事(56)は「高校野球を見たいという声が多く、どういう風に感染防止対策をすればお客さんを入れられるかを考えてきた。初日が無事に始まって良かった」と新たな一歩に安堵(あんど)の表情だった。
(埼玉新聞)