県勢として45年ぶりに春の選抜高校野球大会を制した浦和学院。8月の全国選手権では県勢悲願の全国制覇に挑んだが、1回戦で仙台育英(宮城)に 10-11でサヨナラ負けを喫した。エース小島が乱調。3回に7安打を集中して9-6と大逆転したが、6回に10-10の同点に追いつかれ、9回2死一塁 から左翼に適時打を浴びた。手に汗握るシーソーゲームは、後世に語り継がれる「好勝負」だった。=8月11日埼玉県版など
◇悲願の夏優勝へ試練の冬
バックネット裏の記者席で、左翼線へ伸びるサヨナラの打球を眺めながら実感した。やはり前評判はあてにならない――。
追いつ追われつの大接戦になった仙台育英戦。先攻の浦和学院は1回に幸先良く1点を先取したが、その裏に6失点。と思えば、3回には大量8点をかえして逆転した。優劣が入れ替わるたびに、頭の中で原稿の構成を練り直した。
約4カ月前の選抜大会では5試合で計47得点。見事な勝ちっぷりで春の王者になった浦和学院に対する県民の期待は大きかった。春季県大会、関東大会と順調 に白星を重ね、3月から続く公式戦の連勝は21。4季連続で甲子園出場を果たし、多くのメディアで優勝候補の一角に挙げられたのもうなずける。
この夏は、初出場の前橋育英(群馬)が優勝旗を持ち帰るなど、各校の力が伯仲していた。大会後、森士(おさむ)監督も「今年はどのチームにも優勝のチャン スがあった」と振り返ったほどだ。浦和学院は勝てば2回戦は中4日。日程的に恵まれた組み合わせになるなど、春夏連覇へ向けた好材料がそろっていた。
実は、チーム状態は良好とは言い難かった。
各チームが夏へ向けて始動を切る中、浦和学院の選手たちは、選抜大会の疲労が抜けきらないまま5月下旬まで公式戦を戦った。そして勝ち続けた。夏直前、森 士監督が「調整が数カ月は遅れている」ともらしていたのが印象深い。監督が練習で自らノックを打ったのは、6月に入ってようやくのことだった。
地力のある浦和学院は、2年生左腕の小島和哉を中心にそうした逆境をはねのけ、夏の全国切符を勝ち取った。しかし、同時に負荷もかかっていた。甲子園入り後も疲労回復を重視するなど本調子にはほど遠かった。
それが、仙台育英との初戦で露呈した。1回だけで連続押し出しを含む5四死球。満身創痍(まんしんそうい)で足がつって交代するまで182球も投げたのに は脱帽する。サヨナラ安打を浴びた山口瑠偉(3年)は春の連勝を支えた右腕。調子のピークはとうに過ぎていただけに責められない。
浦和学院は秋の県大会3回戦で敗れ、連覇のかかる来春の選抜大会出場は絶望的だ。練習試合もできないこの数カ月はつらく厳しい時間になるだろう。選手たちはこ の20日、以前から続ける東日本大震災のボランティアのため、東北へ向かった。出発直前、山根佑太主将(同)は「つらかった分だけ選抜優勝の喜びは大き かった。振り返れば、やっていてよかったと思える」と語っていた。
県勢悲願の全国優勝へ。夢をかなえるために、彼らはまた冬を乗り越える。
(朝日新聞埼玉版・取材メモから⑨より)