【写真】浦和学院-鹿児島実 初戦敗退で悔し涙を流す浦和学院の選手たち=27日午後1時45分ごろ、甲子園球場(埼玉新聞)
(27日・甲子園)
第5日は1回戦3試合を行い、昨秋の関東大会覇者の浦和学院は九州大会優勝の鹿児島実に3-5で逆転負けした。
鹿児島実は春夏通算30勝目。今大会の九州勢4校はいずれも2回戦へ進んだ。出場した九州勢が全て初戦突破するのは1993年の第65回大会以来。
21世紀枠で春夏通じて甲子園大会初出場の城南(徳島)は竹内の3ランなどで昨夏4強の報徳学園(兵庫)を8-5で破る殊勲の白星を挙げた。
昨夏準優勝の東海大相模(神奈川)は中国大会優勝の関西(岡山)を投打に圧倒し、9-1で快勝した。
第6日は東日本大震災の被災地から出場の東北(宮城)が1回戦最後の試合で大垣日大(岐阜)と対戦する。
◇浦和学院一歩及ばず 被災選手も全力プレー
第83回選抜高校野球大会第5日は27日、甲子園球場で1回戦3試合が行われ、6年ぶり7度目出場の浦和学院は鹿児島実に3-5で逆転負けした。昨秋の関東大会と九州大会の王者同士の一戦は、がっぷり四つに組んだ好試合となったが、浦和学院はあと一歩及ばなかった。
四回に3-2と逆転した浦和学院だったが、エース佐藤拓也投手が五回無死満塁からタイムリーを浴びて2点を失い、六回にも追加点を許した。打線は五回以降も好機をつくったがあと一本が出ず、八回は無死一、三塁を生かせなかった。
東日本大震災の影響で一時開催が危ぶまれた今大会。浦和学院の選手たちも「被災地に勇気と頑張るエネルギーを届けたい」と大会に臨んだ。チームは地震が発生した11日、沖縄遠征中だった。地震の影響で飛行機が飛ばず滞在は16日まで延びた。
自宅が被災した選手もいた。佐藤投手の出身地、茨城県鹿嶋市は津波の被害に。自宅は屋根瓦が落ちた程度だったが、父勝美さん(46)の勤務先は、ビルの1階部分が水に漬かり、車が流された。佐藤投手は「こういう状況でも野球ができることに感謝して全力プレーをしたい」と大会前に誓った。
茨城県古河市出身の笹川晃平選手の実家はブロック塀が崩れた。直後から停電になり、母美加さん(39)ら家族3人は真っ暗な中で一晩を過ごした。仙台市にいる中学時代の友人とはいまだに連絡が取れていない。笹川選手は「その人たちの分も頑張りたい」と話していた。
新潟県柏崎市出身の石橋司選手は中越地震、中越沖地震を経験。中越地震では祖母の家が崩れ、建て直さざるを得なかった。石橋選手は「被災者の方々の気持ちが分かる。少しでも勇気が与えられたら」と語った。
今大会のスローガンは「がんばろう!日本」。試合には敗れたものの、ナインはさまざまな思いを胸に一球に食らいつく姿勢、諦めない気持ちを持って全力で戦い抜いた。
◇悔しさ胸に誓う成長
掛け違えたボタンは最後まで元に戻らないままだった。昨秋の関東、九州王者がぶつかった1回戦屈指の好カードは一進一退を繰り返す緊迫した展開となった。しかし、どこかちぐはぐしていた浦和学院は勝負どころで力を出せず鹿児島実に逆転負けした。
「バッテリーがなかなか自分たちのペースにできなかった」と敗因を語る森監督。昨秋の大会で防御率1・13と抜群の安定を誇ったエース佐藤はこの日、全くの別人だった。
直球がシュート回転した上、高めに浮き制球できない。7四死球と本来の投球は影を潜めた。焦りがあったのか、暴投3、捕逸1とミスを連発。フィールディングの良さに定評のあった佐藤はバント処理ミスなどさらに2失策を重ねた。
「自分でリズムをつくれず、ミスをして落ち着けずプレーをしてしまった」と佐藤。3-2で迎えた五回、自らの失策などで無死満塁のピンチを招き、鹿児島実・揚村に逆転の2点タイムリーを浴びた。
それでも佐藤は不調ながらも粘りを見せ、試合を壊すことはなかったが、エースを援護したかった打線は終盤、ここぞで適時打が出なかった。逆転された後の六~八回はいずれも走者を2人置きながら無得点。八回は無死一、三塁の好機で日高、遠藤、小林の上位が凡退した。
八回2死二、三塁で空振り三振した主将の小林は「(相手は)後半に制球が定まってきて、思うようにスイングしても当たらなかった」と脱帽。森監督も「安打も重ねたし、バットを振っていけた。ここで一本出ればというところで変化球を捉えられなかった」。自慢のフルスイング打線は空砲になった。
これで2005年春から夏も含め甲子園で5連敗。森監督は「まだまだ未熟だと感じる」と悔しさを抑え、夏までのナインの成長に期待した。
◇直球逆らわずタイムリー 遠藤
脇役がヒーローになり損ねた。いったんは勝ち越しとなる適時打を放った2番遠藤は「(1番の)日高に『俺に回せ』と言って、強気で行ったら打てた」。四回2死一、三塁で外角の直球を逆らわず左前に持って行った。
昨秋の関東大会からスタメンに定着。打率は2割台半ばと高くなかったが、冬場の振り込みで打力もついてきたところだった。六回2死一、二塁では二ゴロに倒れ、「同じような場面で打ち気になってボール球に手を出した」と本来のつなぐ役割を果たせず反省した。
◇攻守で持ち味 存在感を発揮 今栄
敗戦で落ち込むナインの中で、背番号15が攻守に良さを出した。右の代打の切り札・今栄は2点を追う八回無死一塁で出場し右前打。「つなぐ意識と右に打つイメージで打席に入った」とエンドランを成功させ、好機を広げた。
この場面は得点につながらなかったが、そのまま左翼に入り、八回2死満塁のピンチでライナーを好捕。「相手は強打者だったので飛んでくると思い、思い切って取りに行った」。伝令も務めたチームのムードメーカーが一筋の光明になった。
◇先制打で勢いも中盤の好機逃す 主将の小林
わずか2時間16分の中で明暗の両面が出た。主将の小林は先制適時打を放ったが、「(相手投手は)後半に変化球のコントロールがついてきた」と最終的に捉えられなかったことを認めた。
一回1死二塁で中前に先制適時打。三回にも安打を放った。しかし、四回2死一、二塁で二ゴロ、一打同点の好機だった八回2死一、三塁ではスライダーに空振り三振した。
チームとしてもちぐはぐな攻守が目立ち、「守りのミスが攻撃につながってしまった。隙のないチームにしてまた戻ってきたい」と夏の再訪を約束した。
◇狙い球に集中 フルスイング 沼田
主砲の沼田が一打同点となる適時二塁打を放った。三回1死一塁で打席に入ると、左中間を真っ二つに割る鋭い当たりで観衆を沸かせた。「(走者の)小林は足がある。外野の間を抜けるように絶対打ってやろう」と狙い球にしていたスライダーを思い切り振り抜いた。
この試合で両チーム唯一の長打を放ち、自慢のフルスイングの片鱗は垣間見せた。それでもチームの勝利には結びつかず、「いかにチャンスで1本出るか出ないか」と相手との違いを挙げ、試合後は悔し涙に暮れた。
◇親子での勝利 夏にお預け 森監督
森監督親子の春はほろ苦かった。捕手で先発した次男の光司に、父は「下級生の投手なので何とかもり立てて欲しかったが…。落ち着きがなかった」と厳しかった。
2008年夏は長男の大さんが投手で先発したが、初戦敗退した。今回も白星が遠く、光司は「兄には絶対に勝ってくると言ってきたのに、1勝をプレゼントできなくて悔しい。まだ夏にチャンスがあるので、絶対に戻ってくる」と声を震わせていた。
◇“魔物”にのまれたエース
新2年生エースが甲子園の“魔物”にのまれた。右腕佐藤は「落ち着こうと思えば思うほど心が波立った」。制球が安定せず7四死球を出したほか、3暴投でボークも犯した。昨秋は1失策だったフィールディングも乱れ、2失策と悪い部分がすべて出てしまった。
二、三回には新たに覚えた縦のスライダーで三振を奪い、四回には自身最速の137キロの直球で三振を取った。しかし、自ら招いた五回無死満塁のピンチで甘く入ったカーブを左前に運ばれ、決勝2点適時打を許した。
「相手はボールを見極めてやりづらかった。カーブは後半に当たってきて使うのをやめた。右打者の内角の直球が乱れて投げたくなかった」。本来なら特長であるはずの要素がすべて消された。
東日本大震災で実家のある茨城県鹿嶋市も津波に遭い、「被災地にも勇気とエネルギーを与えたい」と期して臨んだマウンドは苦いものになった。「精神的に強くなり夏に帰ってきたい」。入学してようやく1年が経ったばかり。敗戦を糧に夏はさらにずぶとくなって戻ってくるはずだ。
◇ナインのひと言
①佐藤拓也投手
「球自体は悪くなかったが、全体的に甘く入っていた。」
②森光司捕手
「佐藤のいいところを生かせず、自分の情けなさが出た。」
③日高史也一塁手
「打者陣が打ち負けた。負けないように練習したい。」
④遠藤生二塁手
「投打を強化して接戦をものにできるチームにしたい。」
⑤沼田洸太郎三塁手
「好機はつくれたが、かえせるかかえせないかの差だ。」
⑥小林賢剛遊撃手
「佐藤を助けられなかった。自分たちは未熟だと思う。」
⑦荒井大樹左翼手
「この状況でも夢の舞台に立てたことに感謝したい。」
⑧石橋司中堅手
「夏に向けて気持ち、技術でもう一回り大きくなりたい。」
⑨柴崎裕介右翼手
「悔しいが、この負けをプラスにして戻ってきたい。」
⑩中山翔太投手
「食らいついて点を取り返していけたのは良かった。」
⑪笹川晃平右翼手
「憧れの甲子園に感激した。また帰って来たい。」
⑫林崎龍也捕手
「気持ちの差で負けていた。テンポの大切さを感じた。」
⑬浅田龍一投手
「最後まで声を出し、諦めない気持ちは勝っていた。」
⑭松浦光謙投手
「佐藤が苦しむ中で助けられなかったことが悔しい。」
⑮今栄尚人左翼手
「逆転され、負けてしまったことに力不足を感じた。」
⑯村上和広遊撃手
「ここで試合ができ感謝したい。いい経験になった。」
⑰小野達輝中堅手
「試合で助けられなかったので夏にリベンジしたい。」
⑱明石飛真一塁手
「出られるように準備をしていた。また夏がんばる。」
(埼玉新聞)