第84回選抜高校野球大会が21日開幕し、第2試合で敦賀気比(福井)と対戦した県勢の浦和学院は、投打がかみ合い10-2で快勝した。同校のセンバツでの勝利は9年ぶり。夏の大会を含めても一勝した04年以来8年ぶりとなった。2回戦は第6日第2試合(午前11時半開始予定)で、鳥取城北(鳥取)を降した三重(三重)と対戦する。
失策ゼロの堅い守りを見せた浦和学院が、終始リードを保ち優位に試合を進めた。
二回表、四球で出塁した山根佑太外野手らが1死二、三塁の好機を作る。打席に立った竹村春樹内野手の母真貴子さん(42)は両手の指を顔の前で組み祈るような表情。振り抜いた打球が犠飛となり先取点を奪うと、「信じていました」とほっとした様子を見せた。
さらに走者をためて打席に入った佐藤拓也投手にスタンドから「拓也」コールが響く。声援に応えるように直球を左中間にはじき返し2点を追加。佐藤投手の母馨さん(46)は、昨年春のセンバツで味わった悔しさを振り返り「苦しんできたけど諦めずに頑張った」と目に涙をにじませた。
四回表には、二回に送りバントを成功させていた緑川皐太朗内野手が左中間に三塁打を放つと、すかさず林崎龍也捕手が右翼に犠飛を放ち差を4点に広げる。林崎捕手の弟誠也さん(15)は「感動した」と目を潤ませていた。
その裏、この試合2個目の四球を出し2死一、二塁のピンチを迎えたところで林崎捕手がマウンドに駆け寄った。「(上半身が前に突っ込む)悪い癖が出ているぞ。気をつけろ。落ち着いてやれば大丈夫だ」と話しかける。アドバイスを受けた佐藤投手が続く打者を三振に打ち取るとスタンドを埋めた大応援団から拍手が上がり「よし」「ありがとう」と声が飛んだ。
五回裏に1点を返され3点差に詰め寄られたものの、「みんなすごく落ち着いて守っていた。昨年とは全然違った」と石橋司外野手が振り返った通り、アウトを一つずつ積み上げていく。六回から八回までの敦賀気比の攻撃を1人の走者も出さずに守りきると、九回表には笹川晃平外野手と内野手の明石飛真主将、山根外野手に適時打が出て5点を加点し試合を決めた。
森士(おさむ)監督が「守り勝つ野球」を掲げた浦学野球部。八回裏には敦賀気比の3番西川龍馬主将が放った三遊間への痛烈な打球を、木暮騎士内野手が横っ跳びに捕球。佐藤投手が木暮内野手にグラブを差し出してほほ笑むシーンもあった。
試合後、選手たちはほっとした表情を見せたが、明石主将は「次にどう戦うか考えたい」と早くも気を引き締めていた。
◇「チームが一番」不振克服--佐藤拓也投手
完投目前の九回裏。1アウトを取ると、人差し指を立てて周囲をぐるりと見回した。「野手が落ち着いて守ってくれて助けられた」。昨年のセンバツで緊張からフォームを乱して以来、一時は外野手として試合に出場するなど不振に苦しんだ1年だった。
昨年末訪れた東日本大震災の被災地・宮城県で学校のグラウンドに建設された仮設住宅を見た。「好きな野球ができることが当たり前じゃないとわかった」。チームへの貢献を一番に考えるようになり、キレや制球を意識しながら投手としての練習をこなしながら野手としても連日2000回バットを振った。
林崎龍也捕手は「自分の悪い癖やピッチングを聞いてくるようになった。練習で1年生を引っ張ってくれた」と佐藤投手の変化を感じていた。完投勝利し、打者としても適時二塁打に加え3四球を選ぶなど活躍した。「支えてくれたすべての人に感謝して一試合でも多くプレーする姿を見せたい」と笑った。
◇応援席赤く染め
「頑張る仲間をみんなで応援」を掲げる浦和学院。アルプススタンドは、スクールカラーのえんじ色を基調とした応援カラー「浦学ファイヤーレッド」で真っ赤に染まった。同校は今年度、これまで別々に応援していた生徒会、吹奏楽部、ソングリーダー部が一丸となり応援指導部「浦学ファイヤーレッズ」を結成。ジャンパーやトレーナーの色を統一し、センバツ大会での9年ぶりの勝利を後押しした。スタンドに向かい「大声出して行きましょう」と音頭を取っていた野球部でつくる応援団の西尾太志団長(17)は「熱が入ってます」と、顔を真っ赤にしていた。
◇石巻から応援に
「がんばれ」「ヒット打て」。大応援団に交じって両手でメガホンを握りしめていたのは、宮城県石巻市鹿妻(かづま)地区の「鹿妻・子鹿クラブスポーツ少年団」の小学生4人と、同団OBの中学生3人=同<中>。浦和学院野球部が昨年末と今年1月、東日本大震災で津波の被害を受けた石巻市でごみ拾いをした際、合同練習したのがきっかけでバスで13時間かけて駆けつけた。同少年団の津田一浩監督(59)は「とてもお世話になったので絶対来たかった」。投手の遠藤瑠冴雅(るきあ)君(12)は「お兄ちゃんに投球を教えてもらったので一生懸命応援します」と話していた。
◇縁の下の力持ち
開会式の入場行進で、プラカードを掲げてひときわ大きく足を上げ真っ先に甲子園の土を踏んだのは、記録員を務める中島健太選手(3年)。練習に手を抜かず、緑川皐太朗選手も「頑張り屋」と認める。練習試合ではスコアを付け、選手に情報を与える。富岡慎介野球部長は「勝利のための縁の下の力持ち」と説明する。声援と拍手の中、堂々と入場した中島選手は「先輩に負けないよう元気よく行進しました。ようやく練習の成果を試合で発揮できる時がきました」と笑顔を見せていた。
◇佐藤が本領発揮--浦和学院・森士監督
感無量です。選手が落ち着いてプレーしてくれた。山本翔大投手の直球に振り負けないようにと指示したが、うまく加点できた。先発の佐藤は、一冬頑張って、本領を発揮した。一戦一戦、勝っていきたい。
◇普段通りできた--浦和学院・明石飛真(ひゅうま)主将
練習してきた分、普段通りの守りができた。佐藤は昨年とは違い、強気で投げた。打撃は初球からフルスイングを心掛け、みんな思い切って振れていた。次の三重戦では、先取点をとりたい。
◇リズム作れず--敦賀気比・東哲平監督
四球や連携ミスがあり、守備からリズムを作るという持ち味を発揮できなかった。先頭打者がなかなか出塁できず、流れを引き寄せられなかった。この経験を生かし一から立て直したい。
◇守備の流れ悪く--敦賀気比・西川龍馬主将
四球で出した走者に得点を許すなど、守備の流れが悪く、攻撃につなげられなかった。相手打線は積極的で、初球から甘い球を打ち返されることが多かった。夏に向けて守備を鍛え直したい。
(毎日新聞埼玉版)