◇競い合う6投手
昨年11月の関東大会決勝。マウンド上で、ともに1年生の渡辺剛と山口瑠偉の両投手がミットを合わせた。「頼んだぞ」「任せとけ」。佐藤拓也投手(2年)が主要大会を1人で投げ抜いた昨シーズンと違い、新チームになった昨秋以降は、佐藤投手を含む6人の投手が継投でチームを支えてきた。
「おい大丈夫か」。昨年10月の県大会準決勝戦。一回表に先制点を奪われたピンチで、マウンド上の涌本亮太投手(1年)は林崎龍也捕手(2年)から胸をばんばんとたたかれた。涌本投手は「何を言われているか分からなかった」と振り返る。試合には勝ったが、二回途中で降板すると、決勝戦とその後の関東大会で出番は回ってこなかった。
その関東大会は、他の投手の活躍もありチームは優勝した。涌本投手は関東大会の覇者として臨んだ神宮大会で好投したものの「仲間が活躍するのを見ると、自分も『もっとやらなければ』と厳しくなれる。あいつよりもいい球を投げたいと思う」と話す。
涌本投手が「あいつよりも」と意識するのが同じ右腕の山口投手だ。山口投手は関東大会の東海大相模戦を1人で投げ抜いたが、神宮大会では愛工大名電のスクイズバントに対応できず打者5人に投げ終えたところで降板した。山口投手は言う。「浦学を背負いながらバントに対応できないようでは恥。涌本や佐藤さんはライバル。はい上がらないといけない」
佐藤選手も「投げたい気持ちは変わらない」と打ち明ける。スイング1日2000本の野手としての練習のほか投手としても1日200球を投げる。野球部の小崎達也顧問(23)は「野手投手双方の練習ノルマをこなすため一番遅くまでバットを振っている」と舌を巻く。
競い合う投手陣だが、森士監督(47)は「まだ足りないものがある」とさらなる期待を口にする。「『投げたい』ではなく『絶対に自分が投げる』との強い意識で競争しエースに成長してほしい」
左サイドスローの渡辺投手は関東大会で3試合に中継ぎ登板し、相手打線に傾きかけた嫌な流れを断ち切った。「本当は最後まで投げきりたいが、後ろを信頼して役目を果たしたい」
関東大会決勝で公式戦初先発した伊藤祐貴投手(1年)は、「他の1年生がどんどん出場し焦りがあった」と振り返る。林崎捕手から「おれのミットだけ見て投げろ」とアドバイスされたが、三回途中で降板。「1人で投げきれる投手になる」との思いを新たにした。神宮大会で4番目に登板し3分の2回を投げた池山颯人投手(2年)も「悔しさを胸に精神力を磨きたい」と意気込む。
6人の投手全員が浦学の背番号「1」を背中に感じている。
(毎日新聞埼玉版)