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19日間の熱戦スタート 「最強の挑戦者堂々」 浦和学院

◇「がんばろう」胸に全力 19日間の熱戦スタート

 第93回全国高校野球選手権埼玉大会は9日、県営大宮球場で159チームが参加して開会式と開幕試合が行われ、19日間にわたる熱戦の火ぶたが切って落とされた。

 開幕戦は小川が山村学園に2-1でサヨナラ勝ち。東日本大震災からの復興を目指し、「がんばろう!日本」を合言葉に始まった大会は、劇的なドラマで幕を開けた。

 関東甲信地方の梅雨が明け、夏本番を迎えたこの日、昨年優勝の本庄一を先頭に、2971人の球児たちは堂々とした入場行進で、グラウンドの芝と土を踏みしめた。

  観衆1万5千人と出場チーム全員が見守る中、「がんばろう日本、がんばろう埼玉球児」と北本の小川弘輝主将が高らかに選手宣誓した。宣誓文に込めた思いは「野球ができる感謝」だった。同校の斎藤秀夫監督は「被災地の人たちが頑張る姿で自分たちも勇気をもらった。それに感謝して頑張るということ」と話す。

  阪神大震災が起きた1995年、斎藤監督は鷲宮を率いて選抜大会に出場。開会式で教え子の長谷川大主将が選手宣誓を行った。現地入りした時、宿泊先の近くにあった駅はつぶれ、電車も動いていなかったという。それでも大会に入ると、地元の人に応援してもらった。斎藤監督は「被災地が必死に頑張っている姿が自分たちの励みになった」と当時を振り返る。

  今回の宣誓文に盛り込んだ「がんばろう埼玉球児」のフレーズは斎藤監督のアイデア。感謝や希望を伝える言葉を考えた小川主将との合作だった。「埼玉のみんなで盛り上げていこう」(斎藤監督)との思いが名文を生んだ。

  一方、被災地の福島県立双葉高校から埼玉に転校してきた2選手も特別な思いを持って開会式に参加した。川越西3年の鎌田尚幸選手は「福島のみんなのためにもいろんな思いを持って、一球一球に集中して一生懸命に取り組みたい」。浦和東2年の猪狩優樹選手は「一つでも多く勝って福島にいい報告をしたい」。頑張る姿を見せることがお世話になった人への恩返しになるとの思いからだ。

  「開会式の主役じゃない。大会の主役になる」。開幕前日に斎藤監督が話した言葉は、出場する全選手に当てはまる。一人一人の球児が主役となる真夏のドラマ。ことしも熱戦が見られそうだ。

◇野球できること感謝

 力強く選手宣誓の大役を務め上げた北本の主将の小川は「声を出すまで緊張した」とほほ笑んだ。宣誓に込められた「普段通り野球ができることへの感謝を伝えたい」という思い。東日本大震災が起きた3月11日、グラウンドのベンチで恐怖を感じた大きな揺れ。徐々に見えてきた被災地の過酷な現実。一方で被災者が互いを支え合う姿に深い感銘を受けた。

 例年に比べて長めの宣誓文は自ら考案。鹿沼部長と国語科の木村教諭とともに手直しを重ね、本番の10日前に完成した。「多い日は40~50回練習した」と今春の選抜大会のビデオを繰り返し見て当日の重圧をイメージ。野球部の激励会では、部員と保護者ら約百人の前で予行練習を行い、準備は万全だった。

 「やり切ったので悔いはない。宣誓のくじを引けて良かった」と振り返る小川の視線は、11日の初戦へ向けられている。チームは秋春ともに県大会2回戦で涙をのんだ。就任3年目の斎藤監督と時を同じくして入学した小川は「たくさんお世話になった。恩返しできたらいい」と初戦突破に全力を尽くすことを誓った。

<宣誓全文>

 宣誓、3月11日、グラウンドが大きく揺れたあの日。多くの人の悲しみは今も続いています。しかし、被災地での人々のどんな時でも頑張る姿、人と人とが支え合う姿に私たちが勇気を頂いた4カ月でもありました。きょう、埼玉大会の開幕に当たり、私たちは決意を新たにしています。白球にすべての思いを乗せ、この最高の仲間と、甲子園という最高の舞台を目指し、一球一球、一瞬一瞬を大切に全力でプレーします。感謝と希望を胸に、『がんばろう日本。がんばろう埼玉球児。』

◇仕上がり絶好調 花咲徳栄

 昨年に続き、Aシードとして入場行進で県営大宮球場の土を踏みしめた花咲徳栄。主将の広岡は「チームの調子は上がっている。エース北川を中心に守り抜き、得点を毎回積み重ねていくような野球を見せたい」と意気込んだ。

 昨夏は決勝でサヨナラ負けを喫し、春夏連続の甲子園出場を逃した。応援スタンドで決勝の戦況を見つめていた北川は「昨年のような夏にはしない」と断言、「仕上がりは絶好調。今は試合のことしか考えていない」と既に臨戦態勢だ。

 広岡は「1勝に懸ける覚悟がチームに浸透している。今年は先輩の分まで何があっても優勝する」と闘志を燃やしていた。

◇最強の挑戦者堂々 浦和学院

 春夏連続の甲子園出場へ、5年ぶりのDシードで臨む浦和学院。威風堂々とした行進から夏へ臨む強い決意がにじみ出た。

 選抜大会は初戦で敗れ、気持ちを引きずったまま迎えた春季県大会は3回戦敗退。ただ主将の小林は「課題が見つかり、やることが明確になった」。例年より夏までの期間が長い分、練習試合が多く実施でき、練習もみっちりと積めた。練習中、ミスしても下を向く選手が少なくなったという。

 一昨年、昨年は春の関東大会を制しながら甲子園出場を逃している。背番号10の佐藤は「夏に全国制覇する気持ちで練習してきた」と力を込める。最強のチャレンジャーが、一戦必勝で春の忘れ物を取りに行く。

◇連覇誓う 本庄一

 先陣を切って入場行進した本庄一。きれいに整備された県営大宮の芝と土を最初に踏むのは昨年王者だけに許された特権だ。

 優勝旗を返還した主将の岡野は「試合がすごく楽しみ。また優勝旗を取りに来たい」と意欲満々。昨年はリリーフで甲子園のマウンドに立ち、今年は背番号1を背負う左腕設楽は「甲子園で投げた経験を生かして少しでもいい投球がしたい」と試合を待ち望んだ。

 甲子園でセンターで先発出場した田村は「去年は先輩にいい経験をさせてもらった。後輩にもいい経験をさせて、来年につなげられたらいい」と大会連覇して伝統をつなげていくことを誓った。

◇別練習でもチーム一丸 幸手・幸手商合同チーム

 胸にはローマ字の幸手高と、漢字書きの幸手商高。二つのユニホームの合同チーム「幸手・幸手商」が胸を張って行進した。前日に行進練習をしてきたといい、主将の大沢は「イチ、ニ、イチ、ニとリズム良く行進できた。選手宣誓を聞き、感動しました」と、落ち着いて開会式に臨めた様子。

 2013年に統合する両校。登録部員13人の内訳は幸手10人、幸手商3人。合同練習は土日と祝日のみで、あとは自校のグラウンドで別練習を積み、この夏を迎えた。

 「(合同練習で)顔を合わせるうちに気心はしれてきた。学校が違うことに問題はない」と主将。

 エースの当麻は幸手高、女房役の捕手広瀬は幸手商に通う。連日ペアで投球練習とはいかないが、広瀬は「チーム一丸となって初戦突破」と目標を語る言葉に一層、力を込めた。

◇初心で「泥くさく」 桶川

 春季県大会で初のベスト4に入り、初のBシードを獲得した桶川。主将の針谷は開会式のムードに、「徐々に実感が湧いてきた。いいテンションで迎えられる」と充実の表情を見せた。周囲からちやほやされるというが、「意識はない。自分たちの野球を心掛けている」と平常心を貫く。

 今大会では追われる立場。各校とも力を付けており、それ以上が求められる。針谷は「春と比べてメンタル面と状況判断能力が成長した。“桶高”らしく泥くさくやりたい」と初心に立ち返った。

◇悲願へ気持ち新た 浦和実

 9年ぶりBシードの浦和実が悲願の初優勝へ挑む。主将の上地は開幕の雰囲気を肌で感じ取り、「やっと始まったなという思い。自分たちは最後の大会なので悔いを残さないようにやりたい」と気持ちを新たにした。

 チームは左腕早川、右腕鈴木の両2年生を中心に、中軸の3年生がバットで支えていく。上に行けば行くほど試合間隔が短くなり、両投手にかかる負担も大きくなることが予想される。上地は「打線が早川と鈴木を楽にしてあげたい」と頂点へのポイントを挙げた。

◇伝統校の重圧 ナインは冷静 上尾

 春季大会準優勝で24年ぶりに関東大会に出場した上尾がAシードで大会に挑む。主将の新井は「関東大会でチームの足りない部分を思い知った。今までやってきたことをグラウンドで発表するだけ」と力を込める。

 出場校の大トリを飾る堂々の入場行進。27年ぶりの甲子園出場に伝統校への期待は高まるが、ナインは冷静だ。新井は「春にできなかった、先行されても食らい付く我慢の試合が目標。最後のチャンスに懸けたい」。

 三塁コーチを務める森は「自分は常にホームを狙う。ここ一番の勝負でも、走者を思い切って本塁に突っ込ませたい」。目標は優勝の2文字だ。

◇緊張せず伸び伸び 司会の山根さん(浦和一女)

 開会式の司会を務めたのは浦和一女3年で、アナウンス同好会の山根瑠利子さん。昨年11月の放送コンクール県大会で優秀賞を受けたことで大役に抜てきされ、透き通るような声を球場に響かせた。

 山根さんは「同好会の先輩と同じ役目を引き受けることができた」と満面の笑みで話す。開会式では緊張はせずに伸び伸びとした気持ちで臨めた。ゆっくりと話し、観客にも聞き取りやすいように心掛けたという。

 開会式を終えて「楽しかった。スタンドから頑張れ、と声を掛けてもらえ、やる気がわいた」と終始笑顔。「球児たちは努力と汗が光るイメージ。全力で頑張ってほしい」とエールを送った。

◇息ピッタリ 重責果たす

 場内アナウンスの大役を果たしたのは市川越野球部マネジャーの神田桜さん(18)と千葉春菜さん(18)。3年の2人は「責任重大なので、とても緊張した」とアナウンスを終えて、ほっとした表情で話した。

 期末テストのために、事前練習ができなかったが「とにかく言い間違えだけはしないように心掛けた。そのために、自宅でも練習して本番に備えました」と神田さん。千葉さんとの息もピッタリで、選手たちが入場行進するのに合わせ、しっかりと学校名を読み上げた。

 同校の初戦は13日で「みんなを信じて頑張ってもらいたい」と選手たちにエールを送った。

◇県高野連、開会式で募金活動も

 開会式は、間もなく4カ月がたつ東日本大震災からの復興を意識したものとなった。

 入場行進を先導する大会旗などの前に、「がんばろう!日本」と書かれた水色の横断幕が登場。朝霞のマネジャー5人が前向きで掲げて列の先頭を歩いた。

 県高野連は県営大宮球場内の4カ所で募金活動を行った。春日部の選手6人なども呼び掛けに参加し、計23万3641円が集まった。

 高間薫・県高野連理事長は「一般の方が趣旨に賛同してくれて、高校野球はある意味で公共事業だという印象を持った。あれだけ集まってうれしかった」と感謝した。

 また、県高野連は別途、岩手、宮城、福島の3県の高野連に各100万円ずつを直接寄付した。

◇さいたま川通小・利根川君が始球式

 「ストレートでストライクを狙った」と元気に話すのは、さいたま川通小6年生の利根川稜侑君(11)。少々上ずったが勢いある球がミットに響き、見事に開幕戦始球式の大役を果たした。

 本番に向け練習に付き合った父親の孝義さん(39)も「上出来」とにっこり。利根川君は現在、春日部市の少年野球ヤングタイガースで二塁手を務めるが、投手をやりたいという気持ちが膨らんだよう。「高校まで野球を続け、このマウンドに帰ってきたい」と笑顔が弾けた。

(埼玉新聞)

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