【写真】「最初の1球にこだわろう」。練習後のミーティングでメモをとる選手ら=浦和学院グラウンドで(毎日新聞埼玉版)
「やっていこうぜ」。外野に横一列に並んだ選手たちが、大声を上げ、一斉に走り始めた。90メートルダッシュを16本。昨秋の神宮大会・準決勝で日大三高(東京)に3点差で敗れたため、通常走る10本に、点差の倍にあたる6本を追加した。負けた悔しさを体にたたき込む「負けラン」と呼ばれる練習メニューだ。
スタート地点に戻るまでの短い間、選手たちは敗戦の悔しさを吐き出す。「負けないくらい力付けようぜ」「絶対に借りを返す」。時には、選手同士が互いに思いをぶつける。「お前には絶対負けない」「今度は背番号『1』つけるぞ」
43人の部員が、グラウンドで思ったことを伝え合う。
甲子園出場過去16回を誇る浦和学院野球部を支えるのは、「猛練習」と「思ったことを素直に相手に伝える雰囲気」だ。チームの雰囲気が変わったのは昨年8月。全国の強豪校を相手に、1日2試合の練習試合を連日組んだ。その数は、41連戦となった。
荒井大樹外野手(2年)は、昨夏の新チーム発足直後の様子を「仲間への声掛けもできなかった」と言う。昨年は春の関東大会を優勝したものの、夏の県大会は準決勝で本庄一高に1-4で敗れていた。
新チームメンバーのうち、レギュラー経験者は小林賢剛主将(2年)ただ一人。中村要コーチ(37)は「経験者が少ないチームでどう戦うかが課題だった」と振り返る。
41連戦では先発投手さえ定まらず、体力的にも厳しい戦いが続いた。その中で毎日、選手同士が話し合い、「思いやりを持って言葉をかけよう」「技術は未熟。『勝ちたい』というがむしゃらな思いを大切にしよう」と決めた。それから仲間のプレーに対する声かけも増えてきた。
「猛暑の連戦で絆(きずな)が強くなった」と荒井外野手は話す。横浜高、東海大相模高という強豪を次々に破って優勝した昨秋の関東大会。荒井外野手は「ピンチでもみんなで声をかけ合い乗り越えられるようになった。チャンスのときも気持ちを一つにして得点に結びつけられるようになった。そして、一緒に勝ちを喜べるチームになった」と笑った。
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第83回選抜高校野球大会の入場行進曲は、男女3人グループ「いきものがかり」の「ありがとう」。6年ぶり7回目のセンバツ出場を決めた浦和学院のナインは、猛練習に鍛えられ、仲間や周囲の人に支えられてきた。選手たちの「ありがとう」をリポートする。
(毎日新聞埼玉版)